第十ニ話 加藤と中島
今回は忍び回です。この小説は軒猿のことを伏嗅と呼称しています。
さて、訓練をする前に、景虎と共に加藤段蔵に会うことにした。
別の部屋へと移動し、加藤段蔵を待つ。
少しすると、二人の男が入ってきた。
片方は目付きが悪く二十代後半くらい、もう片方は髭を生やした四十代くらいだろう。
その内若い方が最初に声を掛けてきた。
「松尾殿、某は中島と申す者。越後国伏嗅衆の頭領をしております。次の戦にて松尾殿の指揮下に入らさせていただきます」
中島さんは挨拶をすると、隣の加藤段蔵であろう人を睨む。
一方その人は中島さんの睨みをものともせず飄々とした口調で、
「拙者が、幻術侵入なんでもござれ、常陸国は茨城群出の加藤でござる。この度の申し出、拙者にとって幸福の極み。ぜひ松尾殿の元、技を奮わせていただきたく思う所存」
演劇がかった感じで頭を下げた。
その様子に中島さんが景虎に、
「景虎様、よいのですか? この者を松尾殿に仕えさせても···」
「···ああ···十分考えた結果大丈夫であると判断した」
「しかし···」
「くどい。中島、そなた考えも理解できる···もし、加藤が裏切るような振りを見せたら遠慮なく斬るがいい」
「···宇佐美様より、松尾殿も裏切るような振りを見せたら斬れと、仰せつかっております」
「それも含めてだ···そこはそなたに一任する」
「はっ!」
そんなやり取りの後、景虎は段蔵さんに向けて、
「加藤、もしそなたが景亮を傷付けるような真似をすれば、私自らがそなたの首、刈り取ってくれよう。肝に命じておけ」
そう念を押す。その言葉に加藤さんは、
「分かっております。その様なこと絶対に致しませぬ。私が身の危険を感じなければ···ですがな」
命のやりとりなど屁とも思ってないかのような顔で答えた。
「···景亮。何かあればすぐ、私か義守か中島に言え」
心配そうにこっちを向く景虎。
「そんなピリピリしなくても···大丈夫だって! ね、加藤さん?」
「さよう。松尾殿の方がよっぽど肝が座っておられる。我らにとって重要な物はご恩と奉公···報酬と信頼には必ず答えましょうぞ」
「ぜひよろしくお願いします、加藤さん」
「かっかっか! 段蔵で結構。こちらこそ宜しく頼み申しあげますぞ、松尾殿。呼んでくださればいつでもどこでも現れますゆえ、存分にお使いくだされ」
「ちょっと考えてることがあるんだ。後でまた呼ぶよ。もちろんその伏···なんとかって人達も」
「伏嗅でございます松尾殿。これよりしっかり覚えてくだされ」
「すみません、もう忘れないです。伏嗅ですね」
「はい···では早速、我らに指示を」
どうしよう···何をしてもらうか考えてなかった。
「景亮、言っていただろう? 向こうの兵糧の在処が知れていなければ、入り込むことも出来ないぞ?」
「あー、んじゃそれをやってもらおうかな?」
「はっ。早速向かわせます」
「調べた結果は俺と景虎の両方に知らせてください」
「はっ···ではっ!」
そう言うと、中島さんは部屋を出ていった。
「では私はどうしておればいいのですかな?」
「お前の配下だ。好きに采配してよい」
うーん。んじゃいくつか作って欲しいものがあるからそれ頼めばやってくれるかな?
「爆発の時間を好きに調節できる設置型のものって作れる?」
「それくらいであれば大丈夫でございましょうな。火縄で火薬に触れるまでの時間をずらせばよいのですから」
「んじゃなるべく多く欲しいんで一月でお願い」
「爆発するまでの時間はどれくらいがよろしいですかな?」
「うーん。その場所から逃げるくらいの時間は当然欲しいし···」
「ではこちらで考えておきましょう」
「うん、よろしく! 景虎、加藤に部屋をくれる?」
「···いいだろう。別の者に案内させる」
「ありがたく」
そう言って加藤は頭を下げる。
「あと、俺の寝泊まりする部屋も欲しいんだけど···流石に」
「あぁ、そういえば無かったな。もちろん、では私の屋敷の部屋を1つ貸し与えよう」
「うん、ありがとう。それじゃ俺も行くよ···これから馬に乗る修練の時間だ」
「あぁ、分かった。ではこれで解散とする」
そう言うと景虎と、別の刀を持った兵が来て、加藤を連れていった。
んじゃ俺も向かおうかな···
とりあえず一番重要な体力作りのためにも走って昨日の場所へと向かうのだった。




