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ブサメンガチファイター  作者: 弘松 涼
第一章 新たなる人生の幕開け
6/78

6 案内人

 誠司さんは、テーブルの上に地図を広げて一点を指差している。

 そこは、この近くにある洞窟。


「もっとこの街を探検して遊びたいです」と、のたまうお嬢様を押し切って、「今日のうちに行ってみようよ」と言っている。


 いい判断だと思う。

 金はもう一つの寿命だ。

 出来る事は、早い段階でしておくべきである。 



 俺はその様子を遠巻きに見ていた。

 例によって誠司さんが話の輪に誘ってくるのだが、何度も言うけどこういうのは苦手なんだ。


 そんな俺達のテーブルに、背が高く筋肉質で髭面&強面こわおもてなおっさんがやってきた。

 ひさしが長くて青い帽子は、まるで海賊さながらである。


「おめぇら、アルガの洞窟に行くのか?」


 誠司さんはうなずく。


「おめぇら初めて見るつらだな。こっちには来たばかりなんだろ? あ、俺は恭志郎きょうしろう。おめぇらのような初心者にガイドして回っている」


 俺も怪しいだろうが、このおっさんも十分あやしい。

 恐らく誠司さんもそれは感じているのだろう。

 頷いたのは最初の一回だけだった。


 用心深い誠司さんに、恭志郎氏はニヤリと笑う。


「これ知っているか?」

 バッグから、若葉マークのワッペンを取り出してみせる。


「これをつけて宿屋にチェックインすると、初心者は初回のみ1割オフになるんだ。最初のログハウスにあるんだが、大抵のプレーヤーは見落としてしまっている。どうやらおめぇらも見落とした口なんだろ?」



 お嬢様が「しまったぁ! 損しちゃいましたぁ!」と喚きだす。


 恭志郎氏は、またニカリと笑って、

「大丈夫だ。俺がここの宿に話をつけておいた。もしかして、こちらの団体さんは初心者かもしれねぇって。今からこれを持って行ってこい」

 そういい、フロントの方をクイクイと指差す。



 聖華さんは、疑うという事を知らないのだろうか。若葉マークのワッペンを受け取るとフロントにダッシュ。

 じきに帰ってくると、手を広げて5riraと書かれた4枚の銀貨を見せる。

「みなさんのも返金してくれました。恭志郎さん、親切にありがとうございます」



 恭志郎氏は、

「実は俺、この仕事をタダでやっちゃぁいねぇんだ」


「それ、どういう意味なのですか?」

 急にお嬢様は不安そうな顔つきになる。


「あ、変な意味じゃねぇよ。今のアドバイスはタダでいい。俺が言いたいのは、俺を雇わねぇかって事だ」


 お嬢様はホッとした表情で、「なるほど、そうでしたか。私はお金持ちですから」と胸を張って言う。

 あんた、大丈夫か!? と突っ込みたいが、まぁ彼女らしい。


 

 それよか恭志郎氏だ。

 彼は本当に初心者ナビの仕事で食っている人なのかもしれない。

 だけど、そういう肩書を名乗る初心者専門の追いはぎの可能性だってある。

 

 ただ一つハッキリと言えるのは、聖華お嬢様の安易な行動で、ここいるメンバーが無知な初心者パーティだとばれちまったことだ。



 初心者狙いは容易な分メリットが少ないように思えるが、何も奪うモノは金品だけではない。

 この世界に奴隷という概念があるのなら、弱いうちにかっさらって売り飛ばすことだってできるだろう。


 それにこのパーティのうち二人は女性なのだから、ロクでもねぇ悪党なら色々してくるはずだ。

 まぁ俺がそれをすると、『無限の苦しみ × 四散 = デッドエンド』だが。




 強烈なトラウマがあるから、いつもそういう目で人を疑っちまう。

 つくづく嫌な性格だと思うが、異世界というサバイバルで生き抜くのならこれくらいの用心は当たり前だ。


 とは言っても俺は絶対神だし、たぶん恭志郎氏に負ける要素は皆無の気がする。

 だからこの判断は、誠司さんに任せようと思う。


 


 そうそう、今朝の実験の続きなんだけど――

 自分がどれ程強いのか、城の外へ出て確かめてみたのだ。

 

 

 そこら辺の木より遥かに巨大なオーガを見つけたので、殴らせてみた。

 まったく体力が減らない。

 

 

 杖スキルの最終項目に『ファイナル・ディスティネーション改2』ってのがあったので、杖をオーガに向けてそいつを試し撃ちしようとした。

 

 そうしたら、赤いウィンドが俺の前に現れて、そこにはデカデカと『警告』と表記されてあり、続いて以下のような文章があった。

 

 

 この場所で『ファイナル・ディスティネーション改2』を発動させると、イリアの街を中心に半径200キロ圏内が跡形もなく消滅しますが、本当によろしいでしょうか?

 想定死亡数:1,521,851人

 

  Yes ・ No



 その下に更に文言がある。

 

(上記の現象は、魔力65535の場合です)


 俺の魔力は1兆。

 『ファイナル・ディスティネーション改2』を行使するとどうなってしまうんだ!?


 考えるだけでも恐ろしい。

 即座に『No』を選択した。




 だから目の前にいる海賊風オヤジ、多分敵じゃない。

 恭志郎氏よ。

 もしあんたが悪党なら、逃げた方がいいぜ?

 


 ちなみに恭志郎氏が提示した金額は、120rira。

 それが彼の一日のエスコート代らしい。

 日当、1万2千円か。

 良心価格だと思う。



 でもお嬢様、早まるなよ。

 もしそれをあんたが支払ったら、あんたの寿命は1日になっちまうんだぞ?

 ニコニコしているけど、あんたの置かれた現状をマジで分かっているのか???

 

 海賊風オヤジを雇うにしても、支払いは誠司さんかロリっ子にさせとけ。

 

 

 散々悩んでいた誠司さんだったが、

「確かに情報と時間を金で買うのは得策だと思う。知らないという事は、それだけで不利な状況を生むからね。お金は僕が払うよ。もちろん支払は仕事の後。成果報酬でいいよね?」

 

 そう言うと、誠司さんは恭志郎氏に握手を求める。

 恭志郎氏はニッコリ笑って誠司さんの手を握る。


 交渉は成立したようだ。



 情報を買うか。なるほどね。

 俺だったら、杖を天に向けて『ファイナル・ディスティネーション改2』をぶっ放して、散々脅した後、ねほりはほり聞き出すことができるけど。

 みんな喜んでしゃべってくれるだろう。

 

 

 

 恭志郎氏は「準備をしてくるとからと30分くらい待っていてくれ」と言い、一旦姿を消した。



 待っている間も、三人は雑談を続けている。


 よくもまぁそんなに会話が続くな。

 そういう俺も、昔は雄弁にしゃべれたのだが……



 そんな具合で距離を置いて見ていたのだが、誠司さんはしつこいくらい会話に入るようにと誘ってくる。

 誠司さんの横に座ってはみるものの、何をしゃべっていいかよく分からん。

 あんまり見られると、緊張して腹まで痛くなる。絶対神なのに情けないかな。

 


 仕方ないので、遠い昔の記憶を引っ張り出してみる。


 ――飛び込み営業の時、俺、どうしてったけ?


 いつも本題に入る前に趣味やら特技やらを聞いて、どういう趣向の人物か探りを入れていたな。

 


「みなさんは、ここに来る前は何をしていたのですか?」


 

 さっきまで穏やかだった空気は、一瞬で凍りついた。


「しげるさんっ!」お嬢様に一喝される。


 言った俺も、すぐに失言だったと気づかされる。

 

 そりゃそうだ。

 ここにいる全員、何かのトラブルに巻き込まれてこの世界に来たのではない。

 そういった仕草が、まったく見受けられなかった。

 それどころか、この世界を楽しもうとしている。

 誠司さんもだけど、お嬢様なんて「修学旅行じゃねぇんだぞ!」と怒鳴り付けたくなるくらい、うかれている。

 もし不慮の事故で転送されたのなら、普通もっと困惑するだろう。

 俺だったら現実が飲み込めず、発狂しそうなものだ。

 

 

 つまり自らの意志で、最初の人生を捨てた。

 俺達は、最初の人生から逃げてきた――世知辛い現代社会では負け組と蔑まれている存在。

 

 

 皆、暗い顔で俯き、口を閉ざし俯いている。

 

 雑談なんかに入るんじゃなかった。



 重たい沈黙を破ったのは、誠司さんだった。

「いや、いいんだ。僕の事、みんなには話しておこうと思う。こうやって仕切っている人物が何者か分からないと不安だと思うから。

 僕は二回負けた。この天から与えられた三度目の人生に、すべてを賭けている」

 

 

 誠司さんは顔の前で両手を組むと、柔らかい笑みを作る。

 その落ち着いた物腰は、とても一六歳の若造とは思えなかった。

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