御出迎え その3
異能力者というのは異能力の持ち主で、《《一般的な人にはない能力を使える》》というのが暗黙の定義となっている。
遥かな昔、神話の時代には亜人と呼ばれる獣人がいたといわれている。現代においてはもちろんいない。
だが、ときおり動物のような特技レベル(鼻がよくきくとか、夜目がきくあたり)から特殊能力レベル(5分くらい水中にいられるとか、3メートルくらいジャンプできるとか)の身体能力の持ち主がいる。
それらは揶揄をこめて人外扱い、つまり亜人の子孫だといわれ、それが異能力者という蔑称となったのだ。
オレが異能力に目覚めたのは10歳の時、事故にあったからだ。
天涯孤独になったこともあって、親代わりとなってくれたギルマス夫婦は能力を隠すように育ててくれた。
なので、人前で使うことなく、他人と比較されることもなかったので、大きなトラブルもなく成人まで過ごした。
そして能力を活かし、ギルドで冒険者としてやってきた。
ところが1年近く前、亜人そして異能力者に会ってしまい、この世に本当に実在することが分かってしまった。
「ボゥロ、その後ジョンについて何か分かったか?」
初めて会った異能力者ジョンは快楽殺人者だった。
ダンジョン攻略パーティーに潜り込んでは、何十年もメンバーを全滅させることを、秘密裏にやってたイカれたヤツだ。
カメレオンの能力を持ち、アンとボゥロとディフィそしてオレもコイツに殺されそうになったが、オレが倒し、結果的にこの世にいなくなった。
ずっとだまっていたオレに、突然話しかけられてちょっと驚いたようだが、少し考えてから話しはじめる。
「正直あまりわかっていない。快楽殺人者らしく自分の殺害記録を残していたのはわかっている。
ただそれらは警察が押収してしまったので、その先はわかってない。ディフィ、何かきいてないか」
ディフィは元警察官だ。ひょっとしたらと、オレも期待する。
「はっ、アテにしてもらってもダメだね。辞めてけっこう経つから同期とも疎遠になってるからね」
「元旦……じゃない、パートナーだった方からは訊けないのか」
ディフィの元結婚相手は現役の刑事だ。《《性》》格の不一致で別れてしまったが、向こうはまだ未練があるときいている。
「それこそ無理無理。会えばまた、どうして離婚したか訊かれるんだし、よりを戻さないかと言われるから会いたくない」
断固として拒絶すると言わんばかりの勢いだったので、これ以上訊くのはオレもボゥロも諦めることにした。
「……ただ」
「ん?」
「このあいだ会って話したんだけど、妙なことになっているらしい」
「妙なことって?」
ディフィが近寄ってきて小声で話す。
オレ達も顔を近づけて聞き耳を立てる。
「プルーンって聞いたことある」
「フルーツのか」
「そっちじゃなくてイーストリア連邦の特務機関の方。その存在自体、あるかどうか分からない謎の政府機関なんだ」
「連邦警察の公安とか情報機関みたいなところか」
「いや、そことは別の都市伝説的な存在の機関で何をやっているかも分からない。
けど、そこの連中が突然やってきて捜査打ち切りにしたうえに、証拠資料を全部持っていったらしい。
ランス──元パートナーが、いったい何に首を突っ込んだんだって訊いてきてさ、誤魔化すのに苦労したよ」
おいおいきな臭くなってきたぞ、変なことに巻き込まれる予感がする。というかもう巻き込まれているようだ。
「そのことはアンに話したのか」
「ああ。さすがに話しておかないとヤバいと思ったからね。元同僚から秘密裏に教えてくれた体で伝えたよ」
「プルーン……たしか[剪定]って意味もあったな。そこの連中がジョン──というか異能力者の資料を持っていった。……ディフィ、ここの個室席をアンが選んだのは話したあとか」
「そう……だね」
ボゥロとディフィが顔を揃えてオレを見る。
何が言いたいかはわかった。連邦が、国が、オレを狙ってくるかもしれないということか。
イーストリア連邦はその名の通りイーストリア大陸全土にまたがる国だ。目をつけられればどこにも逃げ場がないことになる。
「連中の目的は解らないが、サーチが異能力者だということは隠しておいた方が良さそうだな」
「あたしも同感だ。アンに危害が及ぶかもしれないからね」
「お前も気をつけろよ。なるだけ──じゃない、絶対に人前で能力を使うなよ。俺に危害が及ばないようにな」
「……ウソでもオレのために、って言ってくれよ」
どっちにしろ、わざわざ自分の首を絞める気はない。自分の平穏無事な人生のために隠し通すさ。
※ ※ ※ ※ ※
3日間の列車旅を終えて、大陸中央南部にある中央都市に到着した。
大規模複合施設の駅にはホテルもあり、降りるとすぐにそこの最上階の一室に連れてこられる。
そこにはボゥロ達と同じスーツを着ている初老の男と、似た顔の若い男が待っていた。
「おふたりともお帰りなさいませ。そちらがゲストのサーチ・ヴェルマーク様ですね。はじめまして、アン様付きの執事セバス、こっちがバトラスといいます。よろしくお願いします」
洗練された仕草と口調、スキのない身だしなみ、セバスへの第一印象は「コイツ……デキるな……」だった。
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