第29話 簡単な調査では終われなくなった
〈森には母の木がある?〉
〈無い。我々は、種を蒔くために母の木から離れた一団だった。そして、安住の地としてあの森を選んだ〉
〈母の木が枯れたら、旅立ったのか?〉
〈いいや。まだ枯れていないが、我々が居過ぎては森にとって良くない。だから離れた〉
人口密度が高くなり過ぎたのか。ドライアドの世界も複雑なんだな……
口の中がまだ苦い俺は、ドライアドさんの案内で頂上まで向かっている。ププは俺達と距離を置いてついて来るところを見るに、周囲の警戒をしてくれている様だ。
〈この下が、我々の森だ〉
「……えっ????」
燃やされたと聞いて真っ黒に焼け焦げた光景を連想していた俺は、眼下に広がる森に驚いた。
青々と茂らせた森が広がっている。遠くで鳥の鳴き声も聞こえる。
けれど所々に、綺麗な円形の穴が点在している。合計で4か所。なんだ、あれ。あの箇所だけ綺麗さっぱり木々が生えていない。消えたとも表現できるくらいだ。
単に魔術を放つだけでは、あんな形にはならない。
「魔方陣か」
おそらく発動したのは、光属性の魔術。一瞬で燃えて消し炭になったから、焦げた臭いもあっと言う間に風に消えたんだ。
太陽の光が温かい様に、魔術において特に攻撃系統の光は強い熱を放つ。扱いが難しい上に魔力の消費が激しいので使う人は少ないと聞くが、こんな森の中で何をやっているんだ?
〈森で何があった? ここから見た規模だけなら、森の中でも隠れられそうだ〉
俺はドライアドさんに訊いた。
全員かは分からないが、集団で逃げ出すなんて何かあるはずだ。
〈7割は燃え、消えた。今とは全く違う景色だ。倒れた仲間が突然光り出し、あの円を作り出した。爆発と思われる〉
くそ。妖精の魔力を触媒にして、魔術を発動させたか。
人間種と違って、妖精や精霊の魂は魔力の塊に等しいとされる。触媒にされた妖精は、もう死んでしまっている。一体何をどうやったら、外道な行為が出来るんだ。
〈動ける者達を連れて逃げ出した。なぜ木々がここまで戻ったか、分かるか?〉
妖精や精霊であっても、森を回復させるには相当な時間が掛かる。見たところ魔術で幻影を作り出している感じではない。
ドライアドさん達の母の木は無い。わざわざ消すとなれば、地面に何かあるのか?
「あっ……」
いや、ある。
そうだ。まだ、会っていない。こんなに豊かな森なのに、気配すらない。
〈他の妖精の話を聞く〉
俺は背負っていた杖とリュックを降ろし、地面に魔方陣を描く。
円に三角形を描いた簡単な術式だ。その中心に俺が持って来た飴の入った瓶を置く。
そして、杖を円の中で何度も打ち付ける。
トン、トトンと何度もやっていると、周囲の地面が盛り上がり始めた。
〈ヨンダ。ミミナガ。ヨバレタ〉
〈タイカ。タイカ〉
口から音を出し、其れは答える。地面が盛り上がり形作られたのは、トカゲやサンショウウオに似た精霊達。
ノームだ。
ハーフフットと同じ小柄な長命の人間種。その姿を写し取ったかのような妖精。そして、目の前に姿を現した土の化身である精霊。
ノームは他の属性の精霊に比べて、木々の妖精と関りが強いので話がしやすい。ただし呼ぶ際と願いを聞き入れてもらう為には、対価を支払わなくてはならない。
ドライアドさんがいるから来てくれるとは思ったが、こんなに直ぐに姿を現してくれるとは。彼等もこの事態を深刻に捉えているようだ。
〈知りたい。教えて欲しい。対価はここに〉
杖を突いて、言葉を贈る。
一匹のノームが前に出ると、口を開け、長い舌で瓶を絡め取る。
〈ヨイモノ。アマイモノ。カタイモノ。ワカッタ。オシエル〉
〈ドライアドノミカタ。ワレワレノハミカタ〉
貰うものは貰って全面協力か。無償よりも気が楽だ。助かる。
〈山の下、森の地下には、何がある?〉
〈ゴーレムノユリカゴ〉
予想的中したけど、喜べない代物だ。
このクエスト、星4相当に跳ね上がるぞ。




