第14話 守ってもらえて安全だけど、疲れる
第一階層、芸術品みたいなゴーレムが闊歩する草原。
第二階層、陸上に生えるサンゴと謎の力で揺れる海藻(陸藻?)の森。
第三階層、天上から砂が滝のように降り続ける砂漠と宝石の海。
階層ごとに世界が様変わりする。空気も、湿度も、漂う臭いも、何もかもが違い、俺は現実を受け入れるのに苦労した。
初級も中級も、広大な屋敷の地下を歩いている様なものだった。たとえ植物の生い茂っている階に来ても、上層と共通する石畳やオブジェクトがあり、地続きだと認識できた。
ここは違い過ぎて、現実と夢の境を歩いている様な感覚だ。
見た事のない世界にワクワクする冒険者もいるだろうが、俺は何処を切り取っても危険だと思えた。
「あ、あの……何処まで行くんですか?」
二階層目から手を放してもらった俺は、ラシエラさんの後ろを付いて回っている。
階層ごとに様変わりする魔物達は襲って来ようもののなら、ラシエラさんの無詠唱の氷属性の魔術によって氷塊と化していた。
〈物陰から出現〉→〈氷漬け〉の流れで、こっちもこっちで現実離れし過ぎて、余計に感覚がおかしくなりそうだ。
「第十階層です」
「えっ……浅い、ですね」
最下層が15階である初級ダンジョンよりも、浅い。50や70階まで行くと身構えていた俺は拍子抜けした。
「そうでもありませんよ。今はなだらかな道のりですが、5階層からは崖や谷が現れ始めます。その分階層の規模も広がるので、浅いと感じることは有りません」
「あの……もしかして、この階層ごとの世界って、周期があるのですか?」
崖や谷、と含みを残した言い回しに、俺は嫌な予感がして訊いた。
「ありますよ。ここは、最下層の主の夢をコアが具現化させるダンジョンですから」
ゆ、夢と現実の境って感覚は合ってたのかよ……
「複合型、なのですか」
「そう言えますね」
ダンジョンの誕生には、大きく分けて3つのパターンがある。
一つは自然発生型。洞窟などの魔力の溜まり場に小さな魔物が集まり、それを食べる大きな魔物が、と食物連鎖によって作り上げられたものだ。洞窟の中なら雨風を防げるうえに魔物が濃い魔力に引き寄せられて来るので、無駄な狩りをしなくて良いと亜人種が集落を作りやすい。ダンジョン攻略や調査とクエストが発行されやすいのが、これだ。
もう一つは魔物生成型。ドラゴンのような強力で知能の高い魔物は、呼吸をする様に体から魔力を発生させる。遺跡や山の頂上などに巣を作る彼等は、自然生成型と同じ流れで自らの狩場を作りだす。こちらは、ダンジョンのボスの習性によっては、金目のものがある。ただし、魔物がより多様化するので難易度が跳ね上がる。学者や貴族からの融資を受けやすく、必ず大物が待ち構えているので、あえてこちらを選ぶ冒険者もいる。
そして最後がダンジョンコア型。現在確認されているダンジョンの中で、最も強力であり多くの財宝を秘める欲望の巣窟。ダンジョンコアは、妖精や精霊の類とされる。魔力の吹き溜まりに長い年月をかけて誕生した意志に体は無く、維持するには膨大な魔力と他者の命が必要となる。ダンジョンコアは、地下に蟻地獄のように、あるいは蜘蛛の巣のように領域を広げ、開いた口から他者の望むモノを生み出し誘き寄せる。他者が踏み入り奥地に行くほどに思考を読み取り、欲の具現化は膨れ上がるが、同時に地上への帰還が困難となる。コアは財宝だけでなく、人々が脅威と認識する魔物や罠を生み出し、他者を糧にする為に殺そうとして来るからだ。
ダンジョンコアは領域内を常に移動しているので、破壊は困難だ。ただ、欲深い人間達も馬鹿ではない。領域内から地上へ戻る帰還魔術、死者蘇生魔術の開発を行い、コアの意に反して欲望を喰らい続けている。
まぁ、最初のダンジョンコアが発見されたのが約1000年前で、地上では既に金や銀などを使って経済が回っていたから、豊富な資源として見なされて当然なんだよな。地上や鉱山では限られてもダンジョンでは無制限なら、人間類は食いつくさ。
どちらも良い様に使われている。
…………それで、本題に戻る。魔物生成型とダンジョンコア型を合わせたあのが、この最難関ダンジョンであるとラシエラさんは明言した。
前代未聞と言うか、奇怪なダンジョンを維持し続けるだけの魔力を最下層の主は持っていることになる。けれど、生物なら有限だ。共生関係にあるとして、コアが最下層の主に食糧を提供しているのなら、それを生産する為に冒険者などの命が必要な筈だ。
でも、ここはラシエラさんくらいしか入っていない様子だ。
「間もなく四階層への階段見えてきますよ」
「は、はい」
それか、ラシエラさんの魔力を効率よく吸収しているのか?
あの氷漬けから、とか。
よく分からないが、今は安全と俺の杖の修理を優先しよう。下手に騒いでは、体力が消耗するばかりだ。
考えるのは後でも出来る。




