これまで対これから
「何が、独立戦争の続き、だ!」
クロム王が唇をわななかせる。
「独立などさせん!植民地は一生植民地!ただクロム家に従っていれば良いのだ!」
その姿に、セイロン王は肩をすくめた。
「まったく……、サンデルブルク王が聞いたら激怒しそうじゃの」
「あなたもでしょう、セイロン王。内心ではあの物言いに、はらわたが煮えているくせに」
ライテル国の重鎮が二人、そんな会話を交わす。
その間にも、クロム王の暴虐さは度を超しつつあった。
「お前たち!早くあの者たちを殺して『猟犬』たちを取り戻せ!『猟犬』さえいれば、まだ何とかなる!」
クロム王はそう喚き散らして、私たちの方を剣で指す。
しかし、背後の兵士たちはたじろぐばかりだった。
「しっ、しかし王!先ほどと同じく、我々がアイザックに向かって行っても、まるで歯が立たないと……!」
「そうです王!私たちに死ねと言うのですか!」
「ああそうだ死ね!!」
クロム王が、目を血走らせて叫ぶ。
そして、自身らに向かって死ねと断言した王に、兵士たちは絶句していた。
それでも、彼らは主に従うしかない。
何故なら。
「この場で私に背を向けた者は、この場で私が叩き斬る!お前たちは私の命令をただ聞けばよいのだ!もちろん、アイザックの首を持ち帰ったものには報酬を出す!」
クロム王が、兵士たちにとって四面楚歌の宣言をしたからだ。
彼らは分かっている。誰一人として、アイザックに刃が届くはずがないと。
かと言って、逃げても命はない。
だとすれば。
僅かでも褒賞を得られる可能性がある方へと、彼らは動いた。
「さあ行け!!」
王の号令に、兵士たちは走り出した。
目に涙を溜めながら。
「うああああああああああ!!」
無数の剣が、弓矢が、槍が 私たちに猛威を奮う。
だが。
「ガーネット様。わたくしの後ろに」
アイザックは、まるで傘の中に私を入れるかのようにさりげなく前に出た。
ああ、何も心配することはない。
私には、私たちには、アイザックがいるから。
「ザック────」
信じてる。
そんな思いを込めて、アイザックの背中にそっと手を触れる。
と、アイザックが纏う光の輝きが増した。
鮮烈な赤が、戦場に一点、燃え上がる。
「はあっ!!」
私たちを傷つけんとするすべての切っ先を、アイザックは片手で薙ぎ払った。
死を覚悟しながら、それでも首をとらんとするクロム兵士たちの猛攻を、アイザックは次々といなしていく。
血が舞う。体の一部が空を飛ぶ。絶叫が、耳をつんざく。
アイザックが、数百の兵士に、たった一人で立ち向かうその都度。
きらきら。きらきら。
赤い光の粒が宙を舞う。
それはまるで、数の暴力には屈しないというアイザックの意志を装飾しているようで。
私のアイザックへの愛が、しっかりと彼の力となっているようで。
美しかった。
「わしらの出番はなさそうじゃのう、ガイル」
「是。アイザックは元より強い。迷いのない今、その力は真です。わが王」
セイロン王と、ガイルが背後でぼそぼそと囁いている。
事実、アイザックが一人で全員を相手にしているものだから、せっかく助太刀に来てくれたというのに彼らはアイザックの無双ぶりを見ているだけだ。
それでも、無駄足だったと気を悪くしないでいてくれていることに感謝しかない。
と、そうこうしている内に、辺りがどんどん静かになっていく。
そして遂に、血の海の中で立っているのは、アイザックただ一人となった。
「いい加減、諦めろ」
クロム王に真っすぐに剣を向けるアイザック。
クロム王は顔を真っ青にして、震えていた。
が、唐突に膝を地面に付き、頭を抱える。
そして、吼えた。
「なぜ……、なぜっ、誰も理解しない!!自由を奪い、無理やり従わせることの何が悪い!!国も民も全て、王が、私が楽しむための玩具なのだ!!」
私はじっと、クロム王の言葉を聞いていた。
それから、一歩一歩、踏みしめるように彼に近づいていく。
絶対に、間違っている。
そう思った。
私の人生がそうされてきたから、ではない。
ソフチ国の人々に会った。セントラル国の賑わいを見た。ライテル国の人々の穏やかさに触れた。
誰もが心を持っていて、意志があって、希望を抱いていた。
それを奪う権利は、例え王様であろうとも、無い。
私は、アイザックの隣に並び立った。
「人を、人形のように扱う王様は、この国にはもう要りません」
アイザックも私に続く。
「互いを思いやり、大切にしあってこそ、国は、人は育つもの」
私たちは顔を見合わせ、一つ、頷いた。
そして、声を合わせる。
「かつての人形姫と猟犬が、今からそれを証明する!」「します!」
「な……っ!!」
二の句を継げず、クロム王は口をぱくぱくとさせる。
と、予想外の事が起きた。
「縄を、外してください。異国の王よ」
セイロン王の近くで捕らわれていた猟犬のリーダーが、そう申し出たのだ。
「そんなこと、許すはずがあるか!」
アイザックは、そちらに鋭い目を向ける。
だが、セイロン王はそれを止めた。
「……良かろう」
その返答に、ガイルが即座に動き出す。
猟犬隊員たちを縛っていた縄を解いていく。
「ありがとうございます、セイロン王」
口々に感謝を述べる猟犬たち。
それから彼らは、誰に、何を言われたわけでもなく、剣を片手に構えて私たちの方へと歩いて来る。
「セイロン王……!私たちを裏切るのかっ……?」
アイザックがぎり、と唇を噛み締めて私の前に立ち、いつ襲いかかられても問題ないように構えた。
ガチャ。
猟犬達が、一斉に、剣先を向けた。
クロム王の方へと。
お読み頂き、心から感謝致します。慣れないロマンス(それも溺愛系!)ですが、少しでも貴方様の心を動かすことが出来たのなら幸いです。
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