【28話】幕間・ルキフゲ・ロフォカレさんはベルゼブブさんと何処か似てる
時折自分が嫌になる。
本名を思い出そうと一瞬足を立ち止める瞬間がとても嫌だった。
止めないように努力してもどうしても一瞬止まってしまう。
もしかして本名もうなんてないに等しいのかも知れない。
*
敲音が響いた。
だがその部屋の主は気付かず作業を続けた。
もう一度戸を敲く音。
部屋の主は気が付かない。
次に鳴ったのは―――――
扉を蹴破る破砕音
「ぎゃあああああ!!?」
肩を飛び跳ね急いで背を向けていた戸の方を振り向いた。
「ああすまないね、幾ら声かけても反応しないし此れぐらいが丁度良いかなって…」
部屋に住まう悪魔は驚いた様子で部屋に不躾に侵入してきた者に目を見開きつつ驚いた。
侵入してきた者は扉の枠側に体重を掛ける。
赤くくすんだ髪に炭のように黒い瞳、長身で真面目な青年と云った面立ち。
扉を蹴破った青年からは室内の暗さと深くフードを被っているせいか顔は伺えないであろう。
「べ、ベルゼブブ様……」
「相変わらず暗い所に居るね、光が弱点だから仕方ないんだろうけどさ」
「名が体を表すですよ、光を避ける者、ピッタリな名前でしょう。そうは思いません?」
【地獄の宰相】ルキフゲ・ロフォカレ、ルキフグス
能力:世界中の富と宝物の管理
ベルゼブブはルキフグスの言葉にニヤリと微笑んだ。
ルキフグスがフードを外し姿を表す。
白銀の長い髪に澄んだ水色の瞳。歪んでいる三本の角、耳には耳当てのようなものを装着している。それにより外界の音を遮断していたのであろう。
黒の外套に身を包み光を徹底的に受けないようにと対策をしてある。
「さあ?名が体を表さいない時もゴマンとあるさ」
「………失礼、其れもそうですね」
ルキフグスが申し訳なさそうに一礼し続けた。
「ご要件とは緊急じゃない場合部下のアガレス辺り通してから訪ねて来て欲しい……」
「そうしてもでてこないことが殆どだからこうして直接会いに来てるのよ。君アガレス通しても出てこないでしょ」
「いやぁ………、あのー……えぇ……」
「ルキフゲ・ロフォカレ、君自分の主人の命令、地獄の三大支配者達すらも無視するだろ」
ルキフグスは罰が悪そうに顔をベルゼブブから反らした。
だが勿論のことベルゼブブは止まらない
「確かに君は地獄の中でも私達魔王の次に政治面で偉いのは確かに君さ。地獄の経済面の統治を任せて実際に行ってくれてるのも君、そこはみんな感謝してるよ?でもね、偶には真面目に外に出て仕事してっていう話。」
「うげぇ……厭ですよそもそも地獄に労働基準法無いじゃないですか、残業代も出ないのに……」
「そういう制度作るのが君の仕事でしょ? 人間嫌いなのにそういうのは人間の発想から持ってくるんだね」
「貴方だって同じじゃないですか」
言い返されベルゼブブが少しムッとする。
図星だったからだ。
ルキフグスは自身の実力と立ち位置が地獄内でも頂点位な事を自覚している。だから少しぐらい不遜な態度をとっても何も言及されない事も気がついている。
ルキフグスは再びフードを被り戸、ベルゼブブの方に背を向ける。そして何かを手に取る。
「スマホとか貴方が使えないからって云う理由で普及してないでしょう、電子遊戯とか手札遊戯とかもっと充実させてくださいよ」
ルキフゲ・ロフォカレの実力は六柱の中でも指折り、折り紙付きとなかなかに評されることのある彼だが昔はまだしも現在は娯楽の普及により―――
立派な引籠りへと昇華していた。
元々光が弱点であり室内に籠り気味だったのが影響したらしい。
だが度胸の強さは変わっておらず其れは三大支配者であり地獄で一番の実力に加えて社会的権限を裏から握るベルゼブブを背中に家庭用遊戯をおっ始める程である。
ベルゼブブには今ルキフグスのやっている物など何一つ理解できないがそれでも一つ云える事はある。
「取り敢えず部屋でよう? というか此処の召喚拒否の術式貼ったの君だよね」
「え? あ、はいそうですが」
呆気らかんとした風に云うが悪魔としてはただごとではない事である自覚を持っているのかもベルゼブブには理解出来なかった。
悪魔は人間を誘惑する為にいる。其れはは悪魔の王であるサタンの方針でもあったし実際六柱と地獄の半分はサタンの影響を受けている悪魔であり中世等の時代には多くの世界で悪魔は活躍し伝承の中で語り継がれてきた。
だが此の男はあろう事か自身が居座っている部屋に召喚拒否の呪文が編み込まれた呪符を無数に貼ったり魔法陣を描いたりして何が何でも召喚されないようにしている。
悪魔の中でも異端の異端児。
「もうね、人間達に召喚され脅され能力悪用されるのは御免なんですよ。呪文と杖で何回も脅されるし場所白状ちゃう程サタン様に怒られるしだったらもう極論召喚されなきゃいいんですよ判ります?ええ」
「君は召喚死ぬ程多かったからねぇ結果人間嫌い、引き籠もりかぁ……」
「文句でも?」
「いいや? 取り敢えず君を外に引きづって強制的に仕事をさせる。私は今その意志を確固たるものにしたよ」
ベルゼブブは部屋に侵入。その後ルキフグスの首根っこをフードや髪ごと掴み引きづり部屋の外へとルキフグスを誘う。
だが勿論ルキフグスは無抵抗のまま引きづられることはしない。
地獄の宰相という肩書を胸に反論を始めた。
「嫌です無理です離してください! 力強ッめっちゃ引きづられてる〜〜あ゙あ゙ぁぁあ」
「嫌だよ無理だし離さない、魔法陣にまで呪符貼ってるんだやっぱり」
ベルゼブブがルキフグスの身体に纏っている術式の気配に眉を顰ませた。
実際ルキフグスの身体には歪んだ角一本に呪符、外套の裾近くに魔法陣を隠すように呪符を貼られている。
悪魔は人間界に召喚される場合用いる手段として己の肉体と服装に自身が召喚される際に用いる魔法陣を描く。
フェネクスが帽子に自身が召喚される際に使う魔法陣を描いた紙を垂れさせているのがその一例だ。
「こんな物何処で知ったんだか」
「世界中の宝物を扱ってると呪具扱う事もあるのでそれで……ああ待って!ペリペリ剥がさないで?!」
「良いから行くよ」
「ぎゃああぁ引きづるの辞めましょう!? ねえ、ねえってばぁ!」
*
「……しゅーる、と云うんでしたっけ、此の様な状況を」
「うぅぅ、光が肌を焼く、光が存在を否定し光が此の身を影に追いやり光に全てを否定されるぅ……」
「まあまあ。久しいですねぇ瓢殿」
鹿威しの音がその場の空気を支配した。
光が差し込まないように工夫されてはいるがそれでも無理なのだろうルキフグスは体を丸め譫言を繰り返している。そして逃さないようにベルゼブブが首根っこを掴んだ儘抑えている。
眼の前には戸惑いよくわからない種類の笑みを浮かべている妖怪の総大将である瓢。
「真逆短期間にこうも合う機会が出てくるとは、御要件は聞いております。我々としても大歓迎だという結論に出ました為今後ともその様な良好な中を続けていきたく思います。」
「え? 何な話です? 本当に何み知らない状態で引っ張り出されてきたんですけど」
「矢張りアガレス通しても話来てないか……」
呟きは聞こえずベルゼブブはルキフグスを座らせ話を始めた。
「今の地獄は食料面を人間界の物を略奪という方法で賄っています。其れは勿論知っているよね」
「常識の範囲内ですね、それで?」
「最近はそういうのが出来なくなってきてるの。妖怪との協定で目立てなくなってるのもあるし単純に知能あるだけのクソ猿共が監視強化とか防衛意識上がっちゃって略奪が困難になったのもある。と言うことで先日の百鬼夜行お手伝いを引鉄に妖怪の里で作ってる農作物を輸入しないかっていう話」
「此方としても収入源が増えるなら願ったりですから」
瓢はそう云って頷いた。
包まっていたルキフグスもきちんと背筋を伸ばし話を聞く体制になる。
「成る程……確かにそういうあれは此方の許可アリで行うけど……ベルゼブブ様少し強引では……?」
「ベルゼブブ殿取引内容の書面読み上げたら急にやる気になりましてね、まあやる気なしよりかわ全然いいんですけど」
「書面出して下さい。サインしますから、」
ルキフグスは陰鬱そうな顔を浮かべ瓢に書類を要求する。
「ああそれと童子切も見せて下さい」
「ええ、………はい?」
「模倣品しかないので、一度拝見させて頂く」
ルキフゲ・ロフォカレの能力【世界中の富と宝物の管理】は文字通り世界中の、ありとあらゆる並行世界の富と宝物を間接的に管理する。
全ての埋蔵金や宝石、富とに成る物はルキフグスの監視下にあり管理をし続けている。
その中でも神話上に登場する宝物なども監視対象であり常にルキフグスの手元には管理対象である宝物の模造品が置かれている。
出せる力は元の宝物の五分の三。
例を出すとするのなら彼自身がよく使っている【シャルルマーニュ伝説のアンジェリカの指輪】では元の効力はあらゆる魔法を解除し口に含めば姿を隠せる力を持つ。
彼の持つ模造品では悪魔や天使の力の五分の三を使用不可にし口に含めば長くでは無く時間制限付きで姿を隠せれる等である。どんな神話上の宝物でも彼の手の中。此れによりルキフゲ・ロフォカレは地獄の三大支配者にも善戦できるほどの武力を有している。
「まあ……? 別に大丈夫ですが…傷はつけないで下さいよ、では書面を持ってきますので少々お待ちを」
瓢が言い残しぬらりと姿を消した。ぬらりひょんが持つ能力瞬間移動だ。
ルキフグスの手には瓢から手渡された童子切。
それを興味深そうにルキフグスは眺めた。
「はあ……成る程成る程、矢張り本物と模造品は雲泥の差だ。此の世界では妖怪が所持しているとは又何とも奇怪な」
「他の世界線見た事もあるけど割とない話じゃないよ妖怪切りの異名持ちだからね。他には政府、子孫、妖怪、術師……些細な事で未来なんか直ぐに変わるんだし」
「早々思い出しました、貴方の持つ撃退と追放も見せて頂きませんかね。竜神を討伐したとされるその棍棒を、」
「やだよ、あれ私気に入ってるし」
「減るものじゃないでしょうよ」
「減るわ」
ベルゼブブのツッコミにも動じないルキフグスは堂々と童子切を手に取り眺め続けた。
「矢張り……名刀と呼ばれるだけあって美しい、手入れも頻繁にされているのでしょう状態が平安の代物と感じさせない位素晴らしい。ベルゼブブ様は目が節穴でいるからこの美しさが分かりませんか…」
「事実だけど流石に酷いぞお前」
二人で少し話していれば襖か開く音がした。
即座に二人は理解する。瓢なら瞬間移動で襖を介す必要はない。ならば開いたのは又別の者、
ルキフグスは目を細め軽い戦闘態勢を取る。だがベルゼブブは来客の正体に感づきルキフグスを宥めようとした、が
ベルゼブブは思い出した。今から来るものとルキフグスは明らかに相性が悪いことを。
「失礼するよ。おや、珍しい顔だねベルゼブブ殿に……お隣に座するのは気配からして悪魔かな、」
【陰陽師】安倍晴明
能力:陰陽道、十二天将を従える
全てが抜け落ちたかのような白の髪に黒の瞳。陰陽師安倍晴明公。
体の半分に狐の血が流れている人間。襖から顔をのぞかせた後に此方へと歩み寄ってきた。
「何故こんなに戸締りを……? まるで光を避けてるみたいに……」
晴明公は感がいいのか暗い室内に苦言を呈した。
ベルゼブブは額に冷や汗。
自分はともかくルキフグスに人間を相手させるのは駄目だ。ベルゼブブは人間を常に軽蔑し下等生物と位置づけているがそれは神を軽蔑したり憎む相手、その他一部の人間に向けられる憎悪であり地雷でない神を信じている人間には嫌いという感情はなく希薄。極度に興味が持てないだけ。
そういう感じの彼であるが晴明公はベルゼブブの地雷を踏まない為割と人間の中でも好意的な部類でも合った。努力する者はベルゼブブは割と好きだからだ。
だがルキフグスは違う。全ての人間が嫌悪、畏怖対象であった。
「【示現】! 水晶玉より魔法の帽子!!!」
ルキフグスが唱え自身の黒の外套に手を突っ込んだ。
勿論のことベルゼブブは急いで止める。
「待て待て待て待て待て! 瞬間移動で逃げようとしないの!!」
「嫌だ嫌です嫌なんです!! 脅迫されるー! 所詮人間なんか欲に目が眩んで人を惑わす悪魔以上の悪魔なんだ!! 人の心無いのか! 人だろ君等!」
「遊びに来ただけなのに急に罵倒されてる……?」
「杖は辞めて下さい、勘弁して下さい、もう絞っても滓しか出てこないですから。脅さないでぇ…悪魔を苦しめて何が楽しいんだよ、加虐癖持ち共めぇ…!」
「取り敢えず帽子下ろそうかロフォカレ君、逃げようとしないの!一寸晴明公も手伝って!」
「いや……罵倒で精神が………今は無理です……」
「豆腐精神が、」
ベルゼブブの言葉に更に精神を沈ませる晴明公は膝を抱え蹲っている。
今逃げられてしまってはルキフグスに書面のサインをしてもらえず新たな輸入経路を紡げない。お互い忙しく今日ぐらいしか時間が設けられなかった。だからこの場でサインを貰わなければ次は何時か、出来るだけ早く新たな経路を開拓したいベルゼブブにとってはかなりの危機。
「ロフォカレ君一旦落ち着いて? 大丈夫呪文で脅してきたりしないからね」
「ぅ゙っ脳内に心的外傷が…ッ!」
地獄の宰相ルキフゲ・ロフォカレ。
中世の悪魔全盛期に人間に召喚されまくれ呪文と爆破の杖で脅され泣く泣く人間の欲望の儘扱き使われてきた悪魔。
そのせいで今でも人間不信や人間嫌いが続き見るだけで逃げ出したい衝動が起こる様になっている。
人間を見たことによりパニックを起こす宰相ルキフゲ・ロフォカレ
出る暴言に心を沈ませる大陰陽師安倍晴明公
それを宥めようとする魔王ベルゼブブ
場は最早混沌を極め阿鼻叫喚の厄災。
瓢は襖の前で手を伸ばし場を仲裁するか悩み腕を引きを繰り返す。
書類を片手に少し考え瓢は心の中で結論を出した。
(よし、面倒くさいし置いとこ)
爽やかな笑顔を浮かべ瓢は踵を返した。
―――因みにこの後一応サインは貰えた。
〜小噺の小噺〜
地獄でゲーマー気質なのは何もルキフグスだけでは無い。
「ベルゼブブ様再来月の第二金曜日から月曜日まで有給を頂きたいのですが」
フルーレティがベルゼブブに書面を持ち寄り問いかけた。
ベルゼブブは書面を受け取り頷く。
「良いけど……何か用事?」
「ええ、まあ。FFの新しいのが出るので、徹夜で遣るのも込みでの有給申請です」
「F……F…?」
「抽選も一応してるのですが店頭販売の方が確実ですからね、キチンと店舗からでてる並んで良い時間から並ぶ予定なので始発ですかね……彼処の世界は地獄の門が日本につながっていますしね」
「店頭販売……?で買えるなら抽選で当たっちゃった場合どうするの?」
「その場合は観賞用として保管ですかね、必ず新作は最低二本買うようにしてるので当たるのは全然構わないんですけどね」
「一寸私には未知の世界だな………」
頭を抱えるベルゼブブにフルーレティは優しく声を掛ける。
「大丈夫ですよこの世界に入門するのはそう難しいことではないですが貴方の場合死ぬほど難しかったですね機械音痴」
「優しい声して毒舌だな相変わらず……」
「まあそういう事でお願いしますねベルゼブブ様」
「はーい」
〜小噺の小噺【終】〜
フルーレティが買いに行くFFはこの世界のじゃないです。
別の並行世界のFFでベルゼブブのおかげで色んな世界に行けるので世界ごとに違う様々なゲー厶をフルーレティは所持しています。
故にルキフグスとも話がすごい合います。




