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【バアルの零落物語】  作者: 壱千羽
幕間
28/28

【27話】幕間・フルーレティさんは悪霊退治とか柄じゃない

 


「……」


「ね? お願いだよフルーレティ、迂生(うせい)の顔に免じて頼まれてくれない?」


「うぇえ……、すげえ嫌だ」


「矢張り君は上司と同じく迂生に全く動じないよね」



 呆れを含んだ溜息を吐くサタンに眼の前に立つフルーレティは堂々としている。



「それに彼処寒いでしょう? レティ寒い所無理なので」


「適当にフェネクスでも連れてって良いからさぁ」



 地獄で一番の権力者とは思えない頼み方。だがそれでもフルーレティはシャンデリアの下、光を浴びつつ冷静に反論をする。


 フルーレティは急遽サタン王に呼び出され執務室まで訪れていた。



「じゃあ話の最初に戻りますがこういう仕事は大体タルキマチェの仕事ですよね。レティはベルゼブブ様の身の回りの世話や事務的仕事、その様な仕事はしない立ち場なのですが」


「良いじゃない偶にはさ。タルキマチェには大事後と頼んだばかりだし」


「いや、あ、えっと、レティベルゼブブ様の御世話とかしないといけないので……」


「大丈夫だよきっとタルキマチェが喜んでやってくれるよ」



 フルーレティは思う。


 こういう出張系の仕事は面倒くさいからやりたくない、と。



 そう、此の男がこれ程までにサタンの頼み事を断るのは面倒くさいからの一つである。



「実の親の云う事だよ?」


「それ云ったら地獄の五割程度当て嵌まりますよ」


「良いじゃん別に、ただ悪霊の討伐じゃないか」


「レティの能力戦闘系じゃないしレティ自身も戦闘に長けているタイプではないのですが……」



 そんなフルーレティの引きにもサタンは大丈夫と云い腕に巻き付いている蛇とともに微笑む。



「悪霊と云ったってどうでも良い未練を持って漂うだけのしょうもない奴ら、君は腕良いから信用してるんだよ? だからこそのお願いさ」


「……貴方もお人が悪い、レティは一度決めたことに至っては最後までやり遂げる性格なので」




「ボーナス弾むよ」




「………………………………、」



 *



 謎だこう人を誘惑する側の悪魔が誘惑に負けてるんだ?


 まあ今に始まった話じゃないし一旦置いとくとして。



 矢張りコキュートス、トロメアは寒い。

 暖炉係を連れてきてよかった。



「あの…フルーレティさん?」


「はい、何でしょうかフェネクスさん」



 フルーレティは後ろに続き歩いていたフェネクスに振り向く。


 耳当てに手袋、綿を詰めに詰めまくった上着。息は白く彩られそれにより片眼鏡(モノクル)をつけた方の目は軽く視界不良になっていた。


 フェネクスは自身の炎で体内を温められるからか何時もの黒の軍服を身に着けていた。加え黒の防止の鍔にはフェネクスの召喚する魔法陣のようなものが描かれている紙で顔の右半分を隠している。



「……私要りました?」


「勿論、レティの暖炉係として要りますよ。何を莫迦なことを……」


「何方かと言うと莫迦は貴方の方では?」



 冷寒地獄ともいえるコキュートスの中ではフェネクスの猩々緋色の髪を見るだけで心が少し暖かくなる。目は寒色系のくすんだ青なので暖かくはなりませんが。


 だからフルーレティの服装も暖色系等で揃えたの準備したのだ。



「レティだと火力不足の可能性大なので」


「いやいや相性悪いでしょう私達。まあ雹より炎のほうが有効だというのは判りますが」



 そう今回の任務は至って簡単。


 トロメアで度々起こる悪霊の肉体乗っ取りの対処である。



「悪霊の頭はどうしたんですか? 貴方の上司の」


「ベルゼブブ様は人間界の任務で憔悴している最中なので、其れに【穢れ】の貯蔵問題も有りますしあの莫迦にも頼めない…かと云って月一のこれ放って置くと取り憑いた悪霊が何をしでかすかわかったものじゃない…」


「適材適所というやつですね、私もサタン王に命じられたからにはやりますが……勝手が分からないので説明お願いします」



 フェネクスは確かにこういう毛色の任務を執り行ったことはないだろつ。


 仕方が無くフルーレティが説明を開始した。



 今から向かう第三の円トロメアには度々起こる現象がある。


 其れは運命の女神三姉妹のアトロポスが司る寿命の糸が切離される前に魂がコキュートスへと行ってしまい地上に残された肉体を此処の悪霊が乗っ取る。こういう事象が偶に起きるのだ。


 これを事前の防ぐためにトロメアの悪霊を時折討伐する事が地獄の統治者サタン王によって義務付けられているのだ。


 悪霊が人間の肉体を乗っ取る際に起こる此方の不手際と云えば単純に暴れ回られまくったら迷惑なのとベルゼブブ様が悪霊の頭の名を関しているからか此方に苦情が届くということだ。



「世知辛い世の中…」


「コキュートス内で肉体乗っ取れる悪霊はトロメア産限定だからそこに行って駆逐する……やること云えばそんな感じのとこかな、」


「……結論としてアトロポスが使えないという話になるわけですね」


「あたりが強いですねぇ、其れは死神に対してですか」


「いいえ……別に、しょーもない恨みですよ」



 そう顔を背けたフェネクスに一瞬不思議そうな顔をしたがフルーレティは何も云うこともなくコキュートスの入口へと足を向ける。


 漏れる寒風は既に身を骨の髄まで凍えさせるかのように冷たく乾ききっている。



「地獄に繋がる扉はどうもこう重々しく重厚なんでしょうか……まあレティ達には関係ありませんか」


「ですね。さっさと終わらしてしまいましょう」



 此の先のコキュートスへと繋がる扉へ手をかける。扉は押戸らしく二人で戸を勢い置く押し出し漸く開いた隙間に体をねじ込んでコキュートス内へと侵入した。

 扉はきちんと閉めた。


 目的の場所は第三の円、今いるのは第一の円なので少し時間が掛かるだろうか。

 フェネクスも同じ事を思ったらしく髪を手で弄りつつ正面を見据え話した。



「トロメア迄直線距離て数十(キロメートル)、どうしても時間が掛かりますね。早急に終わらしたいので時間を節約しましょうか」



 フェネクスが零した。


 次の瞬間フェネクスの身体が炎に包まれる。最初は肉体を覆うように展開していた炎がいつの間にか体積を増やし鳥の姿を形作っていた。


 炎が晴れ其処には一匹の不死鳥が炎をゆらゆらと寒風になびかせている。



「乗ってください、ひとっ飛びしましょ」



 声は不死鳥の外見からは想像出来ないくらいには幼く優雅であった。



「そう言えば不死鳥の悪魔だったね、でもいいの? 人なんて簡単に乗せちゃって。」


「意外とそういう規制はないので大丈夫ですよ。時短しましょう、あなたも早い処終わらせたいでしょう」


「其れもそうだね」



 屈み乗れと示してくるフェネクスの横で軽く地面を蹴り背の部分に乗り上げた。


 悪魔は基本的に身体能力が高い為高貴な悪魔は大体垂直跳びで六(メートル)近くは飛ぶ事が出来る。



「……温かい、」


「首あたりの毛でも掴んでいてください、飛ばしますから」



 不死鳥、零落した神・フェニックスが凍てつく地獄に飛び立つ。



 *



 同心円状になっているコキュートスでは第三の円に行くまでに多少の時間が掛かる。

 少しの話し合いで暇をつぶす。


 不死鳥に跨ぎ必要以上に首を掴んでいるフルーレティにフェネクスは話しかける。



「にしてもサタン王が親だからと云って押し迫るとは、」


「実際は少し違いますがね」



 フルーレティが寒風に身を震わせ暖かさの源である火の鳥の毛に身を沈ませる。



「レティ達は元々此の世界に居た何処にでもいる意識も無いソレだった」


「ああ、【下級精霊】話が見えてきましたね」


「漸くするとそんな感じですね。下級精霊のレティ達がサタン様の漏れ出た悪の力に中てられて上級精霊へと進化、【悪から生まれた魔物】が悪魔の略称。悪の力で意識を持ち行動し与えられた力で悪に傅き従って人間の欲望を膨れ上がらせる。其れが今のレティ達、上級精霊と悪魔を両立できている訳ですね」



 成る程、とフェネクスは了承の意を示した。



「だから己の中の確固たる意志の確立に一枚も三枚も噛んだサタン王が実の親だと言い迫っているわけですね……しょうもない、」


「貴方の経歴も中々じゃありませんでした? 元々人間でしたっけ、神じゃなくて」


「そう云えば……ピラミッド造ってた頃ぐらいですから四千年前? 其れ位ですね古代エジプト出身ですよ」


「貴方も貴方で難儀なこと…」



 フルーレティが呟く間で目的の場所、コキュートスのトロメアが姿を見せていた。



「もうそろそろですね、高度下げます」


「はーい、お疲れ様フェネクス」




 *



 コキュートスは相変わらずの寒さだ、そう思い体内の温度を上げて体の内側からフェネクスは体を温めた。


 寒風に身を震わせやってきたトロメア。アトロポスとは個人的に因縁のある私フェネクスだが寿命のある生物なら大体彼女の事を嫌いになるだろう。

 彼女は生物の寿命を定める運命の女神とも呼ぶ一が種の死神とも揶揄される存在。



「悪霊がうじゃうじゃと……矢張り死人の溜まり場には湧きやすいですね」



 私が云うと同意するようにフルーレティは頷いた。


 悪霊には大概の攻撃が効く。普通の化け物と何ら遜色ない。

 ただ炎で叩き潰せばいいだけのこと。



「どのくらい清掃を?」


「五分の三程度と」


「時間も惜しいので五分程度で終わらせますが」


「文句ありませんよ」



 フェネクスは炎を掌に纏いフルーレティは手を天に掲げる。


 早速フェネクスは悪霊達の陣へと突入。

 気付いたらしい悪霊が牙を剥くがそんな事程度では下級の悪魔や魔神共でも怯えまい。


 その威勢を叩き折るかのごとく、威力増大を狙い体を軽く捻らせ炎で剣の形を造りあげる。一振りで勝負は決まる、悪霊一体の首が大地へと落下音を立てた。


 周りの皆が唖然とする中それを隙だと思わない者は誰一人とていない。


 炎を操るのに上限らしい上限はない。炎を囲うように展開し相手をきちんと追い詰める。

 次には剣でどんどんと首を落としてく。


 此方に手を伸ばす腕を確認した後飛び上がって腕を更に跳躍し炎の剣を弓に変化させ他にも矢を生成させ狙いを定める。

 弦を引き矢を額あたりを目掛けて矢を放つ。



「全矢命中……消滅確認」



 華麗に着地してみせ炎で形作った弓を無に返し手元を空かせる。



「さて……フルーレティさんの方は…?」



 フェネクスが首を動かしてフルーレティの場所を確認する。



 フルーレティは自らの力の一つである雹を望んだ場所に降らせるのを駆使して悪霊退治に臨む。


 雹を悪霊の頭に当て続ける何ともシュールな絵面だ。



「いや、違うんですレティ此れしか攻撃手段無くて、落下物でダメージ与えられることは確かだしだがらレティも譲歩してこの方法に至ったというか」


「ああはい判りました、大丈夫です私何も云ってませんから」


「そもそも上級精霊六柱の中で極端に攻撃系なのっていないですし…」


「判りました判りましたから」



 もう突っ込むのはよそ、


 フェネクスはそう思い再び悪霊たちへの攻撃を再開した。

 矢を放ち、或いは炎の剣で斬りつけ悪霊達を一体一体確実に倒していった。


 目測だが後少し倒せば終わり


 足を踏み込み力を込め一太刀斬りつけ直後にもう一撃。

 悪霊は一定以上のダメージを与えると消滅する、成仏と云ったほうが正しいのかもしれないがそういう原理だ。



 背中から不死鳥の炎を纏った羽を作り出し地面を蹴って羽を羽ばたかせ空を飛ぶ。

 斬りつけるのには体力がいる。元々体の線が細く痩せ気味なのは恐らく人間時代の最初の死因が餓死だからなのだろうか、加えて脂肪が付きにくい事もあってかは分からないが私は極端に体力がない。


 だからここからは主にフルーレティの援護(サポート)に回ることにした。



「フルーレティさん、私が援護に周りますんでバンバン雹落としちゃって下さい」


「………逃げた?」


「いやー真逆そんな訳無いじゃないですか」



 九割型事実だけど。


 私は思ったことは直ぐに口には出さず後で吐き出すタイプですので勿論云ったりなんかしていません。こういう社交辞令的なことは一通り神様時代に学んだのであの非常識が病のように蔓延している地獄では珍しい常識人です。



「別に構わないですけど……フェネクスさんがあわせてくださいよ」


「勿論、」



 雹の基準は直径五(ミリメートル)、地上で計測されて最大の大きさは二十(センチメートル)。かなり振れ幅が大きく当たり前だか大きければ大きいほど与える衝撃も比例する。


 フルーレティは終わりの在る天に指を掲げ高らかに宣言した。



「天落ちる様な衝撃、貴方達は理解しきれず其の儘死を迎える。何と幸福でしょうね」



 慈愛を慈しみを込めて手をゆっくりと降ろした。


 直後トロメアに降りかかるのは直径数十(メートル)の雹と云うかもう氷の塊。あれに潰されたら一溜まりもない。



 氷と氷がぶつかる音とともに奏でられる物体が潰れる音、悪霊には血液は流れていない為に地面を彩る装飾は少なめ。悪霊には透過の力があるのではと思われがちだが其れは地上の場合のみである。



「終わり、かな。帰ろうかフェネクス」


「ですねフルーレティ」



 肘と肘を合わせ合い二人は微笑んだ。



 *



「という訳で片付けてきましたベルゼブブ様」


「成る程やっぱりフェネクス侯爵殿は真面目だね、元祖の方も見習って欲しい位だ」



 ベルゼブブが椅子に腰掛け書類を片手に事後報告に来たフルーレティの報告に耳を傾ける。


 執務室の光がコキュートスから帰ってきたばかりのフルーレティを優しく包みこんだ。



「良いやつでしたよ、」


「まあ時折使命より感情優先にさせちゃうけどそこも彼女の良さだからね。そのせいで零落してるけど」


「ああそういう……」



 フルーレティは何かを思い出しているように視線をそらした。



「忌々しい地上から堕ちてもやる事は変わらない、皮肉だね」



 肩をすくめるベルゼブブにフルーレティは機微をかしげる。



「そうでしょうか?」


「そういうもんだよ、君も百歳超えれば判るよ」



 ベルゼブブは不敵に微笑む。


 神と悪魔の体感時間の差も知りつつ。




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