【11話】幕間・フルーレティさんとタルキマチェさんは仲が悪い
ベルゼブブ基バアルはへこたれて居た。
理由は前回を参照して欲しい。
簡単に言えば魔王がしなくても良い仕事を自分よりも立場の上のサタン王に押し付けられたのだ。
地獄は弱肉強食主義だが頂点の二人(魔王サタンと魔王ベルゼブブ)に関しては完全に力関係が逆転している。
当初は武力が勝っているベルゼブブが弱肉強食の主義に則って地獄を統治する予定であったがベルゼブブ側が此れを完全に拒否した為に現在はサタンが地獄の頂点として君臨しているのだ。
だから自分より立場の上のサタン王にはベルゼブブも逆らえない。命令違反等以ての外、頼まれ事は基本的に断れない。
其れが頭で理解できているからこうして執務室の椅子の上で膝を折りたたみへこたれて居るのだ。
「はぁーーーーー……ねえフルーレティ、」
「はいはい何ですか」
「頭よりも先に体を動かすって、時に残酷な結果を引き連れ来るんだよ」
「知ってますそんな事も知らない貴方は莫迦ですね。はいこの話は御仕舞いです、仕事をして下さい。」
フルーレティは何時もこうである口を開けば仕事をしろ仕事をしろ。その言い分は判らなくも無いが云い方をもう少し優しくして欲しい。蝶より花よりも丁寧に扱って欲しい。
然しそんな事を云っていても仕事は減らない。手を進ませなければならない。
「此れから新しくやる事も出来た……猫の手も借りたいね全く」
「其れもそうですね…」
「早くマチェ君帰って来てくれたらいいのに……」
そう零した瞬間軽く執務室の温度が数度下がった。指先がひんやりとした空気に触れ体が少し飛び上がる
忘れていた、フルーレティはマチェ君ことタルキマチェと仲が悪かった。馬が合わないと云うか何だか―――――超絶仲が悪いみたいなのだ。
理由は此方では判然としない。
だが確実にフルーレティはタルキマチェの話をすると機嫌が悪くなるのだ。
何時もより明らかに低い声でフルーレティが切り捨てるように話始める。
「あんな奴いなくたって回りますよ、実際今だって回ってます」
「其れはマチェ君が出張系を片付けてくれるからじゃない?でも出張系って大変だからフルーレティが行く?行ってみたいの出張系」
「面倒くさいし御免ですよ。」
どっちだよとベルゼブブは云い捨てた。
基本的に出張系は面倒くさいと云うのがベルゼブブの心情だった。
そんな中自らが行くと立候補したのがベルゼブブ直属の部下の一人タルキマチェだった。
其処から多くの出張系の仕事はタルキマチェに行かせている。タルキマチェ自身も私の役に立てるならばと喜んで行って呉れている。
地獄は広く地獄の三大支配者という肩書の為か出張系の仕事は何故だか多い。その為マチェ君は屋敷に常駐して居ないので逢う回数は必然と少なくなる。
後タルキマチェは少し呼びにくいのだマチェ君と呼んでいる。
下がった空気の温度を肌にヒシヒシと感じつつ仕事をしていた。
其の直後執務室に敲の音が響いた。
続いて声が響く
「ベルゼブブ様戻りました。這入っても宜しいでしょうか」
地獄の中ではフルーレティの次に聞き馴染みのある声だ。
「勿論。這入っておいで」
執務室の扉が静かに開かれる。
凛とした者の持つ独特な雰囲気を纏った悪魔は薄く目を開け微笑みながら話始めた。
「只今戻りましたベルゼブブ様。タルキマチェで御座います」
【ベルゼブブ直属の副官】タルキマチェ
能力:移動速度の加速、或る程度の物の浮遊、天文学の教授
礼儀正しい声に所作。滲み出る自分は正しいと云った雰囲気を発し自然と背筋は伸びてしまう。微笑みを浮かべてはいるが内奥は穏やかでは無い事が一目で判る。
タルキマチェは片手に手荷物を持っており任務帰りに其の儘此方へ来たらしい事が考えられる。
「やあ任務ご苦労様マチェ君」
「私めには勿体無い御言葉で御座いますベルゼブブ様」
言葉を発した後に一礼する。
些細な事迄も丁寧に熟し完璧に仕事をする。私の部下二人フルーレティとタルキマチェは仕事がとても出来る部下だという事を何時も考えさせられる。
二人が出来ている分私も頑張らないと上司の立つ瀬が無くなる。
書類の一枚を手に取り吟味する。そして椅子から立ち上がり机の隣まで移動する。
其の様子にフルーレティは首を傾げつつ尋ねた
「どうかされましたか」
「ああ、此の書類一寸ね。席外すから仕事続けといて」
「ッあの、」
ベルゼブブはフルーレティの返答を待たずして執務室から急ぎ足でタルキマチェの隣を横切り出て行く。
フルーレティは何処へ掴む訳でも無い手を宙へと漂わせていた。
執務室にはフルーレティとタルキマチェの二人だけ。
二人の視線は交差し合い無言の時が流れる。
そして両者の口が開かれる。
*
タルキマチェは凛と立つ。
一部三つ編みにされた青い髪に紫色の瞳。燕尾服に茶色の長靴。睫毛は異様に長く瞬く事に音がするのでは無いかと思う程だ。
溜息をつくフルーレティにタルキマチェは睨み、視線と念じた言葉を返す。
タルキマチェは凛とした佇まいを辞め腕を組み執務室の扉の前に仁王立ちする。
「久しぶりだなタルキマチェ」
「…………」
「何時も以上に機嫌が悪いな出張帰りは疲れているだろうから早く上がってもあの人は文句云わないと思うぞ」
フルーレティは声をかけ続けるがタルキマチェは一切返答せず只黙して其の場に立つ。
数刻の沈黙
短くもとても長く感じる其の時の淡い。
タルキマチェは静かに口を開けた。
「おや?余裕綽々と云った感じか?鼻に付く」
「レティが何を云ってもそう云う。貴方の鼻があと幾つあれば鼻に付かなくなりますかね貴方の物言いには何時も腹が立つ」
互いの視線が交差する。互いが互いを睨み互いが互いを軽蔑するような眼差しを向ける。
一触即発。其の言葉が此の状況にはよく似あうだろう。
空気がひりつき吐く息すらも気を使う場
一度記しただろう。
フルーレティとタルキマチェは共にベルゼブブの直属の配下であるが―――――
―――――超絶仲が悪かった
*
ベルゼブブは悩んでいた。自分の直属の、最も近い配下であるフルーレティとタルキマチェが超絶仲が悪い事。
仲が悪くなった起点は判らない。何かが彼等の逆鱗に触れたのかも判らない。
だが一つ確実なのは逢えば口論をし出し運、話の流れが悪ければ乱闘を始めるという事だ。
「あの二人の仲の悪さは問題物なんだよなぁ……本当に、」
書類を片手に頭を抱えながら赤い毛足の長い絨毯が敷かれた館内の廊下を歩く。
なのに何故彼らを二人きりにしたのか。答えは一つ、彼らがほんの、何かのキッカケで仲が回復しないかと何時も淡い期待を抱いているから。
其れは私個人の願いだ。
仕事上に問題が出るのもあるが直属の配下達には出来るだけ仲の良い関係になって行って欲しいのだ。実際他の配下達の仲は良好。問題は此の二人だけ
其れをどうにかしたいのだが―――――
「今回も……駄目ッぽいな…」
今から向かう執務室から響く破壊音に頭を抱えながら渋々ベルゼブブは執務室へと向かった。
*
「其れで?手を出したのはどっちから?」
詰めるベルゼブブにフルーレティとタルキマチェは互いに指を刺した。
二名ともベルゼブブの顔は正面に捕えず顔を逸らし何処でも無い宙を眺めていた。そして二名とも怪我を負い所々に出血と擦り傷、切り傷が出来ているし服も乱れているのは血の匂いで判る。
執務室も前より明らかに荒れており所々に転がる雹の塊、物が床や卓上に散乱しているがご丁寧にベルゼブブの座っていた机周り其の書類達には一切手が出ておらず此処の部分だけ何時もとは同じな平穏を保っていた。
ベルゼブブは頭を悩ませ眼前に居る二人を前に首を傾げた。
「全く…何で仲悪いの?二人共猫被るの上手でしょ?表面上だけでも仲良くしておけば善いんだよ、其れ位判らない程の阿呆じゃないでしょう?」
「表面上でも此の頭が永久に枯れないお花畑野郎とは仲良くしたくありません」
「レティも同感です。其れにレティの事こんな悪く云う奴と好んで仲良くしたいと思いますか?」
「んーーー、……」
ベルゼブブは中々に渋い顔を浮かべていた。
先程から判る様にタルキマチェが一方的にフルーレティの事を毛嫌いしているのだ。其れ位は鈍いベルゼブブにでも理解する事が出来る。
結果フルーレティもタルキマチェの事を毛嫌いしている。そういう流れだ。
だがタルキマチェが何故フルーレティの事を毛嫌いしている、怪訝しているかは判らない。恐らくベルゼブブには想像もつかない何かだろう。
顎に手を当て逡巡する。
(早くでは無くていい…然し本当、何時かは仲良くして欲しいな)
(絶対に此奴とは仲良く出来ないな…)
(絶ッてェ此奴とは仲良く出来ないわ)
ベルゼブブの願い乏しく直属の配下二名は心の中で相手とは仲良く出来ないと心得ていた。
タルキマチェさん身長は184,5cmです
ベルゼブブは194,7cm
フルーレティは176,8cm
タルキマチェさんの方がフルーレティより身長が高いですね
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