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敦也と陽太はバカみたいに笑って、バカみたいな話をした。
「その人達に迷惑をかけたくないのなら、ちゃんとお医者さんになったらいいと思うよ。その人達にお金を出してもらって、後で稼いで返す。それを借金にしたらいい。お前への投資ということにしてもらったらいいんじゃない? 使えるものは使わなきゃ。せっかくお前のためにと色々考えてくれてるんだからさ。有効活用しちゃえばいいんだよ」
陽太は暢気に、軽い口調で言った。政治家になりたい彼は世間ずれしていて、割と狡賢く、卑怯な手段も取る。敦也は言葉を額面通りに受け取って、悪い方向に考えてしまった。
「そんな、利用する真似……」
陽太は顎に手を当てて考え込んだ。それからぱっと思いついたことを言う。
「うーん。そうか……敦也は真面目だね。恩返しがしたいから、そのためにお金を貸して欲しいって言えば? さっき言ったけど、それは全部敦也の借金だよ。施しを受けたわけじゃない。貸しを作って、しっかりと後で何十倍にして返すんだ。本気でやれば、叶えられない夢じゃないと思う。お前ならできる。僕が保証するよ」
陽太はニッと笑って、拳を突き出した。こどもの頃にやった、拳を当てる男同士の誓いの遊びを思い出して、敦也は噴き出した。拳を握り、敦也も陽太の拳に向かって拳を突き出す。
「絶対、叶えてみせる」
「その意気だよ」
ゴツンと拳を合わせて、笑い合った。駆け抜けた青春が走馬灯のように思い起こされた。泣いた日々、辛かった日々、心に響いた言葉、心を動かされた誰そ彼の真摯な姿、色々な思い出に浸る。全部がかけがえのないもので、出会った人々もかけがえのないものだった。自分を支えてくれた人々。自分を虐げた人々。それらすべてにも感謝できる日が、きっと来る。自分を成長させてくれた人たちへの感謝の気持ちが、力となって敦也の心を激しく躍らせる。
敦也はふと顔を動かし、窓の方を指差した。
「ほら、見ろよ……」
暗くどんよりとしていた惨憺たる景色だった空が晴れ渡り、美しいコバルトブルーに変わっていた。蒼海のような空色が、心に深く浸透していく。あの美しい空は、敦也のこれからの未来を、キャンバスを描くのだろうか。白いキャンバスでなくても、筆があれば描いていける。
そう。希望さえ持ち続ければ、未来は自分の色に染められる。
「綺麗な青だ」
「あの空に続く景色を、みんなで見たいね」
「もっと遠くに行きたいよな。日本だけじゃなくて、海外も飛び回りたいよな」
「世界一周したら、次は宇宙一周だね」
「夢はでかいな」
「大きい方がいいんだよ。叶えたい夢はいくつあってもいいと思うんだ。だって、素敵じゃない。僕らは夢を追えるんだよ。夢を持っていない人に羨ましがられちゃうんだからさ」
――素敵……か。
「そうだな。俺も羨ましがられるな。あの頃と大違いだ」
「夢を叶えられたら、次はどうしたい?」
「そうだな……。次は……」
敦也は天井を仰ぎ見て、長々と夢を語った。陽太とこういう話ができるとは思っていなかった。陽太との仲を腐れ縁のように思っていた敦也だ。人生の話や夢の話、自らのことを掘り下げる話ができると、夢にも思わなかった。大人になったものだと敦也は切々(せつせつ)と思う。
先の話をすれば、生きる希望を持ち続けられるようになる。それを実現させようと必死にもがいてあがくようになる。病気や怪我と戦える。心の持ちようで変わることだって、世の中にはあるのだ。病は気からなれば、健康も気からなのだ。健やかなる心でいれば、自然と健やかな身体へと変貌を遂げるだろう。人間の脳も身体も、そうなるようにできている。
だから、敦也は生きる希望を忘れない。一筋の光が差せば、それに向かって走り出すのだ。
――走り出したら、止まらない。
大守敦也は、今日から新生。まだ見ぬ遙かな高みへと、全速力で駆け出した。




