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あなたの救世主  作者: 社容尊悟
第一章

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 苛立ちよりも呆れが勝っていた。なんだか底意地の悪い、変な女に絡まれた……という感想が漏れ出てきた。助けてくれたのは彼女だが、そんなことは失念してしまっていた。目を見張るような美人だが、なんて性格の悪い女だ。親の顔が見てみたい。

 天高く立ち上っていた炎がみ、人々の歓声が耳に入ってくる。事故現場にいる人たちに感謝されている女性。敦也はそれを傍観者ぼうかんしゃのようにじっと眺めているだけ。

「なんなんだ、一体……」

 敦也は最後まで尻拭いをしようとしていたのに、性悪しょうわるな女が、最終的に脚光を浴びてしまった。色々な人に罵倒される覚悟もしていたのに。

 ヒーローみたいに颯爽さっそうと現れて、だけどヒーローみたいに正当に活躍したわけではない。どちらかと言うと、かなりせこいやり方で称賛されていて、納得できなかった。助けるなら、最初から最後まで助けろと言ってやりたい。

 ――俺が求めていたスーパーマンは、こんなやつじゃねえ!

 驚きと呆れが敦也の心中に渦巻き、少しばかりの怒りも敦也を支配した。

 その日の夜は、胃もたれのせいで寝つけなかった。

 寝過ごしてしまい、大学の講義に遅刻した。無遅刻無欠席が現在の敦也の唯一の長所だったのにもかかわらず、あの女性のせいで敦也は夜に眠れなかったのだ。結果、昼まで寝ていた。

 大学では、すべて学生の自己責任。やむを得ない事情があれば、公認欠席扱いになる。寝坊で公認欠席なんてあり得ない。公認欠席扱いをされるのは、忌引きびきくらいだ。寝坊して遅刻するなど言語道断もいいところ。病気でもないのに、一人の大人として恥ずかしい限りだ。人生の汚点になる。

 ドアをこっそり開けて、後ろの方の席を陣取る。かばんを置いて、教授の講義を聞いた。

 みんなが何人かと一緒の席にいるのに、敦也は一人の席を取った。この講義には陽太もいないし、実質一人ぼっちだから。やる気もなければ魅力もない今の敦也に、陽太以外の仲の良い友人なんていない。講義のときに話すだけの友達を、友達と定義していないので、どんなに仲が良くても単なる話し相手だ。話し相手がいないと暇ではあるが、周りが話していると五月蠅いだけで、一人でも寂しくはないのだ。一人だと、他人の話し声はよく聞こえてくる。

 教授曰く、『自己が個であれば、集である他己に目を向けるのは、人は自己にないものを強く求める傾向があるからだ』らしい。人の欠点に目を向けるのは、別の心理。人間は強欲だから、自分にはないものに自然と視線を吸い寄せられるという人間心理をかれた。不細工な男が美人と付き合う確率が高い統計が取れているのも、そういう心理で、バランスを取った結果なのだと。不細工なのに美人を求めるのは、自分の顔面に満足していないからで、美人が不細工を求めるのは、内面的な充実に満足していないからである。不細工なのに身の程をわきまえないのは、男のさがだ。美人と付き合って、周りのやつらに自慢したいと男の本能が告げるのだ。魅力的な人間と付き合えるのは、自分が魅力的だからと豪語できるし、羨望せんぼうの眼差しを向けられるのは気持ちがいい。やり過ぎると、友達に寝取られるけど。男社会もこれで中々、異性が絡むとドロドロしてくる。なんせ、男は女と違って恋愛関係で立ち直りが遅いから。いつまでも女を好きで、終わったはずの恋を引きずってしまう。ストーキングをしてしまうのも、まだ恋心が燃え上がっているから。彼等の恋は終わっていないのだ。復縁を求めるのは、大抵男から。もう一度、あいつの心を手に入れたい。あいつを自分のものにしたい。失って初めて気づく、――やっぱり、俺にはあいつしかいない。あいつじゃなければダメなんだ――が、女には理解し難いのだ。未練たらしく、女々(めめ)しいことこの上ないが、一番になりたい気持ちが強すぎて、空回りする男達は後を絶たない。その結果が、ストーカーや殺人だ。痴情ちじょうのもつれは、いずれ憎悪に変わる。手に入らないのなら、せめてこの手であの世に送ってやるという、男達の愛憎渦巻あいぞううずまく復讐劇の始まり始まり。この手で殺してしまえば、自分の物だと認識できるから。一緒に死なないのは、対等な立場でないと思っているからだ。ストーカーをするようなやつは、元々相手を所有物としか思っていないようなやつだ。相手のことはペットかそれ未満で、人権なんてないに等しい。ストーカーが人に好かれないのは、必然である。

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