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密縮修行


「ひーん……なんでこんな大変な事させられてんのさー……」


 そして、ハイプライドへ向かう道中……ミファーは剣の素振りから魔物の効率的な殺し方、継続戦闘するための術を身につけてもらっていた。


「決まっているだろう。ミファーは確かに勇者だ。だけど、力不足な事には変わりない。血筋だけで魔王が殺せるならいいが、実力がなきゃ何もできない」


 そう、十五年前のミファーはお世辞にも猛者とは言えない戦力だった。それが、ここ数日の旅で分かった。


 ギガノトコングに囲まれた時だって、きっと死ぬ覚悟だっただろう。その上で、俺に逃げろと言ったのだ。


「えいっ、てやっ!」

「そら、また太刀筋が曲がってるぞ。一振りで魔王が死んでくれるとは思うなよ。一太刀は全て次の一太刀に繋がってるんだ」


 もちろん、俺に剣の心得はない。だが、ミファーの太刀筋だけは散々見てきた。


 だから、その剣の再現をさせようとしているのだ。早いうちから正解の感覚を身につけてもらえれば、さらなる力を手にするだろう、と。


 そもそも、そんな事をする必要がある事に気付いたのも……俺が魔族のままであるという点だ。


 もし『反射』を全力で使って目立てば、魔族の証明である負の魔力に気付かれてしまう。


 そうなれば、人間達はきっと俺を生かしてはおくまい。だが、俺も人間を皆殺しにするのは本意じゃない……本意じゃなくとも、俺の『反射』はそうしてしまう。


 そこで、だ。俺はミファーを隠れ蓑にして魔王の元までたどり着こうと考えたのだ。ミファーと一緒にいるだけの俺なら、そう怪しまれまい。寄生虫だと思われる程度が関の山だ。


「完璧なプランじゃないか……!」

「あのー、リフトさん? なんだか黒いオーラが出てますけど……」

「気のせいだ。んで、また違う。魔族の体のつくりは人間と少し違う――らしい。心臓を一突きしても死にはしないぞ。魔力が発生している器官を斬るんだ」


 はあー、とミファーは感心したように構えを変える。そう、そうだ。その構えだ。最も魔族に対して有効的なのは、半身で相対すること。


 魔族には基本戦闘術なんてない。どいつもこいつも我流の戦闘を仕掛けてくる。だが、相手によって構えを変えていては修行の時間などいくらあっても足りない。


 だから、半身。右にも左にも変えられる構え。得意な型を三パターンも用意すれば、そう困ることはないはず。


「……俺の思った通りだ」

「へっ? なになにー?」

「ミファーは自然と成長の階段を正しい方へ上っていく。上達速度が凄まじいんだ」


 それは、魔族にはない特性。魔族の力は生まれた旬h間に全てが決まっているようなもの。努力して云々かんぬんなんて考えはないのだ。


「そりゃー、こんだけ丁寧にスパルタに教えられてたら上手くもなるよー。リフトさんの指導、すごくためになるもん。『ああ、こうすればいいんだ』ってすぐに分かっちゃう!」


 まあ、未来の完成形を見てきたからな。ミファーの舞うような剣技に見とれた事は少なくない。


「でも、魔物の倒し方は教えてくれないんだよねー。リフトさんったら」

「俺に教えられる事じゃないからな。俺の戦闘は他には真似できないもんだし……」


 襲いかかってきた相手に腕を振るうだけで殺せるなんて奴、他に知らないしな。


「やっぱりすごいなー、みんな。私なんか全然弱いってのがよく分かるよ……」

「そんな事はないぞ。最強の勇者になるのは君だ」

「……リフトさんさー。どうしてそこまで私を買ってくれるの? もしかして口説いてる?」

「ただ感じた事を言ってるだけだ。俺には君が魔王と対峙している姿が見えている」


 実際、この目で見てきたからな。


 そんな言葉でも、ミファーは元気づいたようで再び剣を振るいだした。


 ハイプライドに着くまで、延々と……途中から魔物を相手にし出しだしたが、ミファーはその度に工夫と努力を重ねたのだった。


 魔物一匹一匹の弱点と特徴を覚え込ませ、俺の思い出せる限りのミファーの剣術を教え込んだ。


 よくもまあ、それについてきたもんだと思う。本来なら十五年かけて到達する地点なのだから。


 もちろん、今すぐ魔王に挑めるほど強くなったわけではない。


 しかし、ハイプライドに着く直前……ミファーは、単独でジェネラルオークを完封してみせるほどには成長した。


 ジェネラルオークは魔大陸でも重宝される重機兵だ。ならまあ、そこらの魔物には負けはしまい……。


「リフトさん! 私、私……やりましたよ!」

「ああ、見事だ。やっぱり、ミファーはこうじゃないとな……」

「へっ、なんですか?」

「いいや。それで、ハイプライドは?」

「もうすぐだよー。んで、試験受けて合格できればようやく勇者候補って事!」


 まったく、人間は妙な風習にこだわるものだ……。面倒だが、仕方ない。


「それじゃ、行こうか」


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 よければ、評価やブックマークでの応援をしていってもらえると、大変励みになります。

 それでは、また次話にて。

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