8話 「寝所事情」
8話 「寝所事情」
不本意ながらも、ミーラが仲間になったその夜、ギルドで夜飯を食べ、ミーラと別たアラムとエルナは、今夜の宿探しをしていたのだが、
「夕飯が一人1000ピリア、残り5000ピリアな訳だが、この街の宿の宿泊料は一人3000ピリア・・・。よし、どっちが野宿するかジャンケンで決めるか。」
「ちょっとまってよ。私が聖剣に戻れば一人分の料金で行けるじゃないの。」
「お前はあほか。さっき聖剣でいったら勇者ってばれて、入れてもらえなかっただろうが!しかも門番の人にあまりバレないようにって言われてるのにいろんな人にバレていってるからな?」
「そこは大丈夫よ、あの宿のおばさんには、口止め料として2000ピリア渡しておいたから。感謝しなさい!」
「誰の金で?」
「もちろんあんたの金に決まってるじゃないの。私お金持ってないし。」
「おまえ、野宿決定な。」
「なんでっ!」
別の宿屋に入ろうとするアラムの袖をひっぱるエルナ。
(あぁ、この先この神様に足を引っ張られながら旅をしていくのか。最初は自分が神様だと言うから期待したものの、魔法を打っても効かない、すぐ勇者の聖剣だとぶっちゃける。しかも勝手に魔法の当たらない魔女と契約を結ぶは、挙げ句の果てに只でさえ、少ないお金を口止め料として勝手に使う。もうダメだ、こいつを武器屋で売り飛ばそう。)
そんなことを考えていたら、ある男が声をかけてきた。
「なんだよあんちゃん達喧嘩してるのか?」
声の主は昼間のギルドにいた大男だった。俺は大男に理由を説明すると、
「ガハハハハッ!あんちゃん達お金が足りねぇのか!金を貸すことはできねぇが、これをやるよ。オラァ、持ってけ。」
大男が渡してきたのはテントだった。
「少し西に行ったところに冒険者専用の広間がある。あんちゃん達みたいな金のない冒険者が集まる場所だ。」
「そんな場所があるのかよ。西に行けばあるんだな。よし、ありがとな!えっーと、」
「ガルニールだ!あんちゃん達の仲間になることは出来ねぇが味方にはなってやるよ。それにあんちゃん達見てると、なんか面白そうだしなぁ!ガハハハッ!」
そう言って、大男は俺達が入ろうとしていた宿に入っていった。大男の行動におれは少し泣きそうになった。こんな俺にも優しくしてくれる人が思うと。そんな感慨に浸っていると、
「やったわね!さあそれを売って宿代にするわよ!」
エルナのとんでもない発言、アラムは目が点になった。
「・・・お前、・・・最低だな。」
―エルナの好感度が0なった―
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ガルニールさんの言うとうり、冒険者専用のキャンプ場があった。俺達みたいな宿無しが多いみたいで、あちらこちらにテントが貼ってあった。
「金がない冒険者って結構いるんだな。よしテント立てるぞー、手伝え。」
「えー、私は神様なんだからぁ!痛い!何するのよ!」
わがままな奴には言葉で言ってもダメだ、と言わんばかりにエルナに拳骨を食らわした。
「そろそろ俺も限界なんだ。次は拳骨で済むと思うなよ。」
「はぁ?やって見なさいよ!私はゴミ人間には屈っしぅう!」
まだなにか言おうとするエルナにケツキックを食らわす。
「あんたレディに対してお尻は無いでしょ!このセクハっわかった!分かったらかその蹴る体制やめて!」
いやいやエルナに手伝ってもらいテントが完成した。テントは以外に大きく4人寝れるぐらいスペースがあった。
「いい?もしも少しでも触れてみなさい?私の鉄拳が飛ぶからね?」
「お前こそ、寝相の悪さでこっちに来るなよ?来たら野外で寝てもらうからな。」
そう言い合いながら、二人はテントの両端で寝た。しかし、下になにも引いてないため、ほぼ地べたに寝る形となった。アラムは、あしたなにか敷くものを買おうとそう決め眠りについた。
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「ぐほぉ。なんだ!敵か?!強盗か?!って」
朝、まだ日が登り始めた所で腹部の痛みで目が覚めた。犯人は強盗でも魔物でもなく、自分を聖剣に宿る神様というエルナだ。
本当に寝相が悪いらしく、頭が逆さまになっており、踵がアラムの腹部の上に直撃していた。
「はぁ、本当に寝相悪いのかよ。まだ寝れるな。よし、俺は昨日言ったことを有言実行する。よっこいしょ。」
腹にの乗っかる踵をどけ、重たい腰をかさあげ起き上がり、エルナをお姫様抱っこで持ち上げた。こいつ以外に軽いな、と思いながらも、エルナを起きないようにテントの外にやると、俺は二度寝をして、再び深い眠りについた。
その数時間後に、目が覚め怒り狂ったエルナによる顔面パンチによる目覚ましで起きるのであった。
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「朝から二人とも機嫌が悪いですねー。」
「「別にー」」
声が被りいがみ合うアラムと、エルナ。それを心配そうに見つめるミーラ。
朝っぱらから、口喧嘩をして、そのまま二人は無言でギルドに向かいミーラと合流していた。
「とりあえず、話を聞きましたが、どっちも悪いと思います。お互い謝ってこの喧嘩を終わらせてください。長い関係になるんですから。」
「俺は夜に言ったからな!こっちに来たら追い出すって!だからおれはそうした!あいつが先に謝ったら謝ってやるよ!」
「はぁ?私も言ったはずよ!少しでも触れたら私の鉄拳を食らわすって!だから私もそうしたのよ!あんたが先に謝りなさいよこのゴミ人間!」
「そのゴミ人間扱いのことも含めてあやまれ!」
ふとミーラの顔を見ると、少し涙目になっていた。流石にこれ以上はと思い、深いため息をつきながら、
「分かったよ。俺も悪かったよ。これでいいか?」
そう言うと、ミーラは満足気に頷いた。だが肝心のエルナは、
「やっと自分の罪について謝ったわね人間!さあ次は日頃の私への態度についてにも謝ってもらおうじゃないの!さあハリーハリー!」
よし、二度と謝らねぇ。そう決意したアラムは拳骨をエルナの頭に送るのであった。
―数分後―
「私が悪かったから、売り飛ばさないで!お願い!お願いします!勇者様ァァァァ!」
拳骨のあとにエルナに罵声を浴びせ、更に口喧嘩になりかけたので、武器屋に売り飛ばすといい放ち、エルナの服の襟を掴み無理やり連れていこうとした所で、やっとエルナが観念した。
「ぁぁぁあ!わだぢがわるがったからぁ!ぜろピリアは、いやぁ!ゆるじでぇえ!」
「分かったから!許してやるから、俺の足を離せ!ビリビリいってるから!俺の服破れるから離せって!」
その光景を見て、ミーラはとても満足そうだった。
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喧嘩を終えて、昼飯を食べた俺は、目の下が少し赤くなったエルナとミーラに真剣な顔で話を持ち出した。
「おいお前ら、クエストを受けるぞ。」
「真剣な顔で何を言い出すと思ったら。」
「まあ、冒険者ですからね。」
アラムに対して、二人は何言ってるんだこいつみたいな顔をした。
「お前ら、俺は真剣なんだ。テントの下に引くもの羽織るものを買うお金がないんだ。」
「無くても良くないですか?」
「おまえ、地べたで寝たことあるか?それとほぼ一緒だぞ?そういえばお前どこで寝てるんだよ。」
「秘密です。おしえません。」
「なんで?」
「乗り込んで来そうなのでおしえません。」
これ以上追求しても答えなさそうなのでやめた。
「まあ、寝所事情を省いたとしても、もっと深刻なことがある。特にエルナ、お前の方が一大事だ。」
「何がよ?」
「今夜の夕飯代がありません。」
「う、うそでしょ。」
平然としていたエルナの顔が崩れた。こいつ今日は顔が忙しい。
「っと言うわけで、クエストを受けまーす。んで何がいい?採集クエストとかでいいか?」
「採集クエストはやめた方がいいですよ。ここのボードに貼られるのは、ここら辺では取れない物ばかりなので一週間は帰ってこれないですよ。」
「そういうものなのか?」
「そこら辺で取れるものをわざわざ高いお金を出して依頼しますか?」
ミーラが言うことに、確かにと頷くアラムとエルナ。
「じゃあ討伐クエストか。俺たちのレベルだと・・・、『ゴーレム5体討伐』苦戦しそうだな。『ジャイアントウリボー討伐』これは絶対むり。『地鯉3体討伐』池鯉って?」
「地面を泳ぐ鯉の事ですよ。攻撃しても滅多に反撃してこない、やられるために生まれたような魔物ですね。」
「へー、簡単そうね!報酬も高いしいいんじゃない?」
「3体で10万ピリアか、分けたとしても一人3万ピリア、日用品を買ってもお釣りが来るな。よし、あーだこーだいっても仕方ない!受けるか。」
こうして、初めてのクエストは『地鯉討伐』に決定して、外へ旅立つのだった。この時、まさか、あんなことになると誰一人予想していなかった。