なみうちぎわで
ぷかぷかゆらゆら、流れに乗って進んでいくと、ざざーんざざーんと大きな波の音が聞こえてくる。
音の方向を向いてみれば、子どもの身体からしてみれば信じられないくらいの大きな波が見えてくる。
近づけば近づくほど、音はどんどん大きくなり、最後にはもうざざーんどころかどどどどといった音になっている。
「うわぁ、すごい」
「すごいなぁ、まるでつなみやん」
りんがそう言うのもうなずける。目の前で起きている波は、押しては引いてといったかわいらしいものではなく。俺たちの身長にも届きそうで、全てを飲み込んでしまいそうな大きさの津波だった。
「おっきぃ……」
「うん、なみがおおきいっすね」
なんだか含みのある言い方だった気がするが、気にしないことにする。
けれども。
「あんなにおおきななみだったらあそべないんじゃないのかな」
「それは、しんぱいいらないですよ」
ろぜったさんの説明では、あそこまで大きな波が発生する場所はいけないようになっているらしい。なんだか残念なような、ほっとしたような。
ボートを降りて波のプールの近くまで寄ってみると、やっぱりここにも多くの子どもの姿があった。
みんな波のプールで、浮き輪につかまって流されてみたり、波打ち際を走り回って遊んだりしている。
「さて、と、ほかのみんなはどこかな」
ぐるーっと辺りを見回してみても、知ってる顔は見当たらない。というか、人が多すぎて何が何やらといった様子だ。
さりとて、まずはプールの方へと行ってみる。他の場所と違って、ここはまるで砂浜のようになっている。海の再現でもしようと思ったのだろうか。
ざざーんと、波が足元までやってくる。そして、そのまま足を引っ張るかのように波が引いていく。……これは、なんでかちょっと面白いかもしれない。
波が引いては寄せて、その度に足元がずぞぞぞーと引っ張られる。なんでもないはずなのに、なぜか面白い。
「……ひーちゃも、これすき?」
「うん、なんかおもしろい……ってうわっ」
いつの間にか真横にみづきが立っていた。俺がやっているのと同じように、波に足を引っ張られて、ずぞぞぞーという感覚を楽しんでいるようだった。……その楽しんでいる顔が、ちょっと見せられないような顔だったのは黙っておこう。
2人でしばらくただただ立っていた。周りの子たちの喧騒は聞こえるけれど、波の音もそれに負けないぐらいに響いてくる。
けれど、ずっと立ってるだけじゃ物足りなくなってきた。その時だった。
ヒュン!と何かが俺の方に向かって飛んできて、
「ぶへっ!?」
そのまま顔面に当たった。……けれど、痛くはない。これは、ボール?
「うみゆーたらびーちばれーやろ!」
どうやらボールを投げてきたのはりんのようだった。後ろにはさきくんやろぜったさんもいる。
とりあえず、顔面に当てられたお返しをしないと。俺はボールを拾い上げると、りんに向かって思いっきり投げつけた。けれど、女の子の力だからか、ボールはポーンと、ひょろひょろと弧を描いて飛んでいく。
「ほいっと」
りんが両腕でレシーブをして、もう一度上空へボールを上げる。落ちてきたボールを、今度はさきくんがトスして上に。それをりんが思いっきりジャンプして、
「あたーっく!」
バシーン!といい音を立ててボールはこちらに向かってきて、俺に当たるか当たらないかというところで、みづきがジャンプしてブロックした。
そのまま俺の方に振り返りドヤ顔を決めて、砂浜に倒れこむ。
「みづきー!」
「……ひーちゃ、がんば」
サムズアップでいい顔をしていたがそれどこじゃなくて、俺は慌てて打ち上がって落ちてきたボールをもう一度空へ向けてトスすると、
「ないすですよー」
と言って、ろぜったさんがアタックを決めた。
パーンと音がなって、いつの間にかりんとさきくんの後ろにボールが転がっていた。
「うそっすよね……」
「あんなんちーたーやん!」
さきくんは唖然とし、りんはぎゃーぎゃーと騒いでいたが、それはこっちも同じだ。
というか、さっきまでりんたちの後ろにいたろぜったさんが、いつの間にかこっち側に来ていたのはどういうことなんだろうか。
まとまらない質問を投げると帰ってきたのは、「ないしょですよー」とのほほんとした返事だけだった。




