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ぼーとにのって


  俺がさきくんにパーカーを着せられたり、なぜかさきくんが上半身裸に照れている間に、るなたちへの怒りはうやむやになってしまったようだった。

  けれど、他のみんなは散り散りになって遊んでいるらしく、もうどこにいるのかもわからない。


「うーん、みんなどこにいったんだろう」


  キョロキョロと見回しても、人集りが見えるだけで、るなもみずきもりんも、誰も見つからない。

  うーんと考えていると、突然さきくんに手を引かれる。お互いが子どもだからなのだろうか、結構力が強く感じる。


「わわっ」

「さがすならこっちにいこうっす!」


  手をつないだまましばらく歩き続ける。周りのNPC(大人たち)に微笑ましく見られているような気がして、だんだんと恥ずかしくなってくる。

  空いているもう片方の手で、パーカーの裾を抑える。引っ張っても股下がどうしても出てしまい、どうにも恥ずかしくてたまらない。

  そんか感じでもじもじしながらついていくと、目の前には、大きな大きなウォータースライダー。今の子どもの身長からだと、さらに大きく大きく見えてくる。


「ひとをさがすならたかいところからっす!」


  サムズアップをしながらドヤ顔でそう言ってくるさきくん。俺はただ、あははと笑うことしかできなかった。

  普通の公園にある滑り台ですら、あれほどの風が吹き、少しスリルがあるのに、こんな大きなウォータースライダーに乗ったりしたら、衝撃やら何やらでどうにかなってしまうんじゃないだろうか。吹っ飛んで落ちたりしたらどうするんだろう。水しぶきも大変なことになりそうだ。パーカーが濡れると大変だから、乗らない方がいいんじゃないかな。

  などと理由を立ててみたが、端的に言って怖いのである。滑り台はそんなに高いわけじゃなかったが、あれはどうみても10mはあり、ものすごく高い。この身体から見上げると相当高い。


「ね、ねぇ……べつのところからさがそ?」

「いっかいだけいってみようっす!おねがいっす!」


  さきくんは乗りたいんだろうなぁ、なんて思っていたから、無駄だとはわかっていたけど違うところから探そうと聞いてみるけれど、あっさりと断られてしまう。

  だって、さっきからさきくんの目がキラキラと輝いているんだもの。あんな目をしていたら、断れなくなりそうだ。

  結局のところ、断ることはできなかったのだけれど。

  カツカツと登る階段の音は、まるで死刑の宣告のように。1歩、また1歩と頂上へと近づいていく。

  てっぺんまで登り切ると、受付のお姉さんが立っている。見上げると、お姉さんは優しく笑ってこちらに話しかけてきた。


「2人で乗るのかな?」

「はいっす!」


  さきくんが元気よく返事をする。けれど、乗るって一体なんのことだろう。ウォータースライダーなんだから、滑り台のように滑るのではないだろうか。

  ふと見ると、あれは、ボート?バナナボートのようなボートがいくつか置いてあるのが見える。もしかして、あれに乗って滑り降りるのだろうか。

  さきくんに手を引かれたまま、ボートの前に立つ。つかまるところしかないような簡素なボートに、あれよあれよと言う間に乗せられてしまっていた。乗った瞬間に、パーカーがふわっと消える。アイテムの方に移動されたようだ。

  わけがわからないままボートにのった俺の前に、さきくんが乗る。ボートは2人乗りになっていて、後ろ側に俺。前側にさきくんだ。


「そんなにスピードは出ないけど、しっかり掴まってねー」


  ほんわかとしたお姉さんの言い方はちょっぴりかわいかったけれど、それどころではなかった。スピードは出ないとは言うが、どうみても絶叫マシーンの系統だ。俺はがっしりと手すりを掴み、目をぎゅっと閉じた。


「めをとじたら、みんなをさがせないっすよ」


  さきくんの言うことはもっともだけど、それどころじゃない。

  だんだんと、ボートが動いているのがわかる。少しづつ少しづつ風が顔を吹き抜けていく。けれど、それは思ったよりも強くなかった。

  俺は、恐る恐る目を開けてみる。

  すると、


「ふあぁ……」


  まるでガラスのように透明なトンネルの中を、ボートがゆっくりと下っていく。それは俺の考えていた絶叫系ではなかった。ウォータースライダーというよりも、緩めの渓流下りとかそういう感じだろうか。

  高い位置から緩めの坂を下っているので、施設内を一望できる。人が豆粒のように小さく見える。だいたい子どもだし仕方がない。


「いやー、ぜっけいっすよねぇ」

「うん、うん」


  最初に入り口から見た景色とはまた違い、遠くに何があるとかそういうところまで全部見える。

  他のところでも遊ぶのは楽しそうだなぁ、なんて眺めていると。


「ひなちゃん、そろそろしっかりつかまってね」

「え?」


  さきくんがそう言った瞬間に、身体がガクンと前に引っ張られる。突然の出来事に、つかんでいた手すりから手が離れ、代わりにさきくんの身体にしがみつく。


「え、ちょっ、きゃああああああああああああああ!?」

「いやっほーーーーー!」


  そこからはあっという間だった。一気に坂を下ると、広いプールに着水していた。俺はさきくんにしがみついたまま、目を白黒とさせていた。正直言って何があったのか覚えていない。気がついたらどばーんと水飛沫が上がって、プールの上にボートが浮いていた。

  なんだか思考がうまくまとまらない。さきくんに抱きついたままぼーっとして……抱きついたまま?


「あの……そろそろはなしてもらえないっすか?」

「ってうわぁぁぁぁ!?」


  俺は慌ててさきくんから離れる。

  ボートから降りた後も、しばらくさきくんの顔を見れないままでいた。


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