おじいさんのたからさがし まえ
ちょっと前の話をしようと思う。
6月最終週。イベントも終わって、6月最終日にプールが解禁されると発表があった日のこと。
「いいかげんきになるから、ひなちゃんがあったおばあちゃんのとこいくで」
と言うりんの一声によって、今日の俺たちの行動は決定した。
てくてく歩いて商店街から住宅街へ。仲良く並んで歩いていれば、ちょっと古めの平屋が見えてくる。
玄関の前に立ってうぐぐっと背伸びをする。……しかしチャイムに届かない。
「ひなちゃんはやくー」
「じゃあるながやってよ!」
るながぐぐぐーと背伸びしてチャイムを押そうとする。ちょっと届かない。
「むむむー」
「……わたしが」
「いや、むりだから」
みづきが無謀にも背伸びをしてチャイムを鳴らそうとする。案の定届かない。俺、るな、りんは横並びで同じくらいだけれど、みづきはそれよりも拳一つ分ぐらい背が小さいので当然っちゃ当然なのだが。
こういう時のみづきは妙に頑固で、絶対届かないのにひたすらうーんと背伸びを続けている。
「むりしてるこはほっといて、どうやっておそう」
「……むりじゃない、おせる」
「いや、おせてないから」
うーんうーんと頑張るみづきを眺めていてもいいのだけれど、それだと先に進まないからいい加減にどうしようかと考える。結局みんな届かないしどうしたらいいか。
「そうだ!」
るながおもむろにみづきの股の間に顔を突っ込んだ……
「ってなにしてるの!?」
俺のツッコミも余所に、るなはそのまま身体を持ち上げる。
「がったいっ!」
「……じゃきーん」
るなの上でみづきが何かポーズを取ってる。うん、るなの足ががたがたしてるから早くチャイム押そうか。
肩車でそこそこの身長を手に入れたるなとみづきはぐらぐらふらふらしながらチャイムに近づいて、ぴんぽーんとチャイムを鳴らす。
玄関ががらがらっと開き、クスクスと笑いながら、前に出会ったおばあさんが出てきた。
「ふふっ、いらっしゃい、ひなちゃん。それにお友達も。よくきてくれたねぇ」
「おばあちゃんこんにちは」
ぐらぐらなるなを支えながらおばあさんに挨拶をする。
「大変だったでしょう?上がっていらっしゃい」
ん?大変だった?もしかしてずっと見られていたのだろうか。多分きっと微笑ましい光景だったのだろうなぁ。
一先ずるなからみづきを下ろして、おばあさんの家の中に入るのだった。
「なにもないところだけど、ゆっくりしていってねぇ」
家の中に入っていくと、ちゃぶ台の上に和菓子がたくさん。冷たい麦茶も入れてもらった。
みんなでぱくぱくもぐもぐむしゃむしゃ。甘くて美味しい和菓子を食べたら、気持ちよくて横になる。
「おいしかったぁ」
「……ねむくなってきた」
俺とみづきがこっくりこっくり船を漕いでいると、りんが急にちゃぶ台をばんばんと叩き出した。
「ちがーう!こんなゆっくりしにきたんちゃうねん!」
「さっきまでねころがってたのにせっとくりょくないよ」
るなが冷静にツッコミを入れると、りんはむきーと怒り出す。そして、なぜか押入れを物色しだした。
「ちょっと、そんなところかってに……」
「だってなにかありそうやん?」
がさごそと押入れの中に突入していくりんのことをおばあさんに謝る俺。なんか割りに合わない役割だな。
「ごめんなさい、おばあちゃん」
「あぁ、いいんだよ。でもおもちゃとかはないから、あんまり楽しくはないかもねぇ」
おばあさんがそう言ってくれるのがなんだか申し訳ない気分になってくる。
そんな俺の気持ちをしってか知らずか、みづきとるなはゴロゴロしてるし、りんは勝手に押入れを漁っている。
「みんな元気いっぱいねぇ。おじいさんにも見せてやりたいよ」
「え、おじいちゃんもいるの?」
そんな人の姿は見えなかったから、びっくりしてつい聞いてしまう。
「残念だけど5年前にもうねぇ」
「……ごめんなさい」
急にそんな重たい設定はやめてほしい。びっくりして変な声出そうになった。
「あの人は子どもと遊ぶのが好きな人だったからねぇ、どこかにおもちゃとかもあったと思ったんだけど、去年の掃除の時には見つからなかったから、やっぱり捨てちゃったのかもしれないねぇ」
そっか、なんかおばあさんと同じで優しい人だったんだな、おじいさん。話だけでシステムデータにすら存在しない人なのかもしれないけど。
そんな風に思っていると。
「あー!あった!」
とりんが大きな声をあげた。その声に、何何と俺もるなもみづきも近づいてみる。
「これ!これなんかあるやろ!」
とりんが取り出したのは何か手書きの地図だ。少し古めのそれは、少し劣化してボロボロになっている。
「これ、おじいさんの字ね。どこにあったのかしら」
「おしいれのうえのところにはりつけてあったで」
りんの発言に、おばあさんもびっくりしたような顔をする。たしかにそれは掃除じゃ見つからないかもだし、子どもだったら見つけやすいかもしれない。
地図をよくよく見れば一ヶ所、宝箱のマークが付いている。
「これって、たからのちずかな!」
るながワクワクしたように声を出す。
声には出さないが、みづきも何かうずうずしている。
「もしかしたら、おもちゃとかをおじいさんが隠したのかもしれないわね。困った人だわ。あなたたち、良かったら探していらっしゃいな」
おばあさんがそう言うと、目の前になにやらウインドウが表示される。
俺たちは目を見合わせて、それに返事をする。
『とくべつクエスト:おじいさんのたからさがしをかいしします!』




