しかえしだっ!
さりとて、このままやられっぱなしというのも何とも気分がいいとも思えない。
自分と同じような目にあう幼女達がいると思うと、それもまた許しがたいものがあった。
「そういうわけなんですけど、どうしたらいいでしょう」
「うーん、そんなひとたちがいるんですか。こまりましたねぇ」
片方の手を頬に当てて、困ってしまいます、なんてポーズのロゼッタさん。
今いるのは、毎度お馴染み裏山の秘密基地だ。
みづきとりんと一緒に、せめてこのゲームの中だけでも彼らの暴挙を止められないかと、そう思ったわけで、秘密基地で作戦会議だと張り切ってきてみると、たまたま反対側のアリスの秘密基地に来ていたロゼッタさんに出くわし、状況を説明した次第である。
「そういうのはやっぱり、うんえいさんになんとかしてもらったほうがいいんじゃないかと……」
「そうおもったんですけど、まだわたしたちだけかもしれないし、うんえいにいうのははやいかなって……」
「うんえいがわはたぶん、ひなちゃんひとりがひがいにあってもうごいてくれるとおもうけどねぇ…………しゃちょうもきにいってるし」
「……?さいごになにかいいました?」
「ううん?こっちのはなしだからきにしないで」
「はぁ」
さてでも困りましたねと、ビシッと正座で座るロゼッタさんは本当に頼りになりそうな雰囲気だ。りんやみづきなんて寝っ転がっているのに。……俺?女の子座りしてるよ。あぐらだとぱんつ見えそうになるし、正座は足が痺れて痛くなるから、これが一番楽なんだよ。仕方がないんだ。
そんなことよりも、あの子達に対してどうするかだ。
かと言って、俺たちに出来ることなんて運営に報告するぐらいしかできないだろう。それで運営が動いてくれるかはまた別として。
「めんとむかっていったら、またおっかないことされそうだし……」
「……らんぼうきらい」
みづきは怒っているのかな。みづきはいつもやる気のない半眼だから、表情がわかりづらいのだけれど、みづき検定1級(自称)の俺からすれば、みづきがどう思っているかなんてすぐにわかってしまうのだ。
「……おっかなかったから、ひーちゃがんばって」
「えぇぇ……」
普通に怖がっていただけみたいでした。俺もまだまだ修行が足りないようだ。
その横でダラダラとしているりんが言う。……というか、ロゼッタさんもいるんだし、ダラダラするのはやめようよ。
「でーもー。しょうじきなんもできひんやん?うんえいさんにいうしかないんやないのー?」
「でもでも!こっちがこわいめにあったからむこうもこわいめにあってもらいたいというか……」
俺がそう言うと、ロゼッタさんは両手の指先をを口元で合わせ、
「そういうことなら、おどろいてもらえばいいんじゃないでしょうか?」
と、そんなことを言うのであった。
ーーーーーー
薄暗い森の中に、数人の男の子達。
彼らの見た目こそ保育園児のような見た目をしているが、其の実中身はいい年をしたおっさんであったり、暇を持て余した大学生であったりした。
彼らは掲示板で知り合った仲間たちであり、オンラインゲームの謎解きや、クエスト、ドロップアイテム、どこにどんなアイテムが落ちているか、ゲーム内でこんな噂があった、などといった情報を集め、検証し、そのゲームの中で自分たちが優位に立ちたいという自己顕示欲を持った集まりであった。
ちなみに、その掲示板は彼らのような人間ばかりが集まっているわけではなく、純粋に情報共有をしてゲームを楽しみたいという人もいるということを補足しておきたい。
彼らは今、スタート地点である保育園の裏側の山に来ていた。
『ちゃいるど・はーと・おんらいん』はまだ発売されてから日が浅く、そのゲーム性の特異性と、豊富な『おてつだい』から、その全てが攻略されているわけではなかった。そして、『おてつだい』は人がいないと始まらないため、人のいる街中の方にプレイヤーも進んでいくので、人のいない裏山の方は、ほとんど未開の地であった。ひなやアリス達の秘密基地が秘密のままでいられたのもこのためである。
では何故彼らがそんな裏山の方に集まってきたのかといえば、ある噂が彼らの耳に入ってきたためであった。
「保育園の裏山に、何か特別なアイテムがあるらしい」
そのザックリとした内容に、誰が飛びつくのかと思えば、思いの外彼らはアッサリと飛びついた。一応は彼らも検証するという目的を持っていたため、果てはその『特別なアイテム』に目が眩んだのか、特に疑問も持たずに裏山へとやってきた。何もなければ何もないで、「裏山には何もなかった」というのが検証されるので、別に裏山に行くことに反対する理由もなかったのである。
ましてやこのゲーム、特に死んだりするわけでもなく、通貨であるぺたを失ったりもすることはない。何かをするにあたってのデメリットが全くと言っていいほどになかったのだ。
そんな訳で彼らは裏山探索を始めた。
大きくはないその身体で、1歩、また1歩と歩みを進めていく。
途中で、買ってきたジュースを飲みながら進んでいく。曲がりなりにも検証をよく行う彼らは、結構な額のぺたを持っていた。そして、ぺたの使い道が、服が主体であるこのゲームにおいて、服装をそれほど気にしない彼らは、ジュースやお菓子と言ったものを買うことがほとんどだった。そうしてたくさん持っているジュースをごくごくと飲み干しながら、どんどん先に進んでいく。
「はー、ほんとうになにもなさそう」
「いうなよ、おれもおもってたところだ」
軽口をたたき合いながら、てくてくと歩いていくと、目の前に、人が1人。
「おんなのこ……?ぷれいやーかな?」
「お、じゃあおちかづきになっちゃおうかなっ。おーい、そこのきみー……」
何も疑うこともなく、プレイヤーと思わしき幼い女の子、幼女に声をかける彼ら。
着ている白いワンピースをフワッと翻し、黒く透き通った長い髪を靡かせて振り向いたその幼女の顔は、
「あなたたち、だぁれ……?」
綺麗なはずの顔をぐちゃぐちゃに赤く塗られた、まるで頭から血でも被ったような、化けて出てきたような顔をしていた。
その顔を見た彼らは思わず驚いてしまう。誰だって、化け物を見てしまったら、恐怖で驚いてしまうであろう。
その恐怖という感情を、『ちゃいるど・はーと・おんらいん』の感情モジュールは見逃してはくれなかった。
子どもが感じる恐怖と同じくらいの恐怖を感じるように、恐怖の感情を倍増させていく。
「いっしょにあそびましょう……?」
ニタリと笑いながら、その幼女は彼らに近づいていく。
その時であった。
「あ……あぁ……」
彼らの1人が、履いていたズボンの股の間を濡らしていく。先ほど大量のジュースを飲んでいた所為であろう。
1人、また1人と、股の間を濡らしていき、ついには悲鳴をあげながら、逃げ帰ってしまった。
その後から、保育園の裏山には幼女の幽霊がでると、そんな噂が流れ始め、裏山に近寄るプレイヤーはほとんどいなくなったという。




