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いべんと、みづきといっしょに。 2

    「あら、今日はこの店の手伝いがくるってタツキから聞いていたのだけど、もしかしてひなちゃん達のこと?そうだとしたら大丈夫?」


  いいえ、全く大丈夫ではございませぬ。

  なんとなく、なんとなくは予想はできていたんだけれど、覚悟をしていたかどうかはまた別の問題であって、予想をつけれたのもこの店に着いてからの話なので、覚悟を決める暇なんて1つもなかった。

  そもそも俺はみづきについてきただけなのだ。碌に行き先も聞かず二つ返事で。……普通に俺が悪いわな。どうにも年下に甘いのかもしれない。姪っ子といい、妹分みづきといい。

  だがしかし。俺もやすやすとコスプレ姿を披露してやるつもりなんかない。そんな安い女ではないのだ。……そもそも女でもないけれど。

 

  「わたしは、こすぷれなんかしない!」


  そう、高らかに宣言する。

  レイネお姉さんは「あ、そーなんだ」と納得した顔だ。その後ろでは、みづきとタツキお兄さんが残念そうな顔をしているけれど。


  「そんな!勿体無いぞ、そんなにかわいいのに。絶対メイド服とか似合うと思うんだ。そうだよなぁ、みづきち」

  「……うん、ひーちゃにはめいどふくにあう」


  似合う似合う言われたところで、俺の意志は固い。着ないったら着ない。


  「仕方がない、みづきち、あれを使うか」

  「……がってん」


  そう言うと、みづきとタツキお兄さんはごそごそと何かを用意し始める。しかもカウンターの陰に隠れてだ。 準備が終わったのか、物陰から出てきたみづきの姿は、猫の着ぐるみ風な格好だった。着ぐるみ部分とは別に、肉球風の手袋とスリッパ、更には前にるなが付けていた猫耳と尻尾まで付いている。

  その格好でみづきがこちらに近づいてくる。1歩歩くたびに、肉球スリッパがプピッ、プピッと音を鳴らし、みづきの感情に合わせてなのか、耳はぴくぴく、尻尾もふりふり動いている。

  わかってる、わかってるさ。誰がどう見ても、どう考えても、どうしたって120%、あの格好でおねだりをするつもりなんだ。たしかに今のみづきの格好はかわいいさ。それは認めざるを得ない。猫みづきパーフェクトバージョンだもの。だからって、俺がそんな見え見えの罠に引っかかると思ったら大間違いで、


  「……いっしょにおてつだい、しよ?」

  「うんっ!」


ーーーーーー


  だってしょうがないじゃん?あんなかわいさ100%で出来ているようなみづきがだよ?俺のスカートの裾をつかんで上目遣いでおねだりしてくるんだよ?そんなん断われるわけ無いよね。しょうがないんだ。俺は悪くねぇ!だから今こうやって、


  「いらっしゃいませー♡」


  って店先でメイド服を着て客引きしてるのも俺じゃなくて他のみんなが悪い。そういうことだ。

  道行く人々に笑顔でお店に来店するように声をかけるが、NPCがわざわざこんなところに入るわけもなく。プレイヤーの子どもも、怪訝な目や憐憫の目、後はかわいいかわいいと褒め称える男の子がいたが、しつこいので追っ払ってもらった。

  たしかにかわいいんだよ。黒と白を基調としたエプロンドレスのフレンチメイドのメイド服で、袖はパフスリーブ、スカートはミニ丈、中から大量のフリルが見え隠れしている。足元もこれまた黒のローファーに、白のニーハイソックス。頭の上にはホワイトプリムのカチューシャが乗っかっている。


  「……ひーちゃかわええ、たっちゃぐっじょぶ」

  「そうだろーそうだろー。私の選んだメイド服だからね!似合わないわけがないんだよ!けど、あの子の素がいいのは間違いないね、うん」


  興奮気味に語り合うみづきとタツキお兄さん。一発ぶん殴ってやりたい。……二つ返事で引き受けた自分を。

  しかもこの後は別衣装で撮影会も待っている。撮影会とはいっても誰彼構わず来るわけではなくて、タツキお兄さんのお店での宣伝用と、個人的に、という事だった。そのことに対して少しげんなりしていると、レイネお姉さんがこう言った。


  「安心して、タツキは性的な意味で個人用って言ってるわけじゃなくて、あいつは生粋のコスプレマニアだから。かわいいコスプレイヤーとかの写真集めが好きなのよ」


  いや、それはそれで安心してはいけない気もするのだけれど。とやかく言っても仕方がないので、いよいよ撮影会の開始だった。

  撮影部屋に来てみると、カメラを構えたタツキお兄さんと、同じくカメラを構えたみづきがいた。キラキラな笑顔なので、嫌とも言えず、スルーした。

  ちなみにこのカメラというアイテムは、現状普通には手に入らない。所謂管理者権限専用アイテムの扱いだ。お店を持ってる人達に広報用という事で割り振られているアイテムであるが、それを何故かみづきが持っている。きっとレイネお姉さんが貸したのだろう。それでいいのかと思わなくはない。

  それはさておき、俺は照明のよく当たる撮影場所に立った。


  「じゃあまずは、胸のところでハートを作って、『萌え萌えきゅん』みたいな感じで」

  「やだっ!」


  全力で拒否した。

  何度でも言うが、こんな格好をしていても俺は男だ。そんなかわいいポーズを作ったりとか絶対にしたくない。そこにどんな罠が潜んでいようとも、


  「……ひーちゃ、やって?」

  「もえもえきゅんっ♡」


  チョロいとか思った奴。……俺だってそう思ったよ。


ーーーーーー


  その後も巫女服だとかナース服だとか色々と着せ替えられて、撮影を続けた。

  何かするたびに俺は嫌だといったのだが、そのたびにみづきがお願いしてくるので、断れずに色々やった。……思い出したくはないので放っておいて欲しい。


  「お疲れ様、かわいかったわよ」

  「うれしくはないです……」


  レイネお姉さんは俺にジュースを渡して、横に座った。


  「まぁ、私としてはあれでタツキのインスピレーションが働けば仕事が増えて嬉しいけど」

  「たつきおにいさんってでざいんもしてるんですか」


  インスピレーションが働く、という単語でそうではないかと思って聞いたが、レイネお姉さんはそうだよ、と肯定した。

  タツキお兄さんがデザインを描いたものを、制作料を貰って作ってるのだとか。


  「そんなわけで、一応ここも私製の服が売ってるからよろしくねー。あと、タツキは女だから、お姉さん、だよ?」

  「……え?」


  それを聞いて俺は、今日一番の絶叫をしたのだった。


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