3話:ついせきだ!★
「あ、ありすだ」
「え、どこどこ?」
ろぜったさんと別れ、秘密基地のある裏山から降りて、るなと2人で何をしようかと歩いていると、遠くにありすの姿が見える。
ちなみに、みづきは次の日に用事があるからと、今日は早々にログアウトし、りんも何やら用があるからと、どこかへと駆け出していってしまった。
ありすに声をかけようと、俺がそのまま歩きを進め近づこうとすると、急にるなに止められる。
首の後ろの襟を掴まれたものだから、息が詰まって、ぐえっ、と変な声を出して咳き込んでしまう。
「けほっ、るな!なにす、もが!」
抗議をする俺の口を、るなのぷにぷにの手で塞がれる。そして、もう片方の手の人差し指を口元に当てて、しーっ、と静かにするようにというジェスチャーをする。
電柱の陰に隠れて、ありすの様子を見てから、るなはこんな事を言い出した。
「こっそり、おいかけよっ」
「ちょ、まってっ」
てくてくと歩くありすの後ろを、こそこそとついていくるな。置いていかれないように、俺も慌ててついていく。
電柱や塀の角に隠れたり、時には一気に近づいてみたり、バレないように後をついていく。なんだか、こっそりとするのって、ドキドキして面白い……かも?
「ねぇねぇ」
「なぁに?」
追いかけている最中だというのに、るなが袖をつかんで話しかけてくる。
るなの方を向いてみれば、どこから取り出したのか――無論アイテムストレージからであろうが――顔よりも大きい黒いサングラスをかけていた。
「すぱいといったらこうでしょ!」
目は見えないけれど、ドヤ顔が浮かぶようだ。なんだかため息が出てきそうだ。
そんなるなは無視してありすを追いかけると、急にありすが立ち止まり、周りをキョロキョロと見渡し出した。それから、肩に下げたポシェットから、何かを取り出している。あれは、地図? メモ?
その動きに、俺たちは慌てて自動販売機の陰に隠れる。ギリギリバレてはいないと思うけど、大丈夫だろうか。
「もしかして、ばれちゃった?」
「そんなことないとおもうけど……うーん、なにをみているのかしら」
顔だけをひょっこりと覗かせて様子を見ていても、ありすが何を見ているのかまでは見えない。
そうこうしているうちに、ありすがまた歩き始める。
「あ、ありすがうごいた!」
「おいかけなきゃ!」
動き始めたありすの後を追いかけて、自動販売機の陰から走り始めて、ありすが曲がった十字路の角を曲がる。
すると、長い1本道が続いているのに、ありすの姿は影も形もなくなっていた。
キョロキョロと周りを見渡しても、どこに行ったのかわからない。
「あれれ?こっちにまがっていったわよね?」
「うん、こっちだったとおもうけど……」
ありすがこっちに曲がったのは見ていたから間違いないはずなのに、どこをどう見ても、ありすの姿は見当たらない。別の角の方向にも、もちろん見当たらなかった。
まるで、さっきまで追いかけていたありすが、本当はありすじゃなくて幽霊か何かだったように思えてきて、急に怖くなってきた。
「ねぇ、るなぁ、さっきまでのって、ゆうれいとかじゃないよね……?」
「そ、そんなわけないじゃない!そーいうこというのやめてー!」
けれど、見渡せど見渡せどありすの姿は見つからない。
るなと2人で、ぎゅっと抱き合わせていると、後ろから、頭に衝撃が走る。
「いたっ!?」
「いたいっ!?」
急に頭を殴られた痛みに、頭を抱えてぷるぷるする。
その殴られた方向を向きなおしてみると、ありすが腕を組んで立っていた。
「まったく……なにしてますの、あなたたちは」
「え? え? なんでうしろからありすが?」
るながすごく不思議そうに、ありすに話しかける。
「なにか、おいかけられているきがしたから、そこのでんちゅうにかくれてましたの。まったく、あなたたちときたら……」
ありすはすごく呆れた様子で、今の状況を説明してくれた。
「うぅ、ごめんねぇ……」
俺は、悪いことをしてしまったと思い、ありすに謝った。
ありすはそれを見て、手をぶんぶんと振って慌て始めた。
「い、いえいえ、いいのですわ! ひなたちがわるいわけではないですもの! まったく、ろぜったがあんなはなしをするから……」
「ろぜったさんのはなし?」
「ええ、ろぜったが、『さいきんは、おっかないことをするこがいるからきをつけて』なんていうものだから、こわくなっちゃって……」
そう言ったありすは、自分の両腕を抱いて身震いする。しかし、すぐに強気に戻って騒ぎ始めた。
「って! こわくなんかありませんわ! あなたたちがついてきている、ってしってたんですのよ!」
きーきーと、騒ぐありすを、るながどーどーと宥める。
けれど、さっきのありすの話に、気になることがあった。
「ねぇありす。さっきのはなし、ろぜったさんからわたしたちもきいたんだけど、ろぜったさんはありすからきいたって」
ありすはふーふーと唸ったままだったが、俺の話は聞こえていたようで、俺の方に向き直って、話し始めた。
「あーと、それは、ろぜったがかんちがいしてますわ。わたしがしたはなしって、『おてつだい』のはなしだけですもの」
ありすの話によると、どうやら特定の『おてつだい』を何回もすると、新しい『おてつだい』が発生することがあるらしい。これは、βテストにはなかったものだ。
もう1つのおっかない子の話は、ろぜったさんが自分で聞いてきたらしいものの、俺たちに話す時にありすの話とごちゃごちゃになってしまったらしい。
「どじっこなのかな……」
「いろいろなすきるはあるのにねー」
今の話だけを聞いていたら、途端に残念な子にも聞こえてきた。
「それでは、わたくしは『おてつだい』のとちゅうですので、これでしつれいしますわ」
スカートの裾を優雅に持ち上げ、挨拶をして立ち去ろうとするありす。
けれど、俺たちも特にやることもなかったので、一緒についていくことにした。
「まってー!」
「ついてくー!」
「こなくてけっこうですわ!」
けれど、そう言ったありすの顔は、ちっとも嫌そうではなかった。




