34話:おしまい、おしまい
「みづきー!」
「……ひーちゃー」
がしっ、ぎゅ、ぎゅー!
「あんたたちねぇ……まぁ、きょうはいっか」
「せやせや、きょうぐらいは、ええんとちゃうの?」
るなとりんが何か言ってるけれど、今は気にしない。今日を逃すと、次にいつみづきをぎゅーできるかわからないからだ。……この身体だと、妙にみづきをぎゅーっとしたくなるんだよなぁ。なにか、毒されている気もするが、まぁいいか。
一頻りぎゅーっとし終わってから、秘密基地に向かう。
βテスト最後の日、4人で、秘密基地で最後を迎えようというるなの提案に、反対する人はいなかった。
みんなで手をつないで、保育園の裏山へと入っていく。
転びそうになったみづきを助けて、足早く進んでいくりんを窘め、るなが大きな声で歌えば、それにつられてみんなで歌う。
きゃっきゃきゃっきゃと、笑い合いながら秘密基地へと向かった。たどり着いたそこには、
「まってましたわ!」
「えぇー……」
ローズゴールドの長い髪、青と白のエプロンドレス。アリスが何故かそこにいた。
「まってましたわ!」
「さっきもきいたよ」
「だいじなので、にかいいいましたわ!」
なんか、うざいノリでアリスがそこにいた。
「で、なんでいるの?」
るながアリスに尋ねる。
「よくもきいてくれましたわね!」
何故か逆ギレを始めるアリス。
埒があかないので、適当にアリスをなだめ、話をさせた。
要約すると、せっかくのβテスト最後の日だというのに、ろぜったさんや、他に知り合った子たちもみんなログインできないそうだ。
それで寂しくなったアリスは、すぐ裏にある俺たちの秘密基地に来てみて、そのうち来るだろうという楽観的な思考を元に、今の今まで待っていたのだという。
「……あーちゃはかわいいね」
話を聞き終わったみづきが、アリスの頭をなでなでした。
俺も、アリスにぎゅーっとしてみた。
「ちょ!なにしてますの!?」
「……ひーちゃのぎゅーはきもちいいよ?」
「ありすがかわいいから、つい?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐアリスを尻目に、俺はぎゅーっとした。それを援護するかのように、みづきも反対からぎゅーっとする。
2人でぎゅぎゅー攻撃だ。
アリスは次第にぽやんとした顔になり、最後は甘んじてぎゅーされていた。
「これは……おそろしいわね……」
「あるいみごうもんやね……きょうせいてきに、あんなかおさせられるなんて……」
拷問とは失礼な。こんなかわいい美幼女に……自分で言って恥ずかしくなってきた……とにかく、ぎゅーされるのが、拷問だなんてあり得ないだろうに。
「はにゃん……」
アリスを見れば、幸せそうな顔をしていた。
これがなぜ拷問なのか、理解に苦しむ。
しばらくぎゅーっとして満足して、アリスがはにゃんとした状態から戻ってから、いろいろ話をした。
「それにしても、ありすちゃんのふくめっちゃかわいなぁ。どこでこうたん?」
「これはでぱーとのにかいの……」
「あー!あのこすぷれしょっぷ!」
「……ひーちゃのめいどふく……」
「え?ひなちゃん、めいどふくきるの?いつ?いまでしょ!」
「きないしもってないし!?」
わいわいがやがや、きゃっきゃきゃっきゃと楽しく話をした。
そんな風にしているうちに、刻一刻と時間は過ぎていく。
そして……
『みなさんに、ごれんらくです!』
「お、ようじょちゃんひさしぶりやん!」
りんが、自分も幼女のくせに、ようじょちゃんとか言っている。
「ようじょちゃんって?」
「はじめてろぐいんするときの、ちゅーとりあるのようじょのことなんだってさ」
るながそう教えてくれた。
ようじょちゃんは大きな、元気な声で放送を流していく。
『あとごふんで、べーたてすとがおわります!いそいでろぐあうとしてください!』
とまぁ、そんなこんなでもう終わりの時間になってしまった。
ログアウト、したくないんだけどなぁ……。
「じゃあ、わたくしはこれで」
「もういっちゃうの?」
寂しさからなのか、つい、そんなことを言ってしまった。
「えぇ、あまりながくいてもしょうがないですし、それに、またあえるってしんじてますから」
「うわぁ、はずかしいせりふだ」
「るな!おちょくるのはやめてくださいまし!」
いや、確かに恥ずかしいセリフだったけれど。
でも、アリスはまたここに、来られることを心から信じているんだ。
「それではみなさま。ごきげんよう」
すぅ、っと。アリスの身体が消えていく。ログアウトが完全に終わったようだ。
「じゃーうちもいくでー」
「りん……」
「ひなちゃん、そんなかなしいかおせんといてや。ありすもいうとったやろ。またあえるーて」
りんは俺の頭をぐしぐしと撫でた。
そこにるなも近づいてくる。
「りんちゃん。またこんど」
「るなちゃんもなー、またこんどやで。みづきもなー」
「……ばいばい、りーちゃ」
「ほな!さいなら!」
りんもそう言い残して、ログアウトしていった。
「あのこは……こういうときは、さよならっていわないのがおやくそくでしょーに……」
「……りーちゃらしいの」
りんを見送って、次はみづきだった。
「……ひーちゃ、ぎゅ」
「みぢゅきぃ、ぎゅー」
「あきないわよねぇ……」
別れを惜しむかのように、ぎゅーっとした。いつもよりも、ちょっと強めに。
「……まんぞく。それじゃあ、またこんど」
そう言い残して、みづきもログアウトする。
「あれ?わたしにはなにもいわないの?」
るながぽかんとしていた。
俺はもう泣きそうだった。
るなが俺の手を握って話しかける。
「はぁ、ひなちゃん。さっさとろぐあうとするよ」
「うん……」
「さみしいのはわかるけど、しかたないでしょ」
「うん……」
「それじゃあ、せーのでろぐあうとしようか」
「わかった……」
「それじゃあ」
「「せーのっ」」
そうして、俺たちの『ようじょ・はーと・おんらいん』は、βテストが終わったのだった。




