29話:ようじょたちのひみつきち に
はてさてはたして。
秘密基地を作ると意気込んだはいいものの、秘密基地ってどうやって作っていたっけ?昔はよく、押入れの中とか、隠れられる場所を勝手に秘密基地にしてみたり、山の中とかに作ったこともあったっけ。
「うちは、おしいれのなかにつくったことあるんよ」
「そんなの、すぐみつかるじゃない!きゃっか!」
すぐ見つかるんじゃ、秘密基地じゃないもんなぁ。秘密基地は、やっぱり作った仲間内だけでの秘密にしておかないと。
「……わたしは、へやのなかで、ひみつきちごっこしかしたことない」
「そっかー、よしよし」
とりあえずみづきを撫でておいた。気持ちよさそうな顔をしている。……最近、みづきに犬耳と尻尾がついてるような気がするけれど、気のせいだろう。
とはいえ、うんうん唸っていても、いいアイディアなんてそうそう浮かばない……
「わたしに、いいかんがえがあるわ!」
どこか不安にさせるその発言をしたるなに、俺たちはとりあえずついていくしかなかった。
ーーーーーー
てくてくとことこ、るなに歩いてついていけば、たどり着いたのはいつか来た服屋さん、『レインボーダー』の前だった。
入り口の前に立ち、なぜか踏ん反り返って偉そうなるな。
「ここって……れいねおねーさんのおみせじゃない?」
「そうだよ?」
「いや、そうだよじゃなくて」
俺の問いかけに、何言ってんのこいつみたいな顔をするるなに若干、いやかなりイラっとしたけれど、るなはそれ以上は何も言わずに店の中へと突撃した。
「たのもー!」
「あら、いらっしゃい」
チリンチリンと店のベルがなったその奥に、暇そうにしていたレイネお姉さんがいた。
相変わらずのその豊満な胸を、カウンターテーブルに突っ伏して潰しているその様子は、明らかに怠そうで暇そうだった。
「今日は、どんな服が欲しいのかしら」
「きょうは、ふくじゃなくて、だんぼーるください!」
「……へ?」
るなは一体、何を要求しているのだろうか。
ゲームの中の店で、しかもここは服屋なのに段ボールなんかあるわけが……
「段ボールね、裏にあるから待っててね」
「あるのっ!?」
「ほんとにあるのっ!?」
「って、なんでるなまで、おどろいてるの!?」
訳がわからないよ。とりあえず、るなが何も考えていないことだけはわかった。
「いや、れいねおねーさんなら、なにかいいことしってるんじゃないかなー、っておもって……」
「るなちゃん……それはさすがに、なにもかんがえてなさすぎやとおもうんよ……」
みづきも、うんうんと頷いている。さすがのるなも、全員から言われるとしゅんとしていた。
「はい段ボール、って君たちどうしたの?」
俺たちがやいのやいのやっていると、段ボールを手にしたレイネお姉さんが戻ってきた。
キョトンとしているレイネお姉さんに、俺はたどたどしくも説明した。というか、たどたどしくしか説明できなかった。……レイネお姉さんはティッシュを常備しようか。多分、説明する俺がかわいくて、とかだと思うんだけど、あんまりそうは思いたくはなかった。
「あー、何も知らないできたのかー。うんうん、偶然とはいえ、たどり着いちゃったのならある程度は答えてあげるよー」
レイネお姉さんは、笑って鼻血を拭きながら言った。……それがなかったら、本当に格好つくのになぁ。
ひとまず、なぜ段ボールがあるのかを聞いてみる。
「そうだね。子どもの時って、なんでもオモチャにしなかった?お菓子の箱とか、ラップの芯とか、段ボールとか。『子どものような、自由な発想で遊べるゲームを作る』っていうのも、制作サイドのテーマでね。私たちとかNPCとかに言えば、何かしらは貰えるよ。その時の有る無いはあるけどね。」
つまりは、オモチャ、遊ぶ道具になり得るものならなんでもあるらしい。
ただし、現実的に無いものは出てこない。例えば、今のように店の人に段ボールはあるか、と聞けば店で使っていたものがある。と言う様に返事が返ってくるが、ただ道行く人に段ボールはあるかといっても、持っているはずがないので、手に入らない。
現実に無理のない範囲で、有る無いは決まっているらしい。
「ラップの芯みたいなのだったらあるけどね。捨てようとしていたものがー、みたいな形で」
それは確かに、無理がない範囲だと思う。
そういえば、前にるなが何処かからハンガーを持ってきてシャボン玉を作ったりしていたけれど、あれも、このシステムがあるからこそ出来たことなのか。
だからこそ、この土壇場で、偶発的に手に入った情報なのが惜しい。これを早めに知っていれば、もっと色々な遊びが出来たはずだと思う。
「……ひーちゃ、どうしたの?なんだか、しょんぼりしてる」
みづきが、俺に近付いて聞いてきた。……そんな顔になっていただろうか。ぺたぺたと顔を触ってみても、自分じゃあよくわからない。俺は、思ったことをそのまま伝えた。もっと色々遊べたのにねと。そうしたら、みづきはなんでもないという風に、こう言った。
「……だいじょうぶ。せいしきさーびすになったら、またあそべばいい」
「……あ、そっか」
そうか、また遊べばいいんだ。βテストだけで終わりだなんて、誰も言っていない。今後正式にサービスが始まるだろう。その時に、また遊べばいい。だから、その時にまた遊べるように、みづきに聞いてみた。
「みづき、またあそんでくれる?」
「……?いまから、あそぶんだよ?」
「……うん、そうだねっ」
みづきと2人向き合って笑いあう。みづきは、よくわかっていなさそうな顔をしていたけれど。けれど、それでいいのかもしれない。
「ちょっとー!ふたりともはやくー!」
「だんぼーるさんおもたいわぁ」
いつの間にか、段ボールを抱えたるなとりんが店の外で待っていた。重たそうに段ボールを抱えながら、ブンブンと手を振っている。
「いこっか!」
「……うんっ」
俺も2人の後を追いかけるべく、みづきの手を引いて店の外へと出た。




