28話:ようじょたちのひみつきち いち
「もうそろそろ、べーたてすとおわりやん?なんや、ぱーっとしたことしたいね!」
何時ものように、4人で集まった。集まるなり、りんがそう言いだした。
結局のところ、考えたけれどこれといったものは思い浮かばなかった。いろいろと調べてみたりもしてみたが、なんというか、何かが足りないような、そんな気がしていた。けれど、それが何なのか、わからないままだった。
「ぱーっとっていったってねぇ……。りんは、なにがしたいのさ?」
るながすぐに返す。「そんなんしらんし!」とりんが怒った。完全に逆ギレだった。とにかく、りんもるなも、なにかいいアイディアがあるわけでもなさそうだ。みづきは1人、よくわからないといった顔をしている。
「あ、もうすぐ、べーたてすともおわりでしょ?だから、さいごになにかしようって」
「……そうだったの」
もうすぐ最後。自分で言葉にしてみると、どこか、とても寂しい気持ちになってしまう。
本サービスが始まることで、今までになかった要素が取り入れられるかもしれないという期待感はあるものの、しばらくログインできないという喪失感、みんなに会えなくなるという寂しさが合わさって、なんだかもう落ち着かない。
とりあえず落ち着くために、膝の上に載せているみづきを、ぎゅっっとした。今日はログインするなり、みづきが甘えたさんで、こうしてずっと、べったりとくっついて、時折なでなでを要求される。嫌ではないから、構わないのだけれど、どうしたのだろうか。
しかし、はぁ……癒される……。普通に遊んだりしているだけでもいいんだけれど、みづき抱いてるとほんっと癒されるわー。みづきの頭を撫で回す。なでなでなでなで……。みづきも気持ちよさそうに、俺に体重を預けてぽやーっとしている。うんうん、かわいいかわいい。
そんなのんびりのほほんとした俺たちの横では、るなとりんがなにやら言い合いを繰り広げていた。まぁ、いつも通りか。いつも通りだから放っておいたのだけれど。
「ひなちゃん!なにかいけんだしてっ!」
「せやせや!ひなちゃんもなにかいってーや!」
うわ、こっちに飛び火してきた。これもいつも通りか。俺は別に何かしなくても、みづきを撫で回してるだけで充分なのに。
「そんなこといったってぇ……」
「そんなもこんなもないの!いいからいーけーんー!」
「せやせやー!あいでぃあをだしー!」
あぁもう!こういう時ばっかり結束して!
とはいえ、何も思いつかない。散々悩んでいて思いつかないものが、この土壇場で思い浮かぶはずもなく。というか、みづきをぎゅーして、現実逃避していたから何も考えていなかった。とりあえず、格好だけでもうーんと唸ってみる。足りない頭を、さらに捻って考える。とはいえ正直何をすればいいのやら。このゲーム内でできて、ぱーっとしていて、何か楽しいこと。うむむ。
俺の膝の上で、みづきもうーんうーんと唸っている。あぁ、もう。本当にかわいいなぁ。なでなでなでなで。
「……ひーちゃ、うるさい」
「あ、ごめん……」
普通に怒られてしまった。気持ちはしゅんとしてしまったが、みづきの頭の上に手は置きつつ、俺も真面目に考えてみることにする。
とは言っても、さっきから、強いて言うならここ最近ずっと考えていて、どうにも思いついていないのだからどうしようもない。うんうん唸っていて何かいいアイディアが出ているなら、とっくの昔に何か思い浮かんでいる。
「……なにか、つくってあそびたい」
「ええやんええやん!なにつくる?」
何か作るって言っても、小さいものだったらそんなに思い出になるわけでもなさそうだし、いったい何がいいんだろうなぁ。とりあえず、思いつきでもいいからなにか言ってみる。
「うーん、おっきいかみに、おえかきするとか?」
「それだけやと、おもしろくないんやないの?」
「じゃあ、りんはなにかかんがえたの?」
「なんにもおもいうかんでへんよ!」
「いばらいでよ!」
りんが相手じゃ、話にならない。みづきの方はどうだろうか。
「みづきはなにかおもいついた?」
「……なにか、おっきいの、つくる」
「うーん、そのなにかをかんがえようかー」
「……うん、かんがえる」
一生懸命考えているのはわかるんだけど、これは、しばらく何も出てこなさそうだなぁ。
そんなときだった。
「……あー!そうだ!」
と、突然るなが大声を出した。その声に、俺もみづきも、りんもみんな耳を手で塞いだ。
「るな!うるさいよ!」
「ひみつきち!つくろう!」
そんな俺が注意する声を無視して、るなが出した提案は、割と、かなり突拍子も無い提案だった。
ーーーーーー
秘密基地。子どもの頃に、こんな経験をしたことはないだろうか。
例えば、家の押入れに入って、1人または兄弟と親に内緒でおやつを食べてみたり。
例えば、公園の遊具の中に入って、友達と秘密の話をしてみたり。
例えば、近所の山や森の中に、友人たちと拾ったエロ本を隠してみたり。
……最後のは、ちょっと違う気もするが、とにかく、小さい頃に気の合う人間同士で集まるための場所を作ったことはないだろうか。
俺も、思い当たる節はある。もちろん、エロ本の隠し場所のことではない。友だとと段ボールの中に入ってみただけだったり、土管の中を勝手に基地にしてみたり。そういう意味じゃ、大学時代の人数の少ないサークルの部屋も、秘密基地と言えるかもしれない。今となっては、懐かしい思い出だ。それを、今、るなはやろうというらしい。
確かにそれなら、みんなで大きなものを作って、いい思い出作りになるかもしれない。
「おもしろそうやん!うち、のったで!」
りんが、だぼだぼのパーカーの袖を振り回しながら言う。何も考えていなさそうだけれど、多分あれは、本当に楽しそうだと思っている時の顔だと思う。
「……がんばる」
みづきも、ふんすと鼻息を鳴らして、俺の膝の上から飛び降りた。背中に背負った、うさぎさんリュックが揺れる。こちらもこちらで、やる気満々といった様子だ。見てみれば、目をキラキラと輝かせている。
「ほら、ひなちゃん。いくよっ!」
るなが手を差し出した。にっこりと笑って、まっすぐと俺を見るその目は、この世界で遊ぶことを、全力で楽しもうという目だ。
そんな目を見せられて、俺には断る理由もなく。だって、俺自身も、とても楽しそうだと思ったから。
「うんっ!」
と、短く返事をして、るなの手を握って、みんなで一緒に駆け出した。




