21話:おねーさんはあぶなくない………よね?
「こっちやでー!」
りんが大きな声を出し、片手を振って俺たちを呼ぶ。もう片方の手はある店を指さしている。
その指差す店は、ガラス張りのショーウインドウに小さいマネキンが飾られいて、カラフルな子ども服が着せられていた。
フリフリのスカートに、リボンがたっぷりついたドレス、ショートパンツにチューブトップみたいな挑戦的なものまである。一言で言えば、かわいい。そんな服がたくさんあった。
「ほえぇ……」
「……しゅごい……」
俺とみづきが感嘆して動けないでいるにも関わらず、るなとりんはすでに店内に入っていった。。俺たちも慌てて店内に入る。
追いかけてみてみれば、るなとりんがお互いに服を当てて、これがいいあれがいいと、見て回っている。
2人とも、服詳しいなぁ……。元々女性の鈴宮はまぁ当然なのかもしれないが、月本はなんで、あんなに対応できているんだ。不思議すぎる。
みづきを後ろからぎゅーっと抱きかかえてる俺の方に、NPCのお姉さんが近づいてくる。長い黒髪を後ろでひとまとめにした、一箇所すごいふくらみのある、スーツ姿のお姉さんだ。
「こんにちは、何か、探してるのかな?」
しゃがんで目線をこちらに合わせるお姉さんは、優しく微笑みかけながら俺たちに話かけてきた。
お姉さんの胸がぽよんと揺れる。俺はゴクリと息をのんだ。目線はそれに釘付けだ。中身はいい年のおっさんなのだから仕方がないだろう。
「……おっぱいすごい」
おおーい!直球すぎるだろみづきさん!?思っても、そういうことは言っちゃいけないでしょう!
突然あまりにも失礼なことを言うみづきの口を塞いで、俺がわたわたと慌てていると、お姉さんは俺とみづき2人ともをぎゅーっと抱きしめた。
その豊満な胸で顔が埋まり、息ができなくて苦しい。俺もみづきも、じたばたと暴れもがいている。
「はぁ……中身が男だと思っても、ロリっ子ってかわいいわぁ……」
……え?今、なんて言った?
「……えっと、おねーさんはえぬぴーしーじゃないの……?」
恐る恐る聞いてみる。お姉さんはニコッと優しく微笑み、「そうだよ?」とあっさりと肯定した。
聞けばお姉さんは子ども服デザイナーで、このゲームで、プレイヤーが着られる服のデザインの一部を担当しているのだとか。ちなみに、ここの店の商品はお姉さんのデザインしたものばかりだそうだ。
それで、実際に自分がデザインしたものがどんな風に着られているのか、なにかミスはないかなどを、確認できるように、この店の店主役でログインできるのだとか。
そして、そういう人間は他にも何人かいるらしい。お姉さんは服の部分が専門だが、幼女化している俺たちに何か異常は起きていないか、確認するための監視員のような役割の人が、NPCに紛れてチェックしているらしい。……それはまぁ、ないと色々危ないよなぁと、しみじみと思うわけで。
「ところで、そんなだいじそうなことはなしてもいいの?」
俺はお姉さんに聞いてみる。人差し指を顎のあたりに当てて、小首を傾げて聞いてみる。もちろん俺がやりたくてこういう仕草になっているわけではない。
「はあぁ……ひなちゃんマジかわいいわぁ……っと、いけない、ヨダレが……」
もしかして俺たちは変態を目の前に相手取っているのではないだろうか。多少なりとも危機感を覚える。一応、セクハラにあたる行為は禁止行為なので、できないはずなのだが。
引いている様子の俺たちを見て察したのか、ようやくその抱擁から解放される。ドキドキはしたけど、それ以上に苦しかった。
「別に、話してはならないという規定はないわ。あまりバレないように、とは言われているけれどね。この前に来た子達もかわいかったから、いい加減に我慢できなくなっちゃって」
えへへ、と頭を掻きながら舌を出して答えるお姉さん。俺は、へぇと言う事しか出来なかった。
「あ、そうだ。私が君たちに似合う服を選んであげるよ。あっちの子達はそうでもなさそうだけど、何を選んだらいいか、わからなかったんでしょう?」
お姉さんのその提案は、願ってもいないものだった。俺は二つ返事でお願いしますと、お姉さんに服選びをお願いした。
お姉さんがいそいそと服を選んでいる間に、俺も自分で見て回る。少しは自分でも選ばないとね?あのお姉さんに任せて、素っ頓狂な服を持ってこられたらそれこそ悲惨なことになってしまうし。さすがに、そんなことにはならないと信じたいのだけれど。
ハンガーに掛けられた服を手に取ってみる。手に取ったのはフリフリのスカート。……これを着るには勇気が足りない。そんなステータスはこのゲームにはないので、俺自身の勇気とか度胸の問題だ。
そっと、そのスカートを元に戻したところで、みづきが話しかけてきた。
「……ひーちゃ、これ、きてみて」
ふんすと鼻息を鳴らせて、目を輝かせながらみづきが持ってきたそれは、……所謂甘ロリという奴だろうか。淡いピンク色の、フリルとリボンであしらわれたそのワンピースは、客観的に見て確かにかわいいのだろう。だけど、だけれど。
「それは、ちょっと」
丁寧に断らせていただいた。自分が着るには、それはハードルが高すぎる。さっきのフリフリスカートなんかよりも、よっぽどハードルが高い。
しょぼーんとした顔で、みづきが甘ロリ服を戻しに行く。なんかごめんよ。
そんなやりとりの後に、どたばたとるながやってきた。
「ひなちゃーん?きまったー?」
現れたるなは、服が初期装備の園児服ではなく、活発な性格に似合ったショートパンツのオーバーオールと、長袖のTシャツを着ていた。アクセントとしてほんの少しフリルのように生地が波打っていて、それがまた女の子らしい。靴下は短いものをつけており、ショートパンツから生足を覗かせている。恥ずかしくはないのだろうか。
「るなちゃん、まってやー」
続けて現れたりんも、服が変わっている。
下は淡い緑のキュロットスカートに、黒のニーハイソックスを合わせており、上はパーカーを着ていた。パーカーもただのパーカーではなくて、フードの部分に猫耳が付いている。自由奔放な彼女らしいと思う。
「ふたりとも、にあうね」
俺は掛け値なしにそう思ったので、素直に褒めた。
そうすると、彼女たちは嬉しそうにニカっと笑った。そしてこう言った。
「ひなちゃんも、はやくきがえようか?」
未だ覚悟を決めきれていない俺に、地獄のような言葉だった。




