表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創リ世ノ記(ツクリヨノシルシ)  作者: 右藤 秕(ウトウ シイナ)
04 魔王編
21/25

魔王編05 ~託されたもの~

―――――――――――――――――――

◆帝都にて

―――――――――――――――――――


【アールヴ暦23万4030年】

【帝国暦1139年】



 リーダティカ砦陥落から約3年が経過した。


 ユウナギが掲げた魔導革命メギア・ノイツローベルの猶予期間はもはや過ぎ去ろうとしていた。その間、魔王率いる魔軍(オウマ・ナグ)アールヴ帝国(アルヴ・ナ・ディール)軍との戦いは続いており、日に日に激しさを増していった。


 戦線は帝都レプラローフにまで後退し、帝都以北の幾つかの町や砦が魔軍によって滅ぼされた。魔軍の猛攻はヒト種のそれと比ぶべくもなく、自然災害のごとく猛威を奮った。その強さはまさに"常軌を逸して"いた。


 魔軍を迎え撃った枢機兵団(ネウ・ゼーフェン)は、帝国正規軍の中でも上位の選抜部隊であり、千年戦争を勝利に導いたアールヴ史上最強の軍隊である。


 その彼等も此度の戦いでは苦戦を強いられていた。それほど魔軍の強さは異常であったのだ。一手でも間違えれば全軍瓦解するほどの、綱渡りのような戦いを繰り返し、将兵は心身をすり減らせていった。


「一体なんだよ、奴らの強さは!? ただの魔獣の寄せ集めじゃあないのか!?」

「特に軍将(グノーシュ)クラスがヤバイ。ありゃバケモノだ!」


 いくら組織化されているとはいえ、ただの魔獣相手なら枢機兵団がこれほど苦戦するはずはなかった。魔軍・四軍将の強さはそれほど衝撃的であったのだ。


 しかしそれでも、この状況はアールヴにとって望みうる最良のものであったのかもしれない。枢機兵団がいなければ、アールヴは3年前には滅んでいたであろうから。



**********



「ええい、枢機兵団も存外だらしのない! 敵の侵入をここまで許すとは!」


 アールヴ帝国(アルヴ・ナ・ディール)、帝都レプラローフの皇宮・謁見の間に上ずった怒声が響いた。第13代皇帝ローレプエム4世の声である。


「陛下、いかが致しましょう。こ、このままではこの帝都もいずれ……」

「陛下!」

「う、うるさい!! い、今考えておる!!」


 皇帝の周りには主だった帝国貴族が集まり、あれこれと結論のでない議論を繰り返していた。そのうろたえ様は見るに堪えないものであった。千年戦争後100年の平和がもたらした弊害であろう。


 主な帝国貴族には、


・ユーシア皇家(ゼルカ)

・シーラプス公爵家(エデュカ)

・ロイヒ侯爵家(セクィラム)

・テスエローフ伯爵家(カテノウン)


等がある。彼等の始祖は、初代皇帝ルエシエークとその仲間達だった。


 もちろん彼等の全てが無能だったわけではない。今の帝国がかろうじて国としての体裁を保っていられたのは、一部の良識ある人々の献身のおかげである。


 この時期、皇帝達に代わって忙しかったのは、ロイヒ家とテスエローフ家の者達であろう。両家は、常に最前線にある枢機兵団を後方から支え、ルーヴ達の魔導革命にも理解を示し、協力を惜しまなかった。


 また、帝都民を順次疎開させ、外交チャンネルを通じ近隣諸国から支援を募り、枢機兵団の支援に向かわせた。帝国と他国との間には統一戦争や千年戦争時の遺恨が無いわけではなかったが、共通の敵を前に団結する他はなかった。



―――――――――――――――――――

◆魔王軍集結

―――――――――――――――――――


 秋の気配が漂う帝都レプラローフ北のルイン平原に、10万を超える魔軍遠征軍の全部隊が集結した。


 先鋒、巨人(ジーナント)ギーガ部隊、1万5千。

 左軍、不死者(ダエ・ヌゥ)ガララド部隊、1万5千。

 右軍、大鬼(ガウロ)ブゥゼルビ部隊、1万5千。

 飛軍、鳥人(ハイラルファ)ペキュトー部隊、2万。

 遊撃隊、竜亜人(ノグアード)ノーア部隊、1万。


 魔軍総軍将、魔王(オウマ)レフィキュル率いる中軍、4万。


 ギーガ隊がオグロゴメドの失態により数を1万5千に減らした以外はほぼ無傷であった。


「進め」


 魔王レフィキュルが魔剣(ニーツベアル)を突き出すと、魔軍全体が一斉に前進を始めた。枢機兵団の第1、第3、第5、第6軍がその先に待ち構えている。魔軍からは四人の軍将(グノーシュ)がそれぞれ単騎で先行をした。


 不死者(ダエ・ヌゥ)であるガララドの身体は、負の質量をもつ半透明の霊子体である。人の形をしているがアールヴともレアムローンとも似ていない。怪しく光る未来の宇宙服のような姿をしている。


「……死の門(ヘティダ・トーギア)


 彼が杖で地面を軽く叩くと、波紋が広がるように大地に闇の円が広がった。直径30mほどの円からは無数の黒い手が伸びて次々とアールヴ兵を掴み、闇の中へ引きずり込む。地獄の門が開いたのだ。そこかしこで兵たちの悲鳴が響いたが、やがてそれも闇に飲み込まれた。


 ペキュトーは鳥人(ハイラルファ)と呼ばれるハーピーに似た魔獣人である。腕の代わりに翼があり、足には鉤爪がついている。身体と頭部は美しい人間の女の形をしていた。


腐食の風(ノイソロッコ)!」


 ペキュトーが翼を羽ばたかせると大きな竜巻が2つ現れ、アールヴ兵に襲いかかった。その風に触れると皮膚がただれて腐り始める。兵たちは常に防御魔法に守られているが、生半可な防御では通用しなかった。一撃で100人単位が泣き叫びながら崩れ落ち、塵と化した。


 ブゥゼルビは大鬼(ガウロ)にしては小柄で身長は3m程だが、肉体の強靭さは伝説の"オオヅノ"に匹敵すると言われていた。しかも彼は、従来のガウロに比べて異様に発達した魔法耐性を持っており、そればかりか、受けた魔法を吸収し自らの力に変える事さえ出来た。


 今ブゥゼルビの両手にある大斧には、アールヴから吸収した様々な魔力が付与されていた。やや舌足らずに叫ぶ。


魔法返し(ギーま・カーのウと)


 自らが受けた攻撃魔法を2つの大斧にのせてまとめて叩き返す。様々な効果の魔法が一度に弾け、彼の敵もろとも、周辺の10m四方の大地を大きく抉り取った。


 20m近い身長の巨人(ジーナント)ギーガの武器は自身の身長ほどもある巨大な(ヘムレーマ)である。ただ振り回すだけでも危険極まりないというのに、ギーガの特殊能力と合わさってさらに厄介なものとなっていた。


圧殺(ルーキ・レシュレーフ)!」


 ギーガが大鎚を叩きつけると、周辺の空間ごと巻き込んで辺り一面がプレス機に潰されるように圧縮されてしまった。そこにいたアールヴ兵はもちろん岩や木でさえも跡形もなく……。


 魔軍四軍将の力は、地上のありとあらゆる者の能力を大きく上回っていた。アールヴ兵達は抗うすべもなく、雑草のようにただ刈り取られていく。彼等にとって四軍将は悪夢であり絶望の具現者であり、死そのものであった。



―――――――――――――――――――

◆瓦解

―――――――――――――――――――


「バケモノ共め」


 竜馬(ロトパリヴィオ)を走らせながら、両・片手剣(バドラーツ)を抜き放ちヒューゼル・ロイヒが言った。


 今世最強と言われる彼でさえも、この世の理を逸脱した者達には手を焼いていた。彼はこの3年の間、巨人ギーガを始め魔軍四軍将と何度か死闘を演じていたが、未だに決着はついていない。四軍将に阻まれて、魔王とは出会う機会さえなかった。


 戦況は、アールヴにとって圧倒的に不利であった。この3年の間に、枢機兵団は全8兵団の内、3つが全滅、2つを半壊にまで追い詰められ、約半数の人員の命を失った。


 全軍の指揮官に任じられたニーア・ジーテラセタは、それでも綿密な計算に基づいて作戦を立案し、神業ともいえる神速で数々の作戦を実行に移した。その最終目的は、魔軍の虚を突いて魔王本陣に急襲を仕掛ける事であり、今まさに目標に向かって進軍しているところであった。


「やはりどう考えてもおかしい」


 重要な作戦の最中ではあるが、ヒューゼルにはどうしても腑に落ちないことがあった。


「いくら竜亜人(ノグアード)や魔獣が強いと言っても、普通じゃない。特に四軍将と魔王は異常だ」

「そうですね」


 ヒューゼルと並走しながらニーアが相槌をうつ。彼もこの3年間ずっと前線に身を置いており、蓄積された疲労はもやは限界を超えていた。


「これは何か裏がある」


 ヒューゼルの脳裏にラギことユウナギの顔がよぎった。


「賢者"ラギ"はなぜ現れた? なぜ我らに力を授ける?」

「伝説によれば、アールヴがピンチの時に賢者は現れます。レイドークの時もそうでした。禁忌の力を持った大角のガウロ(ロンギーブ)からアールヴを守るために彼は新たな力をアールヴに授けました」

「逆に言えば、ピンチでなければ賢者は現れない。……要するに、今回の魔軍もその"禁忌の力"を持ってるってことだな」

「つまり、それだけヤバイ状況だって事ですよ」


 ニーアがサラリと答えた。ヒューゼルが驚いた顔をしてそちらを見た。


「!? まさか、気づいてたのか!!?」

「……気づいてなかったんですか!?」

「ぐぬぬ……」


 息子のような年齢のニーアに一瞥をくれて、ヒューゼルは竜馬に鞭を入れ加速した。



**********



「"良くないモノ"の正体はアレだな」


 遥か上空から戦場全体を俯瞰して眺めながら、ユウナギは言った。視線の先では四軍将が暴れまわっている。それこそが、彼が今回介入を決めた原因である。


 魔軍の四軍将は、明らかに禁じられた力"混沌(ケイオス)"を持っていた。これは神使の使う天眷(アポステリオリ)と同種の力だ。混沌の力の影響で四軍将の力は何十倍にも高められ、自然の摂理から軽く逸脱していた。


 神使でもない生き物が一体どうやってその力を手に入れたのか。


「なあなあユウナギ。いよいよボクらの出番だよね!?」


 液状亜人(エミルスラ)のプニラが目をキラキラと輝かせて主の顔を覗き込んだ。戦いたくてウズウズしてるといった目だ。


 他にも群虫亜人(グバ)族テネローハ、人狼(フロゥエレウ)クレスレブ、リリル、ロロクルオスが控えている。この神使達が本気を出せば、惑星そのものを砕くことも可能だ。


「いや、少し様子を見よう。アレはまだ不完全だ」


 四軍将の様子をじっと見ていたユウナギがはやるプニラをなだめるように言う。


「問題は四軍将だけじゃない」


 ユウナギは、魔軍の中心にいる魔王に目を向けた。



**********



「集い交わる千のイカヅチ。群れ走る負の虚芯」


 古代ノグアード語の呪文を唱えつつ魔王(オウマ)レフィキュルが竜馬上で片手を突き出した。


「千を一とせよ十は去らしむべし」


 大気が怯えるように震え、魔力(アマナ)が稲妻となって駆け巡る。


「唯一全能なる破壊よ来たれ――」


 レフィキュルが目を見開き、最終安全装置を解除する。あり得ない量の魔力が解き放たれ、交わり、分裂し、核魔力反応を引き起こす。


「――究極死至壊撃(クオーキィ・ウゥイク)!!!!」


 まばゆく輝く禍々しい光の矢が天を走る。これこそかつて世界を焼き尽くし古ノグアードを絶滅の危機に追い込んだ禁忌の魔法、極限魔法の1つであった。


「させぬ!!」


 竜馬の背を蹴って10mも跳躍したヒューゼルが渾身の魔力を込めて剣を振りかぶる。


魔導剣(メギア・ドース)!!!!」


 放たれた魔力の斬撃が光の矢を迎撃し弾け飛ぶ。しかし、撃ち落とすことは敵わず、わずかに軌道を逸らせただけであった。


 光の矢は聖塔(ベルバ・レゥ)をかすめ帝都の脇に突き刺さった。劫火の柱が周囲を真っ赤に染め、高熱と爆風があらゆる建物と木々と人々をなぎ倒す。帝都の半分が一瞬で失われ、皇宮の城が倒壊した。帝都にはまだ避難の終わっていない住民が多数残されていたはずだった。


 帝都を振り返らずにヒューゼルは唇を噛み締めた。魔王の極限魔法の迎撃に失敗した後悔は無理やり脇に置き、目の前のただ一点を見つめ、それだけをめがけて流星のように突進する。これまでの戦いは全てこの時のため。魔王に直接相まみえるためであった。


 追従する枢機兵団が、ヒューゼルめがけて一斉に付与魔法を唱える。千の付与魔法が凝縮され彼の両・片手剣(バドラーツ)に恐ろしいほどの魔力が集められた。


 数秒後、ヒューゼルは近衛をかいくぐり魔王の眼前に躍り出た。


「ま、魔王さま!」


 魔王の副官ジューナタットが叫んだがもう遅い。


魔導剣(メギア・ドース)千の破壊(ウノス・ダルクテスタ)!!!!」


 ヒューゼル最強の技、かつアールヴ史上最強の技が炸裂する。圧倒的な魔力と超絶剣技の混合技である。大気は焼かれ、地面は100mに渡って切り裂かれ、魔王は跡形もなく消し飛んだ――はずであった。


「なに!!!!?」


 だが次の瞬間、ヒューゼルが知覚したのは自身の胸部に突き刺さる魔王の長剣の冷たさであった。


 ニーアの顔が蒼白になる。彼に続いていた枢機兵団の兵たちも我が目を疑った。


「……貴様がヒューゼルか」

「だ、だったらなんだ?」

「残念だ。あと10年早く貴様と戦いたかった」


 魔王が剣を引き抜き、血がほとばしった。ヒューゼルの口から多量の血が溢れ出る。


「団長!!」


 そこへニーア率いる枢機兵団第6軍が無理矢理に突進し、一気に混戦になだれ込んだ。


 ニーアとヒューゼルの捨て身の作戦は敢え無く失敗し、逆に大きな隙をさらけ出す結果になってしまった。


 枢機兵団の蒼い旗が戦火に汚れ弱々しくはためいていた。


「シロディート隊、ディファーグ隊、崩れます! ロットセンラ隊、支えきれません!!」

「左翼、第3軍突破されました!」

「ハラガッド千士長、討ち死に!」


 枢機兵団は魔導革命の恩恵をほとんど受けていない。旧来の武器や魔法を使って戦っている。にもかかわらず、常識外の力を持った魔軍相手にむしろこれまでよくやったといえるだろう。


 しかし、それもついに限界を迎えた。


 四軍将と入れ替わるように魔軍飛空隊が、続けて右軍左軍が前進する。空からの爆撃に合わせて地上部隊の波状攻撃が加えられる。アールヴ側は防戦一方となった。


「最終局面である! 飛軍突撃!!」

「アーるぶニ・死ヲ!」

「…………蹂躙せよ」

「レフィキュル様に世界を!」


 ペキュトー、ブゥゼルビ、ガララド、ギーガ、四軍将が勝利を確信して叫び、一気に攻勢に出た。10万の軍勢が一斉に動き出し大地が震える。圧倒的な破壊の意志が枢機兵団に迫る。


「…………」


 あのニーアが無口になった。さすがの彼も、もはや打てる手は"ほとんど"なかった。彼自身も度重なる戦闘による負傷と不眠不休のせいで満身創痍だ。ヒューゼルの事も痛手であった。


 ここへ来てユウナギの予言がますます現実味を帯びてきた。


「ニーア副団長、このままでは全滅です!」


 兵の報告に虚ろな目を向けて、ニーアは何も答えなかった。魔軍はもう目前にまで迫っている。


「……私の力ではここまでか。……師匠だったら、もっとうまくやれたんだろうな」


 顔色は真っ青で、呼吸は浅く早い。今にも気を失いそうになりながら、かろうじて気力だけで起きているような状況だ。

 にも関わらず、その時、ニーアの顔に安堵の笑みが浮かんだ。


「なんてね。……最低限の仕事はしたぞ。……あとは任せた」


 そう言うとニーアは竜馬上で突っ伏して気を失ってしまった。ほぼ同時に、帝都方面から謎の光が放射線状に伸び、魔軍飛空隊を連続して貫いた。



―――――――――――――――――――

◆革命の成果

―――――――――――――――――――


「な!!?」


 晴れ渡る空に爆炎の花がいくつも咲いた。魔軍飛空隊が次々と撃ち落とされていく。


「なんだこれは!?」


 飛空隊を指揮していたペキュトーが叫んだ。その彼女に謎の光が迫る。彼女は軽く回避したが、すぐに目を剥いた。光は尾を引いて彼女を追尾してきたのだ。


「ええい!!」


 どこまでも追いすがる光に魔法攻撃をぶつけて相殺する。だが、大怪鳥(ダルーガ)や他の飛空隊は逃げ切れなかった。光の攻撃は尚も続き、やがて魔軍飛空隊は半数が撃墜され、残りは大混乱に陥った。


 ペキュトーが光の飛んできた方角を睨みつける。するとそこには彼女たち以外の飛空部隊がいた。


「オレに続けェー!!」


 雄叫びを上げる赤髪の青年を先頭にV字型編隊を組んだ部隊、新生テスエローフ千士隊・強化飛空隊(リフ・ラグノーン)であった。


 彼等は槍のような未来の宇宙船のような杖状のモノにそれぞれまたがり、短剣燕(ガダー・ウラウス)と見紛う速度で空を切り裂いた。魔導革命メギア・ノイツローベルの成果の1つ、空飛ぶ魔法の箒(ラキシオン)である。皆、真新しい揃いの銀色の軽装鎧に風よけのゴーグルといった出で立ちだ。


「あ、ありえない! アールヴが飛んでいる!? しかもあのスピード!!?」


 自らのアイデンティティを打ち砕かれた鳥人ペキュトーが、かすれた声を漏らした。


「レイド、空は任せた!」

「うん!」

「ガーネリク、ロラッカ!」

「おうよ!」

「りょーかい」


 テスエローフ飛空隊から300騎ほどが別れて地上に降下する。今まさに攻め滅ぼされようとしている枢機兵団第6軍とそれを追い詰めつつあった魔軍ギーガ隊との間に、その300騎が割り込んだ。地上スレスレを低速で飛び、騎馬のごとく振る舞う。


草薙(フェディータ・サージ)!!」


 地表を、扇状に真空のヤイバが飛び、進路上にいた100体近くの魔獣が上下2つにぶった切られる。この3年間の修行と魔導革命の力により恐るべき成長を遂げたルーヴ・ドロウスの固有剣技(ダウス・キルス)であった。


「な!!?」


 巨人ギーガもルーヴの技を受けて両足に深手を負った。されど致命傷ではない。


「あの時の小さき者か!?」


 ギーガの脳裏にリーダティカ砦での追撃戦がよぎった。


「だが、あの時とは段違いの力」

「まだまだこんなもんじゃないぜ、オレ達の力は!!!!」


 ルーヴの声に呼応するように、上空の強化飛空隊(リフ・ラグノーン)を指揮するレイド・リード・レイドークが命令を下した。飛空隊の兵はみな魔導書(アーディロード)を懐に入れており、各々、杖を構えて攻撃魔法の登録名、短呪文(クーテローシュ)を唱えた。


追尾爆光閃(グニムオーフ・ザーレ)!!」


 前進していた魔軍各部隊の先頭に、レーザー状の光属性攻撃魔法が暴風雨の如く叩きつけられる。その威力はこれまでの魔法の比ではない。下手をすると最下級神使達の天眷(アポステリオリ)に迫るほどだ。


「バ、ばかナ!!?」

「……な、なんという破壊力!!」


 ブゥゼルビだけでなく、無口なガララドもうめき声を漏らすほどの攻撃であった。四軍将でさえそうだったのだから、配下の魔獣達の動揺はいかばかりであったろうか。


 さらに、レイド達の援護を受けてルーヴ率いる300騎が再びギーガ隊に突撃する。ガーネリクとロラッカが前に出る。


大激突(ハースアルク)!!」

風神乱舞(シドナ・ディーニュ)!」


 2人が同時に固有剣技を放つ。彼等もこの3年で剣技を習得したのだ。もちろんそれぞれの武器、長剣(ドローグノル)短剣二刀流(ウォート・ガダー)用にアレンジしてある。今のルーヴには及ばないものの、以前のアールヴの限界を超えた力だ。2騎がすり抜けた後、魔獣が30匹ずつ吹き飛ばされた。


「わー! わたしたちもたたかうのよ!!」

「オラオラオラー!!」


 自作の魔導人形(ゴーメル)兵に乗って戦う公亜人族(ハスターム)のフワルとディーベルの姿もあった。ゴーメルとはいわゆるゴーレムのことで、ハスターム族が2人で乗り込んで動かすようになっている。ハスターム族が小さいのでゴーメルも身長1m程しかない。


 ただ、しばらく戦った後このゴーメルは破壊されてしまい、フワルとディーベルは逃げ帰ってきた。


「この混沌(ケイオス)の力は、神の力と同質! アールヴごときに遅れを取ることなど!!」


 ギーガがルーヴの前進を遮るようにゆっくりと前に出る。大槌を振りかぶり圧殺(ルーキ・レシュレーフ)を放つ。景色が歪み空間が圧縮される。


 しかしルーヴは止まらなかった。呼吸を整え気の流れを制御し魔力と混ぜ合わせる。魔力と気の融合。それこそ、魔力の少ない混血種(ファルフ・アルヴ)の彼が辿り着いた答えの1つ。新しい固有剣技(ダウス・キルス)の形だった。


「真・截鉄(ヴァーセル・リーーツ)!!!」


 魔導書の力で剣技と同時に付与魔法が起動する。圧縮されつつあった空間を切り裂いて、火纏の聖剣(ルーヴラ・アクシエ)が大槌を受け止め、一瞬互いの動きが止まる。


 低く響くルーヴのうめき声が振り絞る力と共に大きな叫びとなる。均衡は崩れ、彼は聖剣を振り抜いた。


「こ……」


 巨人ギーガは信じられないものを見るように目を見開いた。大槌は砕け散り、聖剣はギーガをも切り裂いていた。


「こんな事が!!!?」


 不完全な禁忌の力、混沌(ケイオス)と、魔導革命によって異様なまでに高められたアールヴの力。この時、アールヴの力がケイオスをやや上回った。


 巨人は自身を納得させることが出来ないまま地響きを立てて倒れ込み、そして動かなくなった。


 テスエローフ隊の参戦は、まさに絶望しつつあった枢機兵団の兵たちにとって、まばゆく輝く希望の光そのものに見えた。


「きょ、巨人を倒した……!?」


 兵達があっけにとられてそれを見ていた。半信半疑で目をこする者。隣と顔を見合わせる者。やがて一人が叫んだ。


「ス、スゲェ! 誰だあいつは!?」

「……あの赤髪は、亜竜殺しルーヴ・ドロウス!!」


 爆発的な歓声が戦場を駆け抜けた。


「つーか、そもそも、あいつら飛んでるぞ!?」

「一体どうなってやがる!?」

「空の連中も、あんな短い呪文でなんて威力の魔法だ!」


 兵達が上空を見上げて口々に言った。


 制空権を奪った事により、テスエローフ隊は戦場を支配した。魔軍10数万をたった千騎のテスエローフ隊が押さえ込む形になったのだ。混乱を納めるために、魔軍両翼はわずかに後退した。


「魔軍を追い返した!?」


 枢機兵団からさらに大歓声が巻き起こった。涙ぐむ者さえいる。絶望していた兵達に力が戻り、全軍崩壊の危機を踏みとどまった。


「新しい英雄の誕生だ!」

「いや、彼こそは勇者(ユーシア)に違いない!!」



―――――――――――――――――――

◆戦略級極限魔法

―――――――――――――――――――


 後退を始めたかに見えた魔軍であったが、そうでは無かった。半壊した飛軍と右軍左軍、ギーガ隊は下がったが、代わりに魔王軍本隊が前に出る。先頭には魔王(オウマ)レフィキュルの姿があった。


「集い交わる千のイカヅチ

群れ走る負の虚芯

千を一とせよ十は去らしむべし

唯一全能なる破壊よ来たれ――」


「我らの世界を汚すアールヴを許すわけにはいかん。消え去るがいい!!」


「――究極死至壊撃(クオーキィ・ウゥイク)!!!!」


 禍々しい光の矢が死を伴って天を駆け上がった。再び枢機兵団に緊張が走る。



**********



 この少し前、帝都中庭には約千人の魔導師(ギーマ)が集められていた。帝都中からかき集められた優秀な魔導師達だ。中心にはシア・テスエローフが立ち、側にはクックルも控えている。魔導師達は同心円状に配置され、口々に呪文を唱えていた。やたらと長い長文の詠唱に思えたが、実はその一語一語が一つの魔法を起動する第3世代魔法の短呪文(クーテローシュ)であった。



**********



 死を告げる光の槍がアールヴの帝都レプラローフに再び降り注ぐ、正に直前。魔道士達の長い詠唱が終わった所だった。


「間に合ったか」


 城郭の上で眺めていたユウナギが大きく息を吐いて胸をなでおろした。先程の初撃はヒューゼルのお陰で直撃を免れたが、あのやり方では根本的な解決にはならない。


「最終安全装置解除!」


 すぐさま、シアのよく通る声が轟いた。彼女の身体には魔法紋が浮き出ており、高く掲げた魔槍(リグナーグ)にはめ込まれた第2の紅い宝玉(ロウジュ)が太陽のごとく輝いている。


「圧力臨界、全魔力回路異常なし。シア姉ェ!!」


 サポート役のクックルが声を張り上げると、中庭に広がる巨大魔法陣が唸りを上げて光りはじめた。各所に魔力電池(バーリティ)がセットされ、不足する魔力を補っている。


 ゆっくり頷いて、シアが最後の短呪文を唱える。


「――戦略級極限魔法ラヘスエル・ティアミトール!!!!」


 中庭から巨大な光の槍が放たれた。衝撃波が周辺の建物の屋根を吹き飛ばす。これこそ、3年の歳月をかけて編み出されたアールヴの最終兵器、戦略級極限魔法であった。それは数百を超える第3世代魔法の短呪文からなっていて、正しい手順で順番に詠唱しなければ発動しない。複雑で高度な魔法知識を必要とする世界最強の魔法の1つである。


 ただ、魔導革命によって短呪文が出来たのに、結局長文を長々と詠唱しなければならなくなったのは皮肉でもなんでもない。短呪文をまとめて登録し一発で起動させる短呪文を作ることも可能だったが、ユウナギはそこまでは教えなかった。軽々しく極限魔法を使わせないためである。


 魔王が旧ノグアード文明から受け継いだ極限魔法も、同じような構造になっているはずであった。


 光の槍は見る間に上昇し、魔王の戦略級極限魔法に叩きつけられる。


「――!!?」


 魔王レフィキュルは絶句した。空全体が真っ白に塗り込められ、直視した者の何人かは目を焼かれた。

 2つの魔法は反発し合い、互いに互いを食い尽くし、やがて消滅した。


「こ、こんな恐ろしい魔法……」


 空を見上げていたシアが呟く。彼女はその威力にただ圧倒され、傍らで小さく震えているクックルを無意識に抱き寄せた。



**********



「アールヴめ。やってくれる」


 さしもの魔王も我が目を疑っていた。これまでの戦いと調査により、アールヴには極限魔法は無いとレフィキュルは考えていた。だが、そうではなかった。


 2つの極限魔法のエネルギーの残滓が黒雲を呼び、渦を巻く。稲光が空を覆うように駆け巡り、雷鳴が鼓膜を引き裂く。


 魔王は気付いていた。2つの極限魔法がもたらす意味を。お互いに極限魔法を撃ち合えば、勝者はいないということに。


「これで魔王はそう簡単に極限魔法を撃てなくなる。そこから学んでくれればいいんだけど」


 ユウナギが独り言のように呟いた。



**********



 魔軍の三軍将は混沌(ケイオス)の秘匿回線を使って連絡を取り合っていた。この時も経過報告のために互いに回線を開いていたのだが、ブゥゼルビもガララドもいつもにも増して口数が少なかった。


 たまりかねて先に口を開いたのはペキュトーだ。


〈どうした? 何をそんなに落ち込んでいる。全体として我らの有利は変わらない。すぐに巻き返して――〉

〈――わからぬのか?〉


 ペキュトーのセリフを、ガララドがさえぎった。


〈何が?〉

〈……我々は3年間、まんまと囮に付き合わされたのだ〉

〈な!?〉

〈……アールヴの枢機兵団が囮になって時間稼ぎをしている間に、あやつらは先程の飛空部隊を組織し極限魔法を開発し、密かに戦力を増強していたのだ〉

〈…………!!〉


 ガララドは珍しくよく喋り、ペキュトーは逆に言葉を失った。



―――――――――――――――――――

◆託されたもの

―――――――――――――――――――


 このタイミングが1つの転機であったろう。


 この隙を逃すわけにはいかないと、ルーヴ達300騎が魔王軍本隊に突撃を仕掛ける。混戦の末、ついにルーヴが魔王の前にたどり着いた。


 アールヴ、魔軍関係なく、全兵士の注目が魔王とルーヴに集まった。雷鳴と暴風が荒れ狂い地上の者達の不安を掻き立てる。


「よう。会いたかったぜ。魔王さんよ」


 銀色の軽装鎧を身にまとい、血に濡れた火纏の聖剣(ルーヴラ・アクシエ)を携えたルーヴが空飛ぶ魔法の箒(ラキシオン)を降り、一歩前に出る。


「フン。哺乳類風情が。竜族の末裔たる我らに歯向かうとは愚かなことだ」


 ルーヴの挑戦に応えるように魔王が竜馬から降り、魔剣(ニーツベアル)を鞘走らせる。彼の異国風のゆったりとした服はまだ全く汚れていない。


「いくらあんたでも、極限魔法(アレ)をそう何度も使えないだろ?」

「やってみればわかる」

「上等だ!」


 ルーヴとレフィキュルが同時に地面を蹴って互いに斬りかかった。数千年を超えて語り継がれることになる、伝説の戦いが今ここに開始された。



**********



 枢機兵団の屍の上にテスエローフ隊は立っていた。穿った見方をすれば、テスエローフ隊は"美味しいとこ取り"をしたように思えるかもしれないが、そうではない。彼等はヒューゼル達からバトンを受け継いだのだ。


 帝都の救護施設でヒューゼルは目を覚ました。体中を包帯で巻かれ、ピクリとも動くことが出来ない。


「また死に損なったか」


 ヒューゼルは、ドナルサーグで戦死したドルノークの死に様を生き残った兵から聞いていた。そのおかげで魔王の力量をある程度推察し、対策を練ることが出来たのだ。その僅かな気構えの差が彼を救った。


「戦況は?」

「枢機兵団はほぼ壊滅。今は新生テスエローフ隊が頑張っています」


 おなじくベッドに縛り付けられたニーアが応える。彼の傷は大したことはないのだが、身体の疲労は想像以上だった。


「こうなることがわかっていたからルーヴを入団させなかったんでしょう?」

「さあ、知らんな。……だがまあ、バトンは渡せたかな」


 ヒューゼルはルーヴ達の孤児院の創設者の一人であった。彼には実の子供がいない。だから孤児院作りに手を貸した。彼はルーヴ達を自分の子供のように思っていたのかもしれない。


「後のことを次の世代に託す……。これが希望と言うやつか。いや、大人の身勝手なのかもな」



**********



 聖剣ルーヴラ・アクシエと魔剣ニーツベアルが激しく打ち付けられ、紅い火花を撒き散らせた。斬り合うこと5,6合。彼等の技量はほぼ互角に見えた。


 技と技の応酬。魔王の斬撃が空を切り裂き、直前でルーヴがかわしざま、反撃を叩き込む。それを弾いて肉薄する魔王の突きをギリギリで回避し、渾身の一撃をルーヴが繰り出す。


人間(アールヴ)風情が!」


 間合いを取って魔王が構える。空気が悲鳴を上げるほどに張り詰め、魔王の身体から尋常ではないオーラが立ち上る。


「格の違いを見せてやろう」


 何かとんでもない技がくる。直感で察知したルーヴが咄嗟に身構えた。


「……終わったな」


 遠くから成り行きを見守っていた四軍将ガララドが魔王勝利を確信して呟く。


 魔王の動きがピタリと静止し殺気が消え失せた。ルーヴには、目の前にいるはずの魔王の気配が完全に消えたように思えた。次の瞬間。


破導十三連撃トゥ・サ・セキュトノーク!!!!」


 死の13連撃。魔王の大剣が極小時間の中で流星雨のように突き出される。この射程内でこの技が発動されれば、何人たりとも躱すこと能わず。ただ肉塊に成り果てるのみだ。


 だが。


 ひとつ、ふたつ、みっつ。ルーヴと魔王の間に次々と火花が弾けた。明滅するフラッシュのように、激しい金属音とともに、13の火花が瞬時に咲いた。信じられないことに、ルーヴはその一瞬で、重く鋭い魔王の斬撃を全て弾き返して見せたのだ。


「!!!!!!?」


 まさかこの技が全て迎撃されるとは。魔王の感じた驚嘆はかつて無いものだった。それでも、彼は取り乱さず、すかさず放たれたルーヴの斬撃を受け流し、距離をとった。


 しばらく呆然としていた魔王の顔にやがて笑みが浮かぶ。感情をあまり表情に出さない竜亜人(ノグアード)にしては珍しい。


「驚いたぞアールヴ。まさか予の連撃を初見で全て防ぎきるとは。見事だ」

「そりゃどうも」

「アールヴに対する認識を少し改める必要がありそうだ。失望させてくれるなよ」

「お互いにな」



―――――――――――――――――――

◆黒い星型

―――――――――――――――――――


 帝都レプラローフの北の外れには1200m超の高さを誇る聖塔(ベルバ・レゥ)がそびえていた。塔は、ピラミッドを2つ合わせた正八面体にオベリスクを突き刺したような外見で、約30年かけて建築工事が続けられ最近ようやく完成したばかりだ。内部は塔から地下にかけてダンジョンの様になっており、一般人の立ち入りは禁止されていた。


 その聖塔地下に1つの人影があった。こんな場所にいるはずのない竜亜人(ノグアード)。魔王の副官ジューナタットである。


 その彼の目の前には、巨大な黒い星形二重正四面体が祀られるように安置されていた。黒い星型は呼吸をするようにわずかに振動を繰り返している。ジューナタットがそれを見上げ両手をかざすと、それは幽かに光を放った。



【続く】



20170902

修正:放たれた剣気が → 放たれた魔力の斬撃が



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ