第一章
僕は、お前と出会ってから楽しい。
とても、とても楽しいんだ。
「起きて起きて、走りに行くぞ」
まだ布団を被っている僕の枕の横に正座をしながら、声を掛けてくる。
コイツは“私は妖怪だ”と言い張っているがどう見ても、人の女の子に犬耳を付けただけの女だ。
名前は凛子。
背は低いが、それにコンプレックスを感じている様子は無い。
「ほら、ほら、早く!」
髪は長く、腰までの黒髪で、その上に黒い犬耳を付けている。
眉はすっと水平だが、表情はコロコロ変わるので、それによって吊り眉になったり、
垂れ眉になったりと、場合によって差が激しいが、真顔の時は水平な眉をしている。
目はパッチリと大きく、まつ毛は長く、鼻は小さく高いが、鼻筋は通っておらず、
唇は薄く、赤く、肌は雪のように白く、綺麗だ。
凛子は所謂美形だ。
凛子と僕が知り合ったのは、数ヶ月前。
凛子は、酷い雨の日に、公園の木の下で丸くなっていた。
僕は人が倒れていると思い、駆け寄った。
その人は泣いていた。
倒れているのではなく、泣いていた。
雨の日に木の下で、何かを握り締めながら泣いていた。
たかだが20年生きただけの僕にも、苦しくて辛くてどこかで泣きたくなる、という経験はあった。
泣いている少女を見てその時の気持ちを思い出し、少女の行動を理解した。
そしてこういう時、僕はどうしてほしいかを知っていた。
放っておいてほしい。
正確には、何も出来ない人間には話しかけてほしくない。
その泣いている原因を取り払う事が出来る人になら、話しかけられても良い。
とは思うが、現実にそんな事ができる人間はいない。
少なくとも、僕の時はそうだった。
そして僕には、この少女が泣いている原因を取り去ってやる事ができる、という自信はない。
僕はその場を離れる事にした。
少女はおそらく僕に気付いていた、そばまで誰かが来て居ると。
だが気付いていても一度近付き、今度は離れていく僕を呼び止めるという事はしなかった。




