第5話 俺の家は結構凄い
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階段を登り切り、二の鳥居を潜る。
呼吸と共に、澄んだ空気が体内に入ってくる。
階下よりもヒンヤリと感じて気持ち良い。
ダッシュしたら皆汗だくだ。
「うーん!やっぱり境内、気持ち良いよねぇー!」
「あぁ、空気が美味い。」
「神様って、空気も綺麗に出来るんだな。」
⋯違うぞ、凌大。
空気を綺麗にしているのは、植物や風といった自然と、神社に張られた結界であって、神様は空気清浄機じゃない。
呼吸を整えてから、3人は稲荷像横の横道から家へと帰っていく。
本来は植木があった場所だが、子供の頃に、颯介達と遊びやすいようにと、祖父母がここの植木の一部を別の場所に植え替えて細い道を作ってくれた。
その結果、颯介の家まで結界が広がったことは、颯介一家は知らない。
見えないからね。
だから多分、父親の部下が乗り込んでこようとしても大丈夫だろう⋯とは思う。
前に村に来ていた、詐欺まがいの押し売り⋯押し買い?「金属買います」って言って、家に上がり込んで色々買い叩いていく悪徳業者。
あれも、ウチと颯介の家には来なかった。
家の前をうろついて帰っていったって真衣さんは言ってた。
まぁ、他にも要因はあるかもしれないけど。
そう言えば、帰り際に颯介が、なんか言ってたな。
「⋯⋯なあ、向こう側にある私道の祠のお狐様⋯⋯夜になると目が光るって、森山のばあちゃんが言ってたけど⋯⋯ただの噂だよな?」
「⋯⋯⋯⋯ん?」
「⋯⋯え?いや、だからお狐様の目が⋯」
「⋯⋯颯介、世の中には知らなくて良いことと、知ってはいけないことがあるんだよ。」
「⋯どういう意味?」
「「お兄ちゃーん、早く行くよー!」」
「じゃあな、颯介!また明日~!」
「え?!ちょっ、おい?!」
千緒と凌大に引っ張られていく颯介ににこやかに手を振る。
何って⋯⋯⋯お金のかからないSECOMだよ。
颯介達と別れてから一度社務所を覗く。
うちは小さな神社だから、社務所も小さい。
授与窓口を見ると、販売用の御守りや絵馬は室内に入れて窓口は閉めてある。
ってことは、社務所の奥の間か家の方かな。
明さんが居るなら声を掛けようと、姿を探すも、どちらにも居なかった。
(まぁ、どこかには居るかな。)
何となく、結界内には居る感じはする。
結界内であれば、その気になれば、生命あるものの位置は分かるのだ。
集中しなくても、自分以外の気配があるかどうかくらいはなんとなく分かるから、きっとどこかには居るのだろう。
(そういえば、明さんも、いつも迷わず俺を探し当てるな⋯。)
颯介達が来て、俺を探しているといつも明さんが現れて俺の居場所を教えてくれるって言ってたのを思い出す。
それは、明さんに伝えずに移動しててもだ。
遠縁って事は、明さんにも何かしらの力があるのかもしれないな。
神社の裏手に周り、神社と居住区域の境界になる門を潜る。
古さはあるものの、周囲の景色に溶け込み、ひっそりと佇む木製の小さな門。
門と言っても、全面木の板で内側から閂をする「ザ・門」⋯ではなく、細い木を格子状に嵌めただけで、カラカラカラ⋯と引いて開ける、引き戸の簡易な門。
鍵すらない。
もちろん、仕掛けはある。
門を支える二本の門柱。
その足元、土台となる根石には、五芒星が彫られている。
鳥居が神社に対しての悪感情に反応するのに対して、こちらは我が家、桜庭家を護るためのもの。
桜庭家の縁者か、許可された者しか通れないし、また、悪意のある者も通さない。
鳥居を通れても、俺の意に沿わないことを思っていると、ここで文字どおり、正真正銘「門前払い」だ。
明さんは、どちらもすんなりと通過した為、その点では問題ない。
縁者でも、下心があればこの門は開かない。
まぁ、父親はこの神社ごと手に入れたいみたいだから、鳥居も通れないけど。
我が家は、古い日本家屋。
武家屋敷に近い造り。
もちろん中は、現代風にリノベーション済みではあるけど、俺しか住んでないから、無駄に広く感じる。
今は空き部屋だらけだ。
それでもいつも綺麗に整えられている。
今頃はきっと夕飯の準備を始めている頃だろう。
(今のうちに、向こう側を見てこよう。)
時計を見ると16時過ぎ。
制服から、青のパーカーと黒のスウェットパンツに着替える。
(そろそろ長袖だと暑いな⋯。)
玄関を出ると、どんよりとした雲が広がっている。
一雨来そうだ。
昨夜も結構激しい雨が降ったばかり。
(梅雨はまだ早いのに、このところ毎日どこかの時間帯で雨が降る⋯。温暖化の影響か?どんどん気象がおかしくなってる気がするな。)
ふと、今朝見た夢が頭に浮かぶ。
いやいやいや⋯と、頭を振って頭から追い出す⋯のは、俺の場合、出来ないんだけども。
だいたい、あんなのは温暖化とか、自然災害の域を超えている。
「神の怒り」とか「神の裁き」とか、そう言われた方が合点がいくレベルだ。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯神?
ふと、左の手の甲を見る。
うっすら赤い、5枚揃った桜の形の痣。
頂点を結べば五芒星にも見える。
気を込めれば、より濃く浮かび上がる、その印。
⋯⋯⋯⋯まさか、ね。
視線を門の向こうに向けて、神社を思い浮かべる。
我が家が祀る神様、
そこに神は⋯⋯⋯居ない。
何故なら、神は俺の中に居るのだから。
でも、「神」は存在する。
俺の家系に神格を授けたのもまた、「神」だから。
ーー神罰。
もしそうだとしたなら⋯⋯いったい何に?
誰に⋯⋯にしては規模がおかしい。
うーーん⋯。
まぁ、考えても分からないものは分からない。
もしかしたら⋯⋯うちの御先祖様なら、なにか分かったかもしれないけれど。
そう考えながら、正面にある御堂を見遣る。
そこにあるのは、御先祖様を祀る御堂。
我が家の神社は、表向きは「木花之佐久夜毘売」を祀る「此花神社」。
嘘ではない。
ただ祀っているそこに、御神体が無いだけで。
全くの嘘ではない。
中身の無い御神体を、その中身である俺自身が手を叩いて拝んでいるだけだから。
⋯⋯⋯シュールだな。
事の始まりは、今から約400年前の江戸時代。
我が家の先祖の1人が、大の桜好きで、自分の土地であったこの山々に色んな種類の桜を山が桜だらけになるほど植えて育てた。
また、品種改良も盛んに行っていて、後世に生まれた「ソメイヨシノ」によく似た桜も、うちの山にはある。
そうした中で、ある日、「天之御中主神」と名乗る原初の神の一柱が現れ、その功績を讃え、「桜庭」の氏と、「木花之佐久夜毘売」の神格を血筋に与えた。
そしてその時に「いずれ、お前達の祖先の血を色濃く引受け継ぐ「先祖返り」が生まれるだろう。その際に、この神格をその身に宿して大いなる役目を担うだろう」と、仰られた⋯と、代々伝えられている。
そして、先祖返りの強い血と体、そして「木花之佐久夜毘売」の神格を宿して生まれたのが、この俺、らしい。
その印が、左の手の甲にある桜の痣だ。
そして、我が家が「桜庭」姓になるそれよりも遥か昔。
平安の時代に生まれ、今も語り継がれる歴史上の有名人。
ーー安倍晴明。
その人こそ、直系・傍系に関わらず、子々孫々、受け継いできた、偉大な祖先の名だ。




