第3話 黒塗りの車は大体怪しい
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一緒に帰ろうと、教室に乗り込んできた山下さんを撒いて、颯介と2人、こっそりとバスに乗って帰ってきた。
もう、ヘトヘトだ。
これから1ヶ月、毎日こんなことの繰り返しかと思うと、学校に行きたくない。
⋯⋯休んでも良いんじゃないか?1ヶ月くらいならなんとかなるかな⋯。
「⋯⋯学校、休むなよ?」
横からの声に、驚愕の表情を向ける。
「な、なんで」
「いや、顔に書いてあるから。」
⋯なんだって?
『桜庭くんって、いつも穏やかに微笑んでるって感じだねー。』って、言われてるのに、顔に書いてある、だと?
「⋯どんだけ長い付き合いだと思ってんだ。皆と居る時は、にこにこしてるけど、その実『どうでもいい』とか思ってるの、俺にはバレバレだし。今だって、こんな面倒で疲れるなら、いっその事学校休もっかなぁーとでも考えてるだろ?」
「颯介⋯お前やっぱり、心が読め」
「読めねぇーよ。お前だけだよ、分かるのは。」
最後まで言う前にぶった切られた。
人の話は最後まで聞こーぜ。
なんだ、俺だけか。
俺だけ⋯⋯⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯ごめん、颯介。俺、お前の気持ちには答えられねぇーよ。」
「⋯⋯⋯何の話だよ!俺もだわ!なんでそうなった?!」
「なんだ、違うのか。なら、いーや。」
「軽っ!」
まぁ、そうだろう。
分かってたけど、言ってみただけ。
からかいがいのある奴だよな、颯介は。
2人でワイワイとしながら、バス停から村の中へと続く坂を登っていく。
左側には山へと繋がる林があり、右側には木々の向こうに小川が見える。
木々が日を遮り、少し薄暗くなり始めた道は、村の人しか通らないような、めいっぱい寄せればギリギリ車がすれ違うことが出来る程度の道幅だ。
小川の流れに沿うように、緩いカーブを2回曲がる。
途中にある道祖神に向かい、手を合わせる。
道に戻り、その先へ進むと視界が広がる。
村の中央には、各家の田圃が集まり、その田圃を囲むように道路と、数件の家々が立ち、その家の奥には山が、この集落を壁のように囲んでいる。
季節は、5月中旬。
田植えが終わり、水を湛えた田圃には、青々と小さな稲が綺麗に並んでいる。
その田圃の畔を切り裂くように小川が流れている。
小川の上流は左右に分かれ、双方林の陰になっている為、先は見えない。
その小川が左右に分かれた先、この村の最奥に、俺の家でもある『此花神社』がある。
竹林を挟んだ右隣に、颯介の家がある。
颯介の家の右側は少し土地が高台になる為、いつもは左側を通ることが多い。
自然と左方向へ目を向けると、左の道に差し掛かる手前の木の影に、中学生が2人隠れるようにして村を覗き込んでいる。
実に怪しい。
「⋯⋯千緒?凌大?」
「⋯⋯⋯何してんの?」
「お兄ちゃん!晴くん!」
「兄ちゃん達!」
颯介と俺が声を掛けると、ビクッとして2人が振り返る。
木のすぐ後ろにいたのは、風間千緒。
その後ろに居たのは、風間凌大。
千緒は中学3年生、凌大は中学1年生。
2人とも、颯介の妹弟だ。
「お前ら⋯⋯もの凄ーく怪しいぞ?」
「誰かとかくれんぼ?」
「⋯⋯んなわけないでしょ!」
「姉ちゃん、しーっ。」
この歳にもなって⋯と言おうとしたら、千緒に否定された。
少し騒がしくなってしまった為、凌大が口に人差し指を当てて、静かにしろと慌てる。
「なに?」
「なんかあったのか?」
「⋯⋯⋯⋯あそこ、見て。⋯また居る。」
千緒が指さす方を見ると、村の右側、少し高い道に黒塗りの車が1台、物陰に停まっている。
それ、見にくくない?っていうくらい、窓まで真っ黒だ。
颯介がチラッとこちらを見る。
『⋯じいちゃんばあちゃん亡くなって、お前⋯独りだろ?神社もあるし⋯それに⋯』
朝、颯介が言いかけたのはこの事だろう。
「⋯はぁー⋯⋯またか。」
「⋯⋯⋯晴、本当に大丈夫なのか?」
千緒と凌大も心配そうにこちらを見る。
「まぁ⋯なんとか。」
「なんとかって⋯。」
「知ってるだろ?うちの神社、悪意があるやつはなぜか入ってこれないって。」
そう、うちの神社には昔から悪意を持ったやつは入れないように、結界が張られている。
颯介達には、神様が守ってくれてるで通っている。
普通なら高校生にもなったら信じないだろうけど、山間の信心深い土地だし、子供の頃からそう言われて育っているから、今更「嘘だ!」とはならない。
それに、身をもって体験しているから尚更だ。
原理とかは関係ない。
ただ、危険な時に神様が守ってくれた、それだけだ。
「そうだけど、でも、⋯あの時みたいなことがあったらって心配にもなるさ。」
「そうだよ⋯。晴くん、あの時誘拐されるところだったんだよ?」
「あの時は怖かったぁ~。」
颯介、千緒、凌大が更に心配そうな顔になる。
気持ちはありがたい。
けど、この件に関しては、犯人もわかってるし、相手もあの時警察まで呼ばれたんだから、そう簡単に手は出してこないだろう。
⋯そう思いたい。
「⋯まぁ、犯人も分かってるしね。あっちも、前回みたいな大事には、したくないんじゃないかな。」
「⋯⋯実の親が、養子に出した実の息子を、無理矢理拉致るとかな⋯。」
「しかも、生まれてすぐに親元離れてから殆ど会ってないんでしょ?」
「うん。殆どっていうか、全くない。テレビとかで見た事はあったけど、実際に会ったのはあの時が初めてだな。」
「凄い大きな会社の社長なんだよね?」
「あぁ。凌大は知ってるか?“高坂グループ”って。」
「⋯⋯聞いた事ある?かな?多分⋯。」
「隣の市の先祖代々の大企業だよね?」
「そうらしい。」
2年後の市長選に出るんじゃないかとか、市議選に出るんじゃないかとか騒がれているから、さすがに千緒は知ってるみたいだ。
不動産業を生業として、スーパーなども経営している大企業“高坂グループ”の社長、高坂政秀。
それが、俺の実父の名前だ。
そして二年前、祖父が亡くなった直後に現れて、俺を拉致しようとした犯人グループの主犯⋯いや、黒幕でもある。




