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あの、わたし事務なんですけど  作者: Tongariboy
3−2. 魔境にて

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125/125

125. 今こそ空を飛ぶ時だ

「ふぅ、これで全部だな」

「こんなに。よくもまぁ作ったものです。文字通り山のように積み上げて、これはそう容易く作れるものではなかったはずですが」

「時代が違うからね。昔は精製が難しくても現代では簡単に出来るんだ」

「時代は変わるものですねぇ」

「では俺達はここまでだな」

「おや、これを消却するのも手伝ってくれないのですか?せっかく世界平和に貢献出来るというのに」

「生憎と世界平和には興味がないんでな」

「僕も皆無だ」

「あなた達らしいというべきなのでしょうが、これを私1人で」

「そこらをうろついているお友達を頼ればいいじゃないか。幸いデカいんだし」

「いい考えだと思う」

「理性があればですね。今のハト殿にそこまで難しい指示は難しいでしょう」

「理性があればやらないがな。まあがんばれ。お前の要求には応えた。あと、ここは俺達の領地だ。速やかに立ち去れ」

「もう私はビジネスパートナーですよ?随分と厳しいですねぇ」

「ふん。ビジネスだからこそ馴れ合いはするべきではないだろう。ほら、さっさと行け。強さを誇示できるくらい力持ちなんだろ」

「いちいち嫌味をいいますね。いいでしょう。我が力の一端をお見せしましょう。ふんぬ」

「おお。素晴らしい腕力だ。見た目は僕とそう変わらないのにこの量を。解剖してみたい」

「で、ではこれにて、失礼します」

「ああ、早く失せろ」

「さようならー」

「ああ、この荷物を持って歩いて森を抜けないといけませんか。どこか開けたところで燃やしてしまいましょう。いっそ空でも飛べたら楽なのですがねぇ。はぁ、ハトの手も借りたいものです。今こそ空を飛ぶ時でしょう」

「ぶつぶつ言ってないで早く行け。いや待て。空を行きたいんなら放り投げてやろうか?」

「結構です」



「おっ、マルマルにクロもいるな。やーっと見つけた」

「ハトは見つけたのか?」

「ハト?あのデカい奴のことか?すまん逃した。あの巨体で意外に俊敏でよ」

「ダグの足で逃すほどか。ふむ、どこに向かったかわかるか?」

「北東の方に向かっていったように見えた。森を出たかもしれない」

「そうか」

「北東。シロが走っていったのもそっちだ」

「シロはハトの血を使って半魔になったからもしかすると何か感じるのかもな」

「だとしたらシロが危ない。もしまた何かしたら僕は今度こそあいつを。いや、そうだ。何もしなくてもいい。この際だ、消してやろう」

「おいおい、落ち着けよクロ」

「あいつは何があっても許さないと決めている。理性を失ったくらいで済ますものか」

「ま、シロが心配で探すならおれもついて行ってやるよ」

「ありがとう」

「いい返事だ。いつでもそう素直であってほしいもんだな」

「僕は以前からずっと素直だ。そろそろ行こう」

「おう」

「2人とも、気を付けてな」

「へいよー」

「うん」



「セツカー、いるかぁ?」

「なんですか村長?」

「王子のとこまでお使いに行ってきてほしいんだが、頼めるか?」

「いや、って言ったら?」

「いつものやり取りの末に敗北感と共に出発することになるんじゃないか?」

「わかったわよ行けばいいんでしょ。もうこれ命令じゃない」

「助かるよ。あと俺れっきとした上司なんだけど。あ、これ王子に渡しといてくれ」

「はーい。そういえばジョーは?」

「ああ、あいつも城の方に行ってるよ、休暇だ。もうじき着いてる頃じゃないかな。なんでも知り合いの時間が空くから一緒にのんびりしよう、って誘われたんだと」

「へー。ん?じゃあ誰が事務やるの?」

「ゴブリンズがやってくれる」

「は?」

「あいつら優秀なんだよ。すでにジョーの手伝いしてもらってて。さ、これで心置きなく出発できるな。あんまり寄り道するなよー」

「あのわたし、が、事務なんですけど。お使いならそれこそゴブリンズに行かせればいいじゃない」

「おいおい、モンスターが街を平然と歩けるほどまだギルドの取り組みは認知されてないし、そもそもモンスターは受け入れられてもいないんだからな。無理言うなって」

「じゃあ人間でいいじゃん。ブルバラさんとかポールさんとか元騎士の人たちに行ってもらえば」

「お、鋭い。さすがだ。今回ポールも一緒に行ってくれる。じゃあな、頼んだぞ。旅の道中は気をつけてさっさと用事済ませてくれ。事務さんよっ」

「まったく、旅する事務がどこにいるってのよ」

「ここにいるじゃん」

「こんのぉー!」



「というわけでよろしくお願いします」

「はっはっはっ、護衛の任ならこのポールめにお任せください!」

「はい」

「トラド殿から聞いているかもしれませんが、途中で騎士の1人と合流します」

「聞いてないけど、わかったわ」

「ではでは。村の外に乗り合い馬車が来ている頃でしょう」

「そうね。道中何かあったら怖いからよろしくね」

「ええもちろんですとも!とはいえ東は落ち着いていますし、セツカ殿なら護衛など」

「護衛など?なんですか?」

「いえ、いつもより少しくらい少なくても問題ないかと。旅慣れてますしそもそも馬車には専属の護衛もおりますし」

「やっぱりみんなわたしのことを雑に扱う」

「頼れるパワーがありますからな」

「くぅー!わたしはどこにでもいるただのか弱くない女の子ってだけなのに」

「そんな人そうそうおりませんよ」

「大体なんで事務仕事をゴブリンズがやってんのよ」

「オイニンゲン。ソレハモンスターハラスメントダ」

「む」

「おやソロ殿。クエストから戻られたところですか」

「ウン。マルタハデカケルトコロカ?」

「ええ護衛の任を村長から直々に承りましてな」

「ソウカ。イッテラッシャイ。ツイデニオマエモイッテコイ」

「わたしがメインよ!ほらー、モンスターでさえわたしをぞんざいに扱う。いい加減わたしを大切にしなさいよ。うぅ、もうこのまま王子のとこで働こうかな」

「はっはっはっ、セツカ殿、そろそろ馬車が出る時間ですぞ。くよくよしながらでもいいので参りましょう!」

「参るというならとっくにまいってますよ」



「ねえポールさん」

「いかがしました?」

「あれなんだと思う?」

「あれ?私には草原しか見えておりませんが」

「ほらあそこ。なんかジャンプしてるのが見える」

「うーん、まだ老眼と思いたくはないですが、見えないですねぇ」

「ふーん。ならいっか。見間違いかも知れないし」

「何をおっしゃいます!セツカ殿の眼力は世界トップクラス!セツカ殿が見間違うのであればそこらの人間など生まれつきもうろくしているようなものでしょう!」

「ちょっ、ちょっと、大きな声で恥ずかしい事言わないでよ、他にも乗ってる人いるのに」

「皆村の関係者ですし大丈夫でしょう。さて降りましょう」

「やだ」

「御者殿。すまないが何か脅威となるものを見つけたかもしれない。偵察に向かいたいので降ろしてはもらえんだろうか」

「あいよー」

「ちょっとポールさん、何勝手に進めてるのよ、私は行かないからね」

「すまんな。これは駄賃だ。少し多めにしてある。感謝する」

「いえいえ、なんかあるとこっちも困るからね。よろしく頼んますわ」

「お任せください!」

「あぁ、どうしてこうみんなわたしを巻き込むのか」

「セツカ殿が発端であることの方が少なくないと聞きますが」

「うきー!いつになったら本業ができるのかしら」

「今まさに」

「ふん」

「はっはっはっ、行きましょう!道中はご安心めされよ!この命に変えてもセツカ殿はお守りいたしましょう!」

「はいはーい、どーぞよしなにー」



「ふぅー、ずっと座ってから歩いてるとちょっと心地良いわね」

「そうですな。身体を動かすのは気持ちがいいものです」

「そーね」

「して先程見たものはどちらに」

「あれだけど、まだ見えない?」

「あれですか、何か動いているのは見えておりますが判然としませんなぁ。というかあの距離で視認できたのか」

「だって、見えてるんだもん」

「疑ってはおりませんよ」

「別にいいけど。ねえ?あっち、煙が出てる」

「おや本当ですね。これはしかと見えますぞ。ふむぅ、これは見過ごせません!セツカ殿、私は見て参ります、ここを動かずお待ちください!」

「はーい。どうぞごゆっくりー」

「いえ早めに戻ります、では!」

「いってらっしゃーい。あの煙はなにか燃やしてるわね。誰かいる。まあいっか、ポールさんならよっぽどの相手でなきゃ大丈夫よね。とはいえ暇だ。あっちのあれは何やってるんだろ?飛んだり跳ねたり。というか、なんかこっちに近づいてるわね。うーん、うん?羽?あ、もしかしてあれって。よし行ってみるか。暇だし」


「あー!やっぱりシロじゃん」

「これはこれはセツカさん。こんなところで奇遇ですね」

「さっきから何してるの?」

「見てわかりませんか」

「ジャンプしてもがいてる」

「飛ぶ練習をしているのです!この美しい白い羽で」

「その羽で飛べるの?」

「残念ながらできません。ですので試行錯誤を練っているところです」

「へー、空飛べたらいいよねぇ。わたしも飛びたくって割と前から風の魔法を工夫してるとこなんだけど、全然上手くいかない」

「そうなのですか?実は私も風魔法を練習中なのです。もちろん飛ぶために。セツカさん、よければ一緒に練習しませんか?」

「うんいいよ。どうせポールさん時間かかるだろうし。それまで一緒に練習しよ」

「やた、お願いします!私達は同士ですね!」

「同士だね。じゃあがんばって空飛ぼー」

「おー」



「そこの者、何をしている」

「おやおや、急に背後から声をかけられると驚いてしまします。何をしているのかといえば、私は世界平和を実行中しております」

「ほう、大量の荷物をこんな人気のないところで燃やすことがどう世界平和に繋がるのか教えもらいたいものだ」

「危険な代物を消却することで危機を見善に防ぐのです」

「なるほどな。だが証拠隠滅ともとれる光景だ。こちらを向いてもらえるかな紳士殿。ただしゆっくりとだ」

「ははは。私はまぁ、怪しいでしょうね。ですがあなた方に仇なすことはしませんよ。今のところは。さて、これでよろしいですか?」

「お、お前は!まさかあの時の、私に怪我を!くっ、よもやキサマがここにいようとは。何を企んでいる!」

「はて、私はあなたを知りませんよ。どちら様で?」

「我が名はポール!元騎士団長ポールだ!キサマに、キサマに我が隊の騎士を奪われた元騎士だ!」

「人違いではありませんか?私には記憶がありません」

「そんなはずはない!その顔、忘れようものか!ここで何をしている!答えろ!」

「ですから危険なモノを燃やしているのです。あなたは、随分と直情的ではありますが礼儀作法が随所に見て取れます。騎士団長かはさておき元騎士というのはそうなのでしょう。国を守る存在。ふふふ、いいでしょう。教えて差し上げます。私が焼いているのは魔獣化の薬です」

「魔獣化の?どういうことだ、どこで手に入れた!それを使って何をする気だ!」

「だから平和のために焼いていると言っているでしょう。少しは頭を冷やしていただきたい」

「くっ、ならばキサマの名を名乗れ」

「構いませんよ。私はナヒカと申します。元騎士のポール殿、以後お見知り置きを」

「ナヒカ?違う、そんなはずは、あの時の姿は間違いなく」

「一体いつの話をされているのですか」

「あの時の姿はキサマだった、身なりこそ違えど傍若無人に暴れまわったあの化物、災厄のディザスは間違いなく」

「人違いです」

「言い逃れが出来るとでも!いや、幸い今は騎士ではない。そうだ。それに不審者であることにはかわりあるまい。ならばこの手で」

「話が通じませんね」

「覚悟してもらおう」

「はははっ!この地の騎士とは、かくも野蛮であるようですね!いいでしょう。その狂った思考を止めて差し上げましょう」

「ゆくぞディザス!」

「ええ、かかってきなさい、蛮族よ!」


「ふむ」

「どうしました!来ないのならこちらから」

「ディザスの名で応えたな」

「いえいえ、今のは勢いですよ勢い。私は雰囲気を大切にする空気が読めてしまうジェントルマンですから、折角盛り上がったのですから水を差すような無粋な真似はできませんからね、ははは」

「やはりディザスか。今度こそ答えてもらう。何をしに来た。仮に薬を消去しているのが本当だとしてもそれだけのために来たとは思えん。それにさっき、この地の騎士と言ったな?お前は西から来たのか」

「はははっ、いやはや、これは一本取られました。先程のは演技でしたか。私としたことが熱くなってしまったようですね。半魔になってからというものどうにもこの気質は抑えられません。忌まわしいものです」

「否定はしないか。肯定とみるぞ」

「お好きにどうぞ。真実を教える気はありません。いえ1つだけ教えましょう。私は嘘を言っていないことがあります。本当にあなたを知りません。記憶力はそれなりに自信がありますし騎士団長ともなれば忘れるはずがありません」

「ふむ、そうだな。思い返すとあの時のお前は正気とは思えなかった。大方周囲を認識できない程だったのだろうな」

「正気ではなかった、か。そういえば以前、気がつくとやけにボロボロになっていたことがありましたね。その後のことはよく覚えています。なにせラガエルにまで見つかって大変でしたから。やれやれ、私が何をしたというのでしょうか。怪しいと言うだけで襲い来るとは何とも野蛮な土地でありますな。この地は、この地は魔力が満ちている。そのせいなのでしょう、どうにもタガが外れやすいようです」

「それは危険だな。そんなお前に名案をくれてやろう。西に帰るといい。このまま2度とこの地に関わらないと誓うのならば見逃してやらんでもない」

「大きく出たものです。私に勝てるとでも?それにこの地であなた程の方と戦うとなると、かつてのように理性など飛んでしまいかねません。また大暴れしてあそこに見えるお城を壊してしまうかもしれませんねぇ」

「ならばその前に投稿をしろ」

「するわけがないでしょう」

「では仕方があるまい」

「さては元部下の敵討ちでもしたいのですか?止めておきなさい」

「はっはっはっ!安心しろ。皆無事だ。私がいる限り部下の命をお前如きにくれてやるものか」

「おやおや嘘つきですね。イノシシかと思いましたが、侮ったことを詫びましょう、元騎士団長殿。ですがあなたの要望には何1つとしてお応えする気はありませんよ」

「ならば問答はここまでだ。もう試しはしない。ゆくぞ」

「やれやれ。どうにもままならないことばかりですね」



「ねえなんか聞こえない?雄叫びとか鈍い音とか」

「さあ?私には風の音しか聞こえませんよ。ま、あなたのことですから国の隅っこにいるどこぞの村長のやるせない想いからくる愚痴を叫んでいる声でも聞こえているのではないですか」

「そんな具体的なものが聞こえるわけないでしょ。大体愚痴を叫ぶ村長なんているわけないじゃない」

「ですね。言ってみただけです。そんなおバカさんいるわけありませんね」



「なんでだよ!ちくしょー!うおぉー!」

「急にどうしたんだトラド」

「チェスタ!俺は今猛烈に村長としてやるせない想いを抱えている!」

「そりゃぁ難儀なもんだな。がんばれ村長」

「俺だって村長がんばってんだ、なのになんでだ、なんでなんだぁー!」

「でかい声で愚痴るなよ、うるさいからその辺にしといてくれ。ったく、国の反対側まで轟かせるつもりかよ」

「ちっくしょー!」



「ところでセツカさんは風の魔法をどんな風に使うつもりなのです?」

「足の裏と地面の間に空気を溜めて、弾けた時の勢いで空を飛ぼうかと」

「下手したら足がなくなっちゃうじゃないですか!大体それ、飛ぶは飛ぶでも吹き飛んでますよ」

「だってぇー。じゃあシロはどうするつもりなのよ」

「ふっふーん。私はセツカさんより現実的です」

「そーですか。自信あるみたいだから聞かせてもらおうじゃない」

「まず羽を広げて、その下に風を起こすことで私が浮かび上がります。そして程よい高さから滑空するのです。カンペキ」

「なんで上手くいってないの?」

「さあ?」

「おい」

「だって飛んだことないんだもん。わかるわけないじゃないですか。だからこうして試行錯誤しているのです」

「そもそも偉そうに言っておきながら私と発想が同じじゃん」

「確かに。そうかだから上手くいかないのか。私としたことが何たる失態」

「全部聞こえてるわよ。もー、誰か魔法で空を飛んだことってないのかな」

「セツカさんは何か参考になるものを見たことないのですか」

「本で読んだことはある」

「え!なんという本ですか?私が読んだことのないものでしたらもしかしたら!」

「本のタイトルは忘れたけど、隠遁した老師に風の操り方を教わって自在に空を飛ぶ弟子の姿が描かれていた」

「老師!一体どんな方なのです!それが本当なら凄いじゃないですか!」

「えっと、ラノベの」

「はいはい。もういいです。私がまともな文献を読んだ限りでは該当する記述はありませんでした。なのでおそらくまだ誰も成し得ていないのでしょう」

「望み薄かな」

「なればこそです!私達がパイオニアになるのです!諦めてなるものですか。今回ばかりは絶対にクロを見返してやります!」

「また喧嘩したの?」

「だって、まだがんばってるのに無理だって言い切るんだもん」

「クロらしいね」

「まったくです。兄弟だからわかっていますが、だからこそ尚更頭にきます」

「よーし、じゃあ絶対に飛んでみせよう!」

「おー!」



「私の師匠が風はもっとも扱いやすい魔法だって言ってたけど、ここまで細かいコントロールはさすがに難しいわね」

「その言葉の意味は理解できます。扱いう要素が少ないからですね。他の魔法は魔力のコントロールに加え形状の維持なども制御しなければなりません」

「風は作って撃ち出すだけだから簡単ってわけね」

「そうです。ですが今回目指す手法はその力加減が重要となります。先のセツカさんの考えでは自分へのダメージが生じてしまいかねません。さて、どのように扱うのが一番安全かつ効率的な使用が可能となるのでしょうか。悩ましい」

「いっそ風以外の力で試してみるとか」

「風以外ですか。それは盲点といえば盲点でした。ですが、それこそ思いつきませんよ。何かありますか?」

「うーん、言ってみただけ。シロなら何かあるかなって」

「そうでしたか。ありがとうございます。ヒントになるものがないか帰って調べてみます。ふふふ」

「楽しそうね」

「はい、楽しいです。自分だけだと上手く行かない時に目的を見失いそうになります。ですがこうして誰かと一緒に過ごしていると新しい道が示されることがあります。それがとても楽しいのです」

「そっか。まぁ、おじさん2人と分からず屋の兄弟に」

「大魔王さま、ですから」

「あははっ、ユミさん相変わらずなのね」

「はい。相変わらず怖くて、優しいです」

「そう」

「セツカさん」

「何?」

「やっぱり私達のところに来ませんか?あなたが来れば皆喜びます。ヒカルはどこかに行ってしまいましたが、あなたがいれば戻って来ると思うのです。全部、丸く収まるのです」

「うーん、私は今のままが良いかな。今の仕事がいいの」

「そうですか、残念です。あなたはみんなに必要とされているのですね」

「うん。うん?みんながわたしを必要としている?果たしてそうなのだろうか。わたしの存在意義とは」

「あー、とりあえず来たくなったらいつでも来て下さいね」

「うん」

「元気出して下さい。何か思うことがあるのであれば、よければ聞いてあげますよ?」

「うん、ありがと、シロ」


「わたしっていっつもみんなにいいように使われちゃうの」

「それはセツカさんがいい具合にリアクションしちゃうからじゃないですか?」

「じゃあ無視しろってこと?」

「無視とまでいかなくても、こう、さらっと受け流すような感じにすればいいのではないでしょうか」

「さらっと」

「そうですさらっと」

「例えば?」

「例えばなんて具にもつかないことを仰るのですね、おほほほほほ。みたいにしたらいいのではないかと」

「よし、シロを信じてやってやるぞー」

「おー。という感じになるからいつも、まぁセツカさんらしくていいですし、だからこそ皆この人が嫌いにならないんでしょうね」

「なんか言った?」

「そこは無視ですよ、無視」

「うーん、突っ込むのが習慣になってるのね。よーし、がんばってリアクションしないでいこう」

「自ら個性を潰した人間は果たしてどのようになるのでしょうか」

「あらそんなこと言われてもわからいってことよ、おほほほほ」

「微妙ですね」

「くっ、そ、そんなことなくてよ、おほほ」

「セツカさん。口調だけ変えても意味はないです。もっと、お前なんて眼中にない!って感じでさらっと話すんですよ。冷たくあしらうんです」

「えー、そんなことしたら可哀想じゃない」

「可哀想なんて言ってたらあなた変わらないでしょう。まったく、なんか真面目に考えるのが面倒になってきました」

「そ、そんな事言わないで一緒にがんばろ」

「いえ頑張るのはセツカさんですから。私は空を飛ぶのに忙しいのです。後はご自分でなんとかしてください」

「そんなー、わたしはどーすればいいんだー!ねぇ、せめて見本だけでも、お願い!冷たくするってどうすればいいのよー!」

「知りません」

「うぅ冷たい。あ、こういうことか。なんかニーナちゃんみたいね」

「理解出来たならよかったです。では私は練習を続けます。それ!飛べっ、私!今こそ空を飛ぶ時です!でゅわっ!」



「暗くなってきました。そろそろ帰ります」

「まさかの門限?」

「はい」

「まじで!」

「うそです」

「くっ」

「ふふっ。あなたは気げ抜けて楽しいです。またお会いしましょう」

「うん、またね」

「ですが私達の所属する勢力は敵対しています。状況次第で私達は争うことになります。最悪のことだって」

「そんなことないよ」

「いえ覚悟はしておきましょう。私は争いを特に好んではいません。ですが国の法、彼らのルールには従えません。そうなると争うしかないのです。受け入れられない相手にはとことん攻撃しますからね、人間って」

「わたしはそんなことしないって。だって」

「いえいんです。私とて今更引くわけにはいきません。魔獣化の薬だって、多くの犠牲の上に完成したものです。あれに私自身どれほど努力と運を費やしたか。容易く出来るものではありませんでしたから」

「そうなんだ。でもニーナちゃんは」

「セツカさん」

「あ、はい」

「あなたは数少ない、いえ、私にとってはたった1人の友人です。だから傷ついてほしくありません。だから約束してほしいのです」

「何を?」

「たとえ戦いが激化しても前線にだけは出ないでください」

「うん。でもねシロ、前提がおかしいのよ」

「前提?勢力争いにはならないということですか?それとも私など、友人ではないと」

「あの、わたし事務なんですけど。いい加減わかって?」



「シロも行っちゃったなー。そういえば何かを忘れているような。ん?誰か来た」

「セツカ殿ですね?こんにちは。私は騎士ハモンと申します」

「あ、見たことある人だ。確か変態騒動の時に。えーっと、ポールさんが言ってた途中で合流する騎士さんですよね」

「はい。随分と遅いので探しておりました。ポール殿は?」

「向こうのほうで火が上がってて、それ見に行ったきりです。そういえば忘れてた」

「何かあったのでしょうか。様子を見に行きませんか?もちろんあなたの事は必ずお守りいたします」

「あー、はい、お願いします。じゃあ行きましょ」

「ええ」



「ポールさん!どうしたのその怪我」

「ポール殿!」

「おおセツカ殿にハモン殿も。ははは、大したことはありません、と言いたいところですがさすがに深手を負いましたな」

「ポール殿をここまで追い詰めるとは一体何者と」

「待ってて、傷によく効く薬があるの」

「おお、それはまさかエリ」

「靴擦れの薬よ」

「ああニーナ殿の」

「傷口洗いますね」

「貴重なものをすみませんな」

「別にいいって。わたしは滅多に使わないからいつまで経ってもなくならないし。傷に塗るからこれ持ってて」

「承知です」


「ハモン殿、事の経緯は後でお話しいたします」

「承知いたしました。まずはどうぞお身体をお休めください。その間はこのハモンが守護いたします。ポール殿のためとあらば力の限り警護致しましょう」

「かたじけない。ですが私はもう騎士団長ではありません。過度に敬意を示さなくともよいのですよ」

「いえ。私にとってもあなたは恩あるお方。騎士のポール殿ではなく、あなた個人への恩なのです」

「そこまでの事はしておりませんよ。どうぞお忘れくだされ」

「ですが」

「ハモン殿、あなたの道はあなただけが導いて行けるのです。私ではありません」

「わかりました。ですが必要な時はいつでもお声がけください」

「ははは、ではそうさせていただきます」


「おや?この器の裏に何か書いてありますな。ふーむ、病は気から?」

「思い出の一言ね」

「ニーナ殿ですか?」

「死地に赴くわたしに向けた熱ーい友情がこもった一言なの」

「そ、そうですか。友情とは奥が深いものですなぁ」

「そうね」


「友情か。ハモン殿を見ているとかつて騎士団長を務めていた時のことを思い出しますな」

「懐かしいものです」

「その後はいかがですか?ピックァリィン殿も騎士として大成されたと聞きます」

「友と共に我が騎士道を歩み続けております」

「そうですか。それは良かった」

「あなたのおかげです」

「余計なものを少し遠ざけただけですよ。ここまで来れたのはあなた達の力です」

「感謝の念が絶えません」

「その絶えない念を民へと向け、目指す姿を追求する騎士としてこれからも歩んで下さい」

「はい」

「2人とも何の話ししてるの?」

「ポール殿にかつてお世話になった時の話です。ただの思い出話しですよ。何についてかといえば、そうですね。伝承の勇者についてでしょうか。ふふふ」

「はっはっはっ」

「わけわからん」


「ありがとうございます。あっという間に治りました」

「よかった。ニーナちゃんに感謝ね」

「はい。相変わらずニーナ殿の薬は完璧すぎる。しかし、彼女のこの才能は危険でもあります」

「そうなの?本人は大層なものとは思ってないみたいだけど」

「常人からすれば尋常ではない才能です。あの才をどこかの国や組織が知れば絶対に見逃しはしません」

「ポールさんは報告してないの?」

「しませんよ。いや、古傷を癒やしていただいた頃に少し話したかもしれませんな。少なくともショウ王子や魔法大臣は知っているでしょう」

「ふーん」

「だから手元に置いているのかもしれんですな」

「貴重な才能を自分の元に置いておこうってこと?コソコソとせこい真似するわね」

「それだけではないでしょう。王族直属の家臣にしてしまえば他の者がそうそう手を出せないという魂胆もあるかと。ニーナ殿を守るために」

「ニーナちゃんのためなら、まぁいっか」

「もしかしたらあなたのことも思ってかもしれませんよ?」

「ニーナちゃんに何かあったらわたしが悲しむから?まっさかー」

「ふふふ、ショウ王子は優しいお方ですよ。しかし王子と大臣は相当にキレる方でもあります」

「イメージわかないけど」

「もし彼らを欺こうとするなら相応の準備と覚悟が必要です。仮に騙し、その状況を維持出来るのであればよほどの知恵者か、もしくはあの2人に泳がされているのでしょう」

「はっ!」

「ど、どうされました?」

「まさか、わたしも何かのあの2人の企みに」

「いえセツカ殿は自由にさせた方が面白いと」

「なぬ、面白いだと?」

「あ、いや、これは以前王子と大臣が、その」

「あの2人が薄ら笑いをしている顔が目に浮かぶわ」

「そのような顔はしてませんでしたが」

「いいわ!城で会った時にカマかけて問い詰めてやる。ショウ王子と大臣ね、首を洗って待ってなさいよ!」

「そういうところが、ですよセツカ殿」



「やれやれ、今日はとんだ厄日でした」

「ナヒカ公。いかがなさいますか」

「そうですねぇ。西はどうなっていますか」

「はい。諜報員からの情報によればトノは負傷、西の領地はラガエルが代理で管理しているとのことです」

「そうですか。では今ラガエルは西から離れられないということですね」

「はい」

「トノはどこにいるのです?」

「東の戦士村で療養中だそうです」

「なるほど。それと国境沿いの植物はどうなりましたか」

「根が深いようでどれだけ刈っても翌日には元通りになります」

「困ったものですね」

「それともう1つ。こちらを」

「おや」

「王族へ宛てた親書に対し返事をいただいております」

「どれどれ。ほう、西の来客を受け入れたと。ふふふ、彼らは何を企んでいるのでしょうか。準備は?」

「国境沿いの植物発生の影響で準備出来たものは数名ですが、手筈は整っております。また現地に詳しい協力者もおります」

「わかりました。今日は色々なことがありましてね、この地は私にとってとても忌まわしい場所だと再認識しましたよ。ですがいいこともありました。友人が出来たのです」

「友人ですか?」

「ええ。その友人には色々と動いてもらいます。というわけでその辺の計画は後日お話します」

「了解しました」

「さて、今日は本当に疲れました。私はしばらく休みます。何かあればまた連絡をお願いします」

「はい。お休みなさいませ」

「ええ。おやすみなさい」

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