124. ソノマの果てから来た男
「これは思ってたより酷い状況ですね」
「そうね。事前情報だと馬が突然暴れ出したらしいけど」
「確かに蹄の乱れた跡が沢山ありますよ」
「詳しいことは騎士が知ってるでしょ。ほらいるじゃないか騎士団長」
「ですね」
「ほらほら、髪が乱れてるよー。襟もきちんと」
「もー!母親じゃあるまいし。やめてください。この状況でそんなこと考えるなんてしませんよ」
「おお、仕事熱心。見習わないとねぇ」
「いやほんとナミチさんは僕を見習ってください」
「はいはい。なんて話してたら向こうから来たね」
「こんにちは。お越しくださりありがとうございます、ナミチさん、それにシモザさんも」
「こんにちはカーバンさん」
「さりげなく身だしなみ整えるなよ」
「最低限の礼節ですよ」
「何だかんだで下心丸出しじゃねーか。なあ、簡単には聞いてたけど、どんな状況なの?」
「あの、出来れば経緯も僕は知りたいです」
「あんたねぇ」
「わかりました。ナミチさん、私は構いませんから。とはいえ実は私も今到着したところですので、報告内容をそのまま伝える事になります。まず行商人が荷馬車で周辺の村から仕入れに向かい、戻り城門付近にさしかかった際、荷馬車を引いていた馬が突然暴れ出したそうです」
「見た感じ酷い状況ですけど、被害は?」
「ちょっとシモザ、そんな詳細はうちらに関係ないでしょ。どーせあんたの目的はおしゃべりしたいだけじゃないか」
「担当する場所の把握は交通整備にとっても大事でしょ」
「口ばっかり育っていく」
「そうしないと生き残れないもので」
「はいはいそれじゃお好きにどーぞ」
「ふふっ、ナミチさんには事前にお伝えしてある程度ご存知ですからね。シモザさんへの説明がまだのようなので私からお伝えしましょう」
「被害に関しては行商人が怪我を、荷馬車は横転し荷が広がっています。幸い被害はそれだけなのです。あとは馬車の破片も散らかっていますが、こちらは現場検証が済み次第掃除します」
「じゃあそれまで近寄る人がいないようにしますね」
「現場監督は私だろ」
「お2人は仲がいいのですね」
「カーバンさんにはそう見えるのかもしれませんがそんなことまーったくありませんから」
「だってよ。騎士団長さんからすると些細なことででいがみ合うような器の小さい男なんて眼中にないよな」
「それはそうですが、シモザさんをそうみてはいませんよ」
「そ、それはよかったです。はぁ、ナミチさんのペースに巻き込まれるなぁ。しっかりしなきゃ」
「そうそうしっかりしろよ」
「くっ、我慢だ我慢、ここで言い返したらこの人の思うツボだ」
「忍耐力を身につけるのは大事だな、うん」
「くぅー!我慢だシモザ。今こそ成長の時!」
「それにしてもなんで馬が暴れ出したんだろ?」
「まだ断定できる情報がありませんね」
「目撃者はいないんですか?」
「います。あそこにいる、彼です」
「あの人だけ?行商人は何か見てないのかな」
「突然のことでわからないそうです。ただ、その直前に不意に影が出来たと」
「へー、影ですか」
「ええ、自分達を覆いかぶさるような影が突然よぎったらしくそれが原因である可能性も」
「上空に何かいたということなんですかねぇ」
「ははっ、簡単な話にしたいならそうなるんじゃないか」
「ナミチさんは黙っててよ」
「客観的な意見は大事だろ?」
「嫌味言いたいだけでしょ」
「熱をあげて錯乱している部下を助けてやるのは上司の務めだ」
「そーですかー。だったらいつも手本になるような働きを見せて欲しいものですね」
「見せているじゃないか。部下の使い方が上手いだろ?なんせいつも自主的にしっかり働いてくれるんだから」
「お2人とも、その辺にしておきましょう」
「あ、はい。すみません」
「そうね、悪ふざけもここまでにしましょうか」
「じゃあこれからあの男に聴取ってところか」
「ええ。現場検証は別の騎士を中心に進めています。お2人には野次馬が近寄らないようにしていただきたいのと」
「モンスターだな」
「はい。ここは西側です。モンスターの勢力が比較的強いので警戒はしてください」
「わかった」
「でもこの辺りって兵士も少なくないし、よっぽど大丈夫じゃないんですか?いつも交通整理はもっと北西側でやってるし、城門近くまでモンスターが来るなんてことは早々」
「この間、植物型のモンスターが出たという報告がありました。確かシモザさんが即座に対応してくださったおかげで大事に至らなかったと聞いてます」
「あ、あれは必死で。そっか、あのモンスターもまだ見つかってないんですね?」
「はい。ですので団長である私自ら来ました」
「偉い団長が来るほどか。内部の統制は大丈夫なのか?」
「ご心配には及びません。騎士は皆優秀ですし副団長がいます」
「ああ、あの犬ね」
「犬?モンスターの騎士かな」
「はぁ?そんなのいるわけないでしょ。何言ってんの」
「あはは、戦士村に行けば誰だってそう考えますよ。ナミチさんも行けばいいんだ。じゃあその人は忠義に厚いってこと?皮肉屋のナミチさんらしいですね」
「みんなが言ってることだ。ま、会う機会があればすぐわかるさ」
「ふーん」
「こんにちは。今回の事件へのご協力に感謝いたします」
「こんにちは。いえいえ構いませんよ。偶然目撃しただけですが私に出来ることがあるようでしたら何なりとお申し付け下さい」
「ありがとうございます。申し遅れました。私は騎士団長のカーバンと申します」
「おお、まさか団長自ら調査されるとは、この件は思いの外大事なのですね」
「いえ、恥ずかしながら騎士も人手不足なのです。それにこうして現場に出ることで国を知るいい機会だと感じております」
「そうですか。団長が誠実なら騎士の品位も保たれようもの。ふふふ、私の知る騎士はキレイに飾り付けた蛮族ばかりでしたらからあなたのような方を見ると安心です。では今回の事件について私が見たことをお話しいたしましょう」
「お願いいたします」
「お安いご用です」
「ところでなんとお呼びすればよろしいでしょうか」
「おや私としたことが名乗っておりませんでしたか。失礼いたしました。私のことはナヒカとお呼びください」
「すでにお答えいただいている話ですと、馬が突然暴れバランスを崩した荷台が転倒し御者が投げ飛ばされたと」
「おおよそはそのようなところでしょう。申し訳ないが私も突然のことで動転しておりまして、記憶違いもあるやもしれません」
「いえ、情報提供に感謝しております。ところでその他何かご覧になられたものはありますか?」
「他に見たものですか。事件につながるようなものは、さてどうでしょう。例えばどのようなものでしょうか?」
「空を覆うような何か、とか」
「残念ながら該当するようなものは何も見ておりませんね」
「そうでしたか。御者が大きな影に覆われ馬が怯えたのが発端と申しておりましてね。ご存知ありませんか」
「ははは、そのようなモノがあれば付近の兵士諸君もご覧になるでしょう。その兵士諸君からは何か報告はありましたか?」
「今のところ報告は上がってきておりません」
「では御者殿が何か、そうですね、自身に倒れ込む荷台の影をそう思い込んでいるのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね。ナヒカ殿はこれからどちらに?」
「旅の途中でして、私は南に向かっております。何も無いところと伺ってはいますが大樹海というものを一度この目で見たいと考えておりまして」
「樹海をですか。あの辺りも安全とはいえませんが、護衛はいないのですか?」
「必要なら手配しますが今のところ安全に過ごせておりますから。それとも騎士団長殿に護衛していただけると?」
「申し訳ありませんが私は任務がありますのでお供するわけにはいきません。ご容赦を」
「いえいえ、冗談ですよ。他に何かお力になれそうなことはありますか?」
「いえ大丈夫です」
「ではこれで失礼します。無事事件が解決することをささやかながら祈っておりますよ」
「はい。ナヒカ殿、道中お気をつけて」
「ありがとうございます。それでは」
「カーバンさん、どうでしたか?」
「収穫はありませんでした」
「あの人、なんか不思議な感じですね」
「ええ、教養のある者です。貴族か何か、何ともいえない妙な気配を感じます」
「妙な気配ですか。僕にはよくわからないです」
「騎士の勘といったところです。あまり気にしないでください、根拠があるわけではありませんから」
「調査はどうなるんですか?」
「とりあえずこの現場で得たものを持ち帰り分析します。それまでもう少々お付き合いください」
「はい、もちろんです!」
「ふふっ、シモザさんはいつも頼りになりますね。安心できます」
「あはは。いつもあの人達に鍛えられてますから」
「そこまでにらまなくても」
「リューク殿」
「はい」
「先程の男性、ナヒカさんを追ってもらえますか。南で何をするのか、妙な点がないか調査をお願いします」
「承知しました。疑わしいと判断した場合ですが、いかがいたしましょうか」
「状況次第ですが深追いは不要です」
「わかりました。せめて所在だけでもつかんでおきます」
「ええ、お願いします」
「あれが騎士団長ですか。近衛騎士に匹敵すると噂の。確かに甘く見ていると大怪我をしそうです。さて問題児のハト殿は、ふむ、先に行きましたか。懸命です。ここに残られると困りますからね。周囲には誰もいないか。いや、あれは」
「この辺は誰もいないな。よし、今日は僕のトレンドマークの練習だ」
「こんにちは」
「う、うわぁ!だ、誰だ!」
「そこまで慌てなくてもいいでしょう。何をなされているのですか」
「その口調、あんたまさか騎士か」
「だとしたらどうします?」
「べ、別に。どうもしないさ」
「怪しいですね。捕らえましょうか」
「ちょ、ちょっと待てよ!僕は何もしてないだろ」
「西門で事件がありました。あなたが犯人では?」
「事件?なんのことだ。何があったんだ?」
「とぼけるつもりですか。では騎士団長に突き出して」
「う、う、う」
「う?」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「待ちなさい」
「くぅるなぁ!これでも喰らえ!」
「なっ、これは暗闇の魔法。なるほど目潰しですか」
「はて?襲ってくる気はなく逃げましたか。騎士団の目眩しにと思ったのですが上手くいきませんね。それにしても暗闇で目潰しとはなんとも懐かしいものを見せてくれます。本当に懐かしい。ふむ、あの男まさか、いや、さすがにないか。おや、闇が消えましたね。ではハト殿と合流しに向かいますか。お待たせするとお怒りになるかもしれません。その理性が残っていればですが。ふふふ」
「はて、ハト殿は見当たりませんね。南の森で合流くらいの理解はあったはず。先走っていなければいいのですが」
「おい」
「おっと、おやなんでしょう」
「お前はここに何をしに来た」
「ちょっとした散歩ですよ。軽い運動は健康にいいですから」
「目的はなんだ」
「冗談に乗らないなんて、社交性に欠けますねぇ」
「お前は何者だ」
「質問ばかり。自分の知りたいことしか興味がないのですか。古い知り合いによく似た人がいましたが、まったく、もう少し会話を楽しんでもらいたいものです」
「俺の知り合いにもお前のような奴がいたよ。いつもいつもペラペラとよく喋る奴だった。答えろ。何をしに来た」
「あなたがマルマルですね?ハト殿に渡した魔獣化の薬を持っているはず。それを全て差し出しなさい」
「断る。これで用は済んだな。帰るといい」
「そうはいきません。その薬は力づくでもいただいていきます」
「ははは、口先でままならなくなると力任せか。益々気に入らんな。やはり渡せん」
「仕方ありませんね。ハト殿、そろそろ出てきて下さい」
「ハトだと?奴もここに、いやまさかさっきの獣がそうなのか」
「来ているのですね、それは良かった。なのですが、こちらには来てくれませんねぇ」
「見捨てられたか。しかしあれがハトだと?何があったんだ」
「理性を失っているのですよ」
「ほう。あの紳士ぶったモンスターがとうとう本質を頼りにし始めたか」
「あれが来るまで少々お待ち下さい。その間交友を深めようではありませんか。そうすれば無益な戦いなどせずに済むかもしれません」
「勝手なことを。だがいいだろう、お前のことを聞かせてもらう」
「ええ、構いませんとも。私の名はディザス。ソノマの果てから来ました」
「見つけた。マルマル」
「クロか、ちょどいいところに来た。獣は?」
「見失ってしまったよ」
「そうか」
「引き続きダグが探している。僕らも追った方がいいかい?」
「いや、クロはここにいてくれ。シロは?」
「おそらくもうじき来るはずだよ」
「そうか」
「マルマル、これはどういう状況なんだ?」
「こんにちは」
「こんにちは。僕はカクロカ。あなたは?」
「私はディザスです。よろしく、カクロカさん」
「よろしく」
「さて、そろそろお前のことを聞かせてもら」
「あ、やっと見つけました。マルマルとクロ、とどちらさんです?」
「ふふふ、自己紹介ばかりで話が進みませんね。ディザスといいます。こんにちは」
「こんにちは。シロです」
「お2人は双子ですか」
「はい」
「シロとクロ、ふふふ」
「ちょっとマルマル、この含み笑いさんは一体何者です?」
「それを今から確かめる。ちょっと黙っててくれ」
「りょっ」
「いくつか聞きたい。まずは目的だ。魔獣化の薬を全て差し出せと言うが、その目的はなんだ」
「目的ですか。話したら譲ってくれますか?」
「内容次第だな」
「そうですねぇ。では申しましょう。魔獣化の薬はとても危険な代物です。それを意味もなく量産するのは関心しません。全て消却します」
「ははは、怪しい奴が危険だから消却するだと?信じられんな」
「私はウソなど口にしておりませんよ。危険性については重々理解しているのでしょう?」
「そうだな。あれは危険なものだ。いいだろう、条件次第では要求に応えよう」
「おお、話が早い方で助かります。それで条件とは」
「ずべて買い取ってもらう。その身なりだ、持っているんだろ?」
「なるほど。まさかこのような場所で野生的に過ごしていそうなあなたが金銭を要求するとは意外です」
「払うのか?」
「ええ、構いませんよ。いくらですか」
「このくらいでどうだ」
「ふーむ、さすがにふっかけすぎでしょう。このくらいなら」
「いやいや、これの価値は相当なものだ。加えて精製には手間もかかっている」
「マルマル、手間というほどでもないし、あれは僕が楽しんで」
「クロは黙ってなさい。また怒られますよ」
「わかったよシロ。仕方がない」
「ふふふ、仲がいいことで。さてさて、もう少し安くしても良さそうですね」
「いや、クロはわかっていないんだ。あれにどれだけ苦労させられたか。近衛騎士にも追いかけられたこともある。ほんと大変だったんだ。お前は稼いでいるんだろう?なら出すものは出せ」
「野盗みたいなことを。なるほど、私を破産にでも追い込みたいのですか。であればなおさらここは引けませんね」
「これ以上は下げられん」
「私も引けませんね。となると、仕方がない。実力でいただくとしましょうか」
「いいだろう。だが、その前に1つ聞きたい」
「問答無用、と言いたですが、値下げしてくれるのでしたらお答えしましょう」
「解答次第だ。ソノマから来たと言ったな、どういうことだ?」
「ああ、ようやく聞いてくれましたか。最初に聞かれると思っていたのですが、その2人に聞かせるためですか?まあいいでしょう。大した話ではありませんがね」
「ずっと昔のことです。私はある場所で彷徨っていました。長く、ね」
「昔話ですよクロ。しかも自分語り。座って聞きましょう」
「うん。長話しの条件を兼ね備えている。こういうのは無駄に長いからね」
「コホン、ながーく彷徨っていました」
「それは大変でしたねぇ」
「彷徨うと帰るのが大変だ」
「とにかく、彷徨い続ける私はそこから遠いどこかに行きたかった。そして長い旅路の果てにその願いが叶ったある時、気づいたら広い部屋にいたのです。知らない場所に佇み、念願が叶ったのだと知り喜びました」
「感動の瞬間ですね、おめでとうございます」
「おめでとう。願いが叶うのはいいことだ」
「ええ、ありがとうございます」
「お前達、いちいち話の腰を折らないでくれ。話が逸れそうだ」
「がってん」
「承知」
「ふふふ、息ぴったりですね。私は構いませんよ。ですが私はその部屋の管理人を任されることになりました。また長い時間をそこで費やすことになったのです。試行錯誤の末、ついに逃げ出すことに成功します。逃げて逃げて、ひたすら歩きました。どこをどう進んだのかわからないほどに」
「それでお前はソノマにいたと?」
「ええそうです。最初は何も無い草原でした。次第に森に入り、そこで洞窟を見つけ抜けた先がこの地だったのです」
「そうか、ソノマについて何か知っているか?」
「ああそれが聞きたかったのですか。そう言ってくださればこのような長話ししなかったのですよ?」
「何か知りたいことが含まれているかもと思ってな。本当に大変だったんだな」
「はい。ですが大変だったのはその後もですし、どうにも苦労の絶えないのが私の道のようです」
「難儀だな」
「ちなみに何があったのです?」
「この地に立ち、やっと人に出会えたと思ったら人体実験に使われこの通り、半魔ですよ。あなた方と同じです」
「大変だったんですねぇ」
「脱出の末に捕まって改造か。それは大変だ」
「それ以外に言えることがないほど大変だったな。まぁクロは加害者側だが」
「とても同情していただけて嬉しい限りです。辛い我が宿命、ということで値切ってください」
「断る」
「マルマルはそれでも人ですか。こんなに苦労してるのに、いりもしないお金をせしめるとは」
「なんせ半分モンスターだからな」
「今日のマルマルはなんだか冷たいですね」
「一手逃すごとに追い詰められる。今はそういう時だからな」
「そこまでかな?でもたしかにあまり笑わないね」
「ははは、そんなことはないさ」
「おや、ではその笑顔に免じて」
「何のために必要なんだ?それ次第だ。いい加減本当のことを話せ」
「やれやれ、聞き分けのない人ですね」
「お前を見ていると値切る気が失せる。答えろ」
「いいですか?私達を見てください。半魔となりました。この力はあまりにも強く最上の者とさえ渡り合えるのです。このような者が量産され世に出回ったら恐ろしいことになります。戦闘に関してはいうまでもありませんが、何よりも長命であること。この点は世界のバランスを崩します。ですので破棄します」
「以外と真面目だった」
「怪しい割にこの人すごく善良ですね」
「なんだか作った僕が極悪人に思えてきた」
「極悪人だと暗にお伝えしたつもりなのですが」
「あなた方が先程追っていたという獣、あれは魔獣化の薬を使ったモンスターです」
「そうだったのか」
「クロ、あれは白鳩だそうだぞ」
「白鳩?あれが?そうかあいつ、使ったのか。ふ、ふふふ、あははは、あはははははっ!」
「ク、クロ?おいどうした」
「バカな奴。あれは、ハトに渡したのはあいつ専用の薬なんだ。ふふ、シロを痛めつけた報いに副作用が起きるようにした。いや、それこそが主の作用なんだ。僕はあいつを許さない。これでもまだ終わらせはしないさ」
「お前って、結構根に持つやつだったのか」
「クロはこういう人です」
「うーん、まぁハト殿に関しては利用できるので構いませんけどね。とりあえず薬をプリーズです」
「あ、噂をすれば」
「ハトだ」
「おいおいあの巨体で飛べるのか」
「いえ、飛んでいるというよりはジャンプしてバタついてるだけですよ」
「なんともみっともないですね。でも飛べたらいいですねぇ」
「シロさんには羽があるではありませんか。飛べないのですか?」
「う、嫌なことを聞きますね。飛べませんよ、ええ飛べません。それが何か」
「いえいえ、折角羽があるのにただ残念だと思っただけですよ」
「今練習中です。その内大空へ飛び立ちます」
「シロ。それは無理だと思うよ。その羽根で飛ぶのは物理的に不可能だ。自重を浮かせられるほどの強度も面積もない。滑空することさえ難しいと思う」
「もう!折角夢見て頑張っているのに。挫折するなら自分で結果を出してからと決めていました。クロなんて嫌いです!ふーんだ!」
「ああ、行ってしまいましたね。よろしいのですか?」
「シロは怒ると話を聞いてくれないからしばらくはそっとしておくしかない。事実を知ったほうがいいと思ったんだけどなぁ」
「時にはウソも必要なものですよ。ねぇマルマルさん」
「馴れ馴れしく話しかけるな。ふむ、とりあえず交渉は成立としておこう。ディザス、ここで待っていろ。ありったけの薬を持ってくる。クロ、手伝ってくれ」
「わかった」
「ではお待ちしております。ですがお早めにお願いしますよ。このような場所で待ちぼうけなど寂しくて仕方ありませんから」
「だそうだぞクロ。よし、ゆっくりやろう。行くぞ」
「うん」
「マルマルはあいつに何か恨みでもあるの?」
「別に。なんとなくムカつくだけだ」
「そうなんだ。珍しいね。彼は、ディザスだっけ。この名前どこかで」
「ディザスといえば、災厄の者の名がそうだな」
「なるほど。でも僕は災厄なんて知らない」
「自分で作っておいてなんだけど、結構あるね」
「そうだな。まぁのんびりやればいいさ。あいつのために急ぐ必要はない」
「そうだね。待たせているけど確かに急ぐ理由もない。ん?これは薬の調合メモ。ああそうか、思い出した」
「何をだ?」
「大昔、半魔の薬を作っていた古代の王様がいたんだ。その研究を引き継いだ組織がいて、その人達が作ったモノを元に僕は魔獣化の薬を作ったんだ」
「前に聞いた話しだな」
「うん。それでその組織が作り上げたのがディザスという半魔。そうそう、そういえばその被検体の名前が、これだ。ナヒカというそうだよ」
「ナヒカ、ふむ」
「ずっと昔なのに生きているなんてね。僕らの薬も同等の効果があるからこの先千年は生きられそうだよ」
「ははは、千年か。まぁのんびりやるかな」




