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½人魚は¼人狼で王子の恋の罠に捕まりました  作者: まきゆ
共に生きようって誓ったのに隠し事はなしです。 辛い時こそ一緒にいたいんですよ?
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第3王子エトフォール

しかし果たして。


(誰なんだろう?)

知り合いではないはずだと、じっと観察していると可笑しそうに吹き出される。


「情熱的に見てくるけど誘ってるの? 僕の奥さんはこういう所が嫌いで来ないし、夜も一緒に過ごしてあげようか?」

悪い人ではないかもしれないが、言っている意味が理解出来ず眉を寄せる。


「何その顔、変。君も……アルフラインも面白いな」

何故そこで最愛の夫の名が出るのだろう。面識があるのだろうか。

しかも王子である彼を敬称も付けずに呼んでいる。


「さっきからアルフラインが凄い目で睨んでいるけど、君は他の奴の視線に全然気がつかないんだね。それにしても数年振りに会った兄に向ける眼差しがあれとはね。不出来な弟を持って僕って可哀想じゃない?」


「……アルフライン様の……お兄様?」

ルーシェがびっくりして目を見開いていると、近寄ってきた女性からそれを肯定する甘えた声が彼に掛けられる


「エトフォール王子。今夜は私には構ってくださらないの」

「君とはこの間遊んであげたでしょう? それに僕、誘ってもいないのには馴れ馴れしくされるのは好きじゃないんだけど」

しっと犬でも追い払うように令嬢を扱っている。


なるほど尊大な態度も頷ける。

確か第3王子がそんな名前だった。エトフォール・リンク・ルギナスだ。


「それでも王族なんだから、その君に易々と声を掛けれる時点で普通は解るでしょう? しかもこんな高貴な僕に。鈍いよね。アルフラインもそれで油断してたし周りも牽制までしたのに、僕に奥さんを盗られて悔しそうだよね。あ〜楽しいな」

悪い人ではないかもしれないが性格は大分歪んでいる。


「君は平民の子でしょう? 本当に利用価値がないよね。あいつももっと価値のある妃を貰えば良かったのに。田舎に引っ込んで随分変わったよね」

前言撤回、悪人だ。


「知ってる? 側妃って王子の間で払い渡される事もあるんだよ。結構気に入ったし、僕の奥さんも君みたいなの好きかも。今のうちに奪っちゃうのも楽しいかな」

アルフラインはテレサに連れ回され次々に令嬢を紹介されては、すげなく断り続けている。

すれ違いざまにこちらへ目を向けてくれているようだが、従者のような女性3人に囲まれているので身動きは難しそうだった。


ルーシェの視線がアルフラインの方に向いているからか、彼に対しても侮った発言を続けてくる。

「まぁあいつの利用価値も魔力くらいしかないし、お似合いかもね」

「それは違います!!……私の身分がないのは事実ですが、アルフライン様の価値は魔力だけではなくても沢山ありますよ」


嫌そうにしながらもああやって耐えているのは、リムやレナインの為で。ギリギリまでルーシェを気に掛けてくれていた。

自分を馬鹿にされるのは平気でも、彼を貶されるのは許せなかった。


「……何それ。子猫が戯れついてるみたいで全然怖くないし…………つまんない。ちょっと来て」

自分から話を振ったくせに急に興味を無くしたようで、また手首を掴んで連れ回される。


目的はこのダンスホールの中で、最も頭数が多い一群の中心のだった。

「兄上、ほらアルフラインが貰った側妃を連れて来ましたよ。見物したがっていたでしょう」

「ほぅ。お前がアルフラインを誑かしたという側妃か。なるほど美しいな。平民の娘など奴隷くらいにしか使えないが、お前なら良い娼婦が務まるだろう」

人集りの真ん中にいるのはこのダンスホールの持ち主でターンメルダ領主コンレール・リンク・ルギナスで間違えないだろう。


だが生理的に受け付けない人物というのはいるものだ。

顔はエトフォールと似てなくもないが、脂ぎった肌に、にやついた表情。

ぷくぷくに太った身体を表すなら自堕落の一言に尽きた。

美しい深紅の薔薇の紋章が驚くほど程似合っていない。

そのコンレールに侮蔑的な言葉と舐めるような視線を向けられ、ゾワゾワとした悪寒を覚える。震えながら何とか挨拶だけは無難に返した。


「うむ。存分に余のホールで楽しんでいくが良い」

正直そんな気分にはあまりなれなかったが、エトフォールに手首を掴まれたままいつまでも解放されない。

「次は何処に行こうか? あっそうだ。今晩は僕の屋敷に泊まっていく? うん。それがいいな」

「待ってっ!!っ困ります」

こちらの意見など聞く耳を持たず、入口付近まで引き摺って行かれる。何とか自由になろうとあがらっているのだが、全く効果がなかった。

「そんな抵抗……君って征服欲を煽るタイプ? なんだか燃えてくるな」

軽く笑ってあしらわれる。

このままでは本当に一緒に連れ出されてしまうと、青ざめた時だった。

「痛っ」

呻き声をあげてエトフォールが急に手を離す。

ふわっと背中に当たった風がルーシェだけを外に押し出した。一瞬だけ振り返ると琥珀色の瞳と蒼い2つの宝石が光を放っていた。

風に促されて、それ以上は後ろを振り返らずにホールを離れる。

ヴァオスが近づいてきてくれるの確認して、ようやく動かし続けていた足を止めた。

(あの風……アルフライン様の)

魔力を使って助けてくれたのだ。


――自分の身の安全だけを考えて欲しい――

頭に響く彼の言葉が、最後にみた瞳が。

独りホールに残った彼の元へ戻るのは許さないと、ルーシェをその場に引き留めていた。



エトフォールは書きやすいです。

第2王子の空気感!

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