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½人魚は¼人狼で王子の恋の罠に捕まりました  作者: まきゆ
共に生きようって誓ったのに隠し事はなしです。 辛い時こそ一緒にいたいんですよ?
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獣の心

もうすっかり夜も更けていて、アルフラインは疲れが残る身体を早く休めたかった。


対面に座って同じ馬車で揺られているのがテレサでなければ目くらいは閉じていたかも知れない。

取り巻きのような令嬢達はいつの間にか消えていたが興味もなかった。

大事なのはこうしてテレサを付き合わせて、レナインを自由に行動させる事だ。


二人だけでカタカタと車輪の音だけが響いていた空間を、テレサの甲高い声が割った。

「お前を置いて帰ってしまう娘など何処が良いのかしら」


(俺がルーシェだけを先に返したんですよ)

瞳で投げかけた言葉を、どうやら大人しく受け取ってくれたようで心底ほっとしたのだ。


あのままエトフォールの玩具にされていたら、衝動のままにホールくらいは破壊していただろう。

あれ以上我慢するのは、アルフラインの方が難しかった。まだ苛立ちを引き摺っているくらいだ


ただ連れ回されたおかげでターンメルダで権力を持つエトフォールのお気に入りとして、この領の貴族に意識されたはずだ。

それはルーシェの存在を無視して、ないものにしたがっていたテレサにとっては面白くないのだろう。


(エトフォール兄上も何を考えているのか……あれではただの女好きだな)

コンレールよりは遥かにマシだが、その兄の腰巾着で女性との噂が耐えないという悪評の通りなのか、テレサの思惑を見事に潰している。

王后派内で統制が取れていないのは都合が良かった。


(ルーシェに触れて……次は、ないけどね)

手を掴んで、その上ダンスまで踊っていた。もう一度あれを許すつもりはなかった。


しかし、ここまで耐えているのに妹のリムには会えずじまいで、流石にテレサの態度には呆れてくる。

「姉上はリムをどうするつもりなんですか」

「どうですって!? 今まで通りよ。あいつは私が活かしてあげているのよ」


テレサが婚姻する際、王宮で暮らしていたリムはテレサに付き添ってバルバラッサ邸に移り住んでいる。

本人強っての希望だったというが、齢7歳で後ろ盾もなかった妹の頼る先が、他になかったのは想像に難くない。


「……12歳になったら夜会にも参加出来る。月夜はどうするおつもりですか?」

「リムは夜は部屋から出さないわ。…………あんな化け物。夜は特に化け物なのよ。冗談じゃないわ。12歳になったらすぐ……」

激昂して口に出してしまった内容にはっとして、バツが悪そうに舌打ちをする。


「……昔にそっくりですね。俺にも化け物と罵っていたのを覚えていますか? そんな俺に媚びを売って令嬢を宛てがうのはさぞ苦痛でしょうに」

非難の匂いをたっぷり含ませて笑いかけると、露骨に目を逸らされる。

いっそ、それなら化け物と呼ばれずに済むと、この緑の瞳に憧れた時もあった。


「お、お前は片方だけでしょう。リムは二つ共なのよ。気味が悪いわ。さすが化け物から産まれただけはあるわよね」

自分の親までを化け物という。当時は聞きたくないので耳を塞いでいた。今はただ哀れな人だと感じるだけだ。

むしろ心が壊れそうで逃げ出した姉の前でも余裕を持って笑う事が出来る。


「姉上。……姉上も同じ母親から産まれたんですよ」

「っ。私は違うわ!! 私はお父様の尊い血しか引き継がなかったもの!! あんな化け物の娘じゃないわ」


人狼(ウェアウルフ)½(ハーフ)である母のリリティアに望まれていたのは強い魔力を持つ子供だった。

魔導具が生活の基盤になっているシンダルム王国の、魔力に対する称賛と渇望は凄まじい。

ルーシェが持つ治癒能力など一生監禁されかねない程危ない力で、王家の血脈も力の強い魔導士が始祖となっているくらいだ。


だがリリティアの第1子として誕生したテレサは国王に生き写しのような子供だった。

産まれながら周囲の期待に添えず、母親を異人種の化け物と否定するしかなかった姉には僅かな同情もする。


(この分だとリムに対する態度も、そう変わらないのだろうな……)

だがその歪みをぶつけられる妹に何の罪もないのだ。


リムにはレナインやサイフォスのように庇ってくれる存在も乏しい。

アルフラインがメザホルンに引き摺ったせいで、テレサの歪みを一身に受けて育った妹の状況を考えれば、兄弟の情が薄くても多少の我慢は効いた。

リリティアを慕っていたレナインからすれば尚更だろう。


(……化け物か。ルーシェはどんな反応をするのかな)

別れ際にアルフラインを一瞬だけ写した澄んだ瞳に、本当の姿を曝け出すなど。怖くて出来ないくせにと、酷薄な笑みを履く。


ルーシェにだけは、少しも嫌われたくない。

呪われたような血の証など決して彼女には見せたくなかった。

今のアルフラインにとって、ルーシェを失う以上の恐怖はなかった。


たとえアルフラインの中に巣食う本性が、テレサの言うように彼女の愛を貪る獣だったとしても。

それを完璧に隠し通して、彼女の側に居続ける。


かつては怯えていた醜い言葉を呟き続ける姉を前にしても、だからか何の感情も湧いてこないのだった。




何度か書き直しました。

結構苦労して書いた内容です。

ダンスを踊れなかったことは根に持っています。

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