お礼
「ここまで乗せてくれてありがとうございました」
王都の目の前。入場待ちの列に差し掛かる少し前でマーオは馬車から降りると乗せてもらったことに深々と頭を下げてお礼を言った。
「いえ、こちらこそ助けていただきありがとうございました。本来ならすぐお礼をしたいところなのですが何分今は急がねばならないので……」
マルクは馬車から降りることは騎士によって止められたため馬車の窓からマーオを見送ろうと顔だけをだして言った。
「そんなのいいですよ~。困った時は助け合うのが当たり前なんですから」
困ったように話すマルクにマーオは笑って気にするなと言うと愛馬に跨った。
「いえ。やはりすぐには無理ですが落ち着いたらお礼をさせて下さい。それに婚約者の人が何処にいるのか知らないのなら少しお時間をいただければ調べますよ」
思案顔の後、マルクが申し出るがマーオは緩く首を振りそれを断る。
「マルク君は気にしすぎですね~。お礼はここまで馬車に乗せてくれたことで十分です。馬車なんて初めて乗ったからいいお土産話が出来ましたし。それに人探しはこの子たちが得意なんです。連れてってくれるって言ってますから気にしないでくださいね。ではマルク君も大変だとは思うけどお互い頑張りましょう~!!」
日が傾き始め、早く入場の列に並ばなければと焦ったマーオはそれだけ言うと馬を走らせた。もう会う事はないだろう少年に一度振り返り、大きく手を振ると後は前を向いて馬を走らせた。
マルクはその後ろ姿をしばらく見ていたが、マーオが列の中に紛れたのを見届けると馬車の中に戻り出発の合図をだした。
「精霊を連れてる女性、か。噂に聞く勇者殿も精霊を連れていると聞いたが何の関係もなければいいのだが……」
揺られる馬車の中考えるのは、隣国に留学させられている間に急遽持ち上がった『勇者』の話。
期限がまだ残っていたが、嫌な予感がしたマルクは気にすることなく帰国の途に就いた。だがまるでそれさえも予測していたかのように襲ってきたのが森の奥深くにしか生息していないワールドウルフの群れだった。
森の奥ならまだしも森から出た道で群れで襲われたことにマルクは予感が確信に変わるのを感じた。
自分のことを快く思っていない父の第一夫人と自分にとって異母姉である娘の計略を。
今までも何度となく母と共に命を狙われてきたが、あと少しで成人を迎えることに焦りを感じて命を狙いそれと一緒に何かを企んでいるだろう、と。
そこまで考えてマルクはまったくいい迷惑だと思った。たまたま父の数いる夫人が生んだ子供の中、ただ一人の男児として生まれたというだけで命を狙われるのだ。生まれた時から幾度となく襲われてきたとはいえなれることはない。
今回の奇襲もマーオが通りかからなければ無事では済まなかっただろうと、今更ながら実感をして深くため息をついた。
「馬鹿なことを仕出かしてなければいいんですがね……」
走る馬車の中、流れる景色を見つめ最後にもう一度ため息をつくとこれからのことを考えマルクは気を引き締め前を見つめた。