とはさんの絵心教室その4 ~あの物語を描いてみよう~
ある日のお昼休みのこと。
美味しくご飯を食べ終えた私は、久しぶりに絵心を発動させることにしました。
はい、ここでルール再確認ですね。
1.私が資料ノールックで何かを描く。
2.それを同僚たちが見てツッコミを入れる。
実に簡単なルールです。
以前は東京オリンピックの影響で、スポーツ競技でしたね。
今回は趣向を変えて、何か物語のイラストを描いてみることにしましょう。
答える側もマニアックだと大変だから、やはりポピュラーなものがいいかな?
しばし考え、私はペンをさらさらと動かしていきます。
そうして完成したのがこちら!
はい! あの有名な童話というかミュージカル映画を描いてみましたよ。
毎回、同僚らが個性的な着眼点で攻めてくるので、こちらも予防策としてヒントも合わせて描いておきました。
先手を打ったことで、「ぐぬぬ」と唸る彼女たちの姿が目に浮かびますね。
そんないじらしさと切なさと心もとなさを抱え、私は彼女らの前へ立ちます。
とは「有名なお話のイラストを描きました! 当ててみてくださいな」
嬉しそうに絵をのぞき込み、最初に口を開いたのはフユミでした。
フユミ「ちび○子ちゃんのお姉ちゃんが主役の劇の発表会!」
とは「違うよ! 何か似ちゃったのはまじゴメンだけど違うよ!」
初めのフユミの一撃に耐えた私に、イチカからの攻撃がやってきます。
イチカ「お姉ちゃんすごいね。狐を飼ってるなんて」
とは「いや、それトトっていう犬…。一般家庭で飼うのって、狐か犬かって言ったら犬でしょうに。可愛い小型犬だよ!」
イチカ「その理論でいけば、主人公が一番でかいんだけど? つまりは巨人の話?」
とは「……ぐぬぬ、そこもまたすまぬ。見逃してくれ!」
よもや自分が、いの一番にぐぬぬと言ってしまうとは。
そんな屈辱に耐える私へ、フユミが左下のヒントのイラストを指さしながら聞いてきます。
フユミ「ところでこのキノコが描かれた下は、何を失敗してぐるぐるに消したの? とはの恥ずかしい過去?」
とは「失礼がすぎるな。今この瞬間に言われているこの事実が、恥ずかしい過去になっていくよ。『たつまき』ってちゃんと書いたじゃん」
私の言葉にイチカがうんうんと頷いています。
イチカ「そうだよ、キノコは悲鳴あげないものね。というわけで、これイカでしょ?」
イチカさん、イカも悲鳴をあげません。
――このままでは、らちが明かない。
そう判断した私は、スペシャルヒントを出すことにしました。
とは「あぁ! もうすっごいヒント出すからね! 『○○の魔法使い』っていうタイトルですよ! 昔から子供たちになじんできた話だよ。たつまきで家が飛ばされてスタートする話ね!」
イチカ「昔からかぁ。私ってばワンピース世代だからわかるかなぁ?」
とは「あなた、私と同じ昭和生まれですよね? ……まぁ語るのは自由なので、これ以上のコメントは差し控えておきますけど」
そんな中で、イチカがポンと手を叩き、嬉しそうに答えてきます。
イチカ「魔法使い。……つまりはサリー!」
とは「違います。っていうか、それが答えなら『サリーの魔法使い』になるじゃん。しかも、たつまきはどこにいったんだよ」
イチカ「あ、そっか。じゃあ、……たつまきのサリー?」
とは「なんですか、その昭和のヤンキーの二つ名みたいな呼び方は」
すると、今まで黙って聞いていたフユミがぽつりと呟きました。
フユミ「イチカちゃん、ワンピース世代のはずなのに、……昭和感、溢れすぎてますぜ」
イチカ・とは「……あ」
イチカさん、固まってますね。
それを見てニヤリと笑うフユミ。
前回の雷での件のリベンジ。
それが果たされた瞬間を、私は見届けることとなりました。
ぐぬぬとなっているイチカを見て、とはは思います。
――弊社、ぐぬぬ感も昭和感もばっちりのようです。




