第4章 縁 ―2―
家屋を出たファーンは、浅い呼吸を繰り返しながら空を仰いだ。一刻も早く、邪黒の気配を探りたかったのだ。
しかし、軒が邪魔をして、遠くまで見ることができなかった。
ファーンは駆け出したい衝動を堪え、海に向かって一歩を踏み出した。砂に足を取られぬように、足元を確かめながら行かねばならないのがもどかしかった。
柔らかな砂地に入ると尚更で、剣も杖としては使いづらくなってきていた。否応なく、身体を人族の小娘に預けねばならぬのが恨めしい。
怨み言は尽きなかったが、唯一、救いと思えるのは、小娘が沈黙を守り続けている、という事だった。
ファーンは故意に彼女の自尊心を傷付けた。結果、思惑通り不機嫌になり、しゃべるのをやめてくれたのだが、あまり長くはもたなかった。
「……なぁ」
黙れ、と言っても彼女には効果がないだろう。威圧してみても、彼女はものともしなかった。加えて、世話好きらしいから、性質が悪い。
「なぁってば。あんた、聞こえてんだろ? 返事くらいできねぇのか」
ファーンは項垂れて、足を止めた。
「……何だ」
そこから先は、なだらかな下り斜面が広がっていた。波の音が近くなり、風に乗った潮の香りも濃く届く。
ファーンは、開けた空にそれとなく目を向けた。
「あんたの、この腕……、疫病じゃぁないよな」
疎ましげに左を向くと、無理に取り繕った笑みがあった。不機嫌を装うべきだが、話題が話題なだけに友好的に訊き出したい、といった感じの表情だ。
「だとしたら、どうする」
流れる白金の髪の隙間から、一瞬怯んだモアナを見た。その隙を衝いて、ファーンは彼女から離れた。
そして、意地悪く笑んだ後、突き立てた剣に縋るようにしてゆっくりと膝を折った。気力を緩めると、どっと疲労感が増す気がした。気付けば、首筋にまで汗が伝っている。
「お、おいっ。あんた、大丈夫か?」
肩を大きく上下させていると、モアナが手を伸ばしてきた。
その瞬間、モアナの喉元に向かって、白銀の光が閃いた。鞘から抜き放った刀身の煌めきだった。
細身の刃の切っ先は、モアナが半歩でも踏み出せば喉を貫く位置にあった。生唾を飲み込むのが分かる程の間隔だ。
ファーンは乱れた呼吸のまま、殺気がこもる鋭く冷たい視線を彼女に向けた。彼女もまた、額に汗を浮かべていたが、疲労からくるものだけではない筈だ。全身は硬直し、表情も強張り、引き攣ったように息をしている。
「ここまでで良い。私に貢献できたことを誇りとせよ。それを特別に許そう」
言って、ファーンは刀身を鞘に収めた。
モアナは震える指先を喉元に寄せ、傷の具合を確かめた。暫くして、胸に溜まった恐怖を安堵の溜息とともに吐き出す。
ファーンは、彼女の様子を気にすることなく空を仰いだ。
一陣の風が吹き抜ける。清々しかった。辺りに漂う水の気配も大陸には無い清らかさがあり、うっとりとせずにはいられない。水に浸からずともそれだけで、生き返った心地がする。
それに酔いしれた後、ファーンは、一度 深呼吸をしてから、大気を読み始めた。目を凝らし、邪黒の残光を探る。銀色に輝く淡い青。時折、薄紫の色を含んで美しく輝く光。それが、邪黒の気配であり、鼓動である。
流れる雲の端や遥か彼方に煌めく水平線。その端々に意識を集中させ、蜘蛛の糸の如くたゆたう光を見出そうとした。
しかし、幾ら探せど、澄み渡った空には何の痕跡も見当たらなかった。
「……やはり無理か」
小さく呟き、片膝をついたまま、手元の一点を見詰める。
絶望するには、まだ早い。天上より大樹の内へと降臨したばかりの頃を思えば、随分 距離は縮まった。手が届かぬわけではないのだ。そう言い聞かせながら、薄く眼を開いたまま、己の内へと意識を向けた。
しだいに音が遠のき、未だに去ろうとしない怒りを露わにしだしたモアナが遠のくように感じられた。視界が、水底にあるようにゆらゆらと揺らめく。眩暈にも似た感覚に耐えていると、透明な水が足元からせりあがってくるのが分かった。その感覚は留まることを知らず、周囲に拡大していった。空気と同じに明るく澄んだ水で、鞘に反射した光が波打って見える。透明な水が躍る中では、かすかに届く風の音やモアナの声も質を変えた。厚い壁越しに雑踏の賑わいを聞くような、囁きにも似た無数の呟きとなったのだ。甲高い下卑た笑い声やしゃがれた怒鳴り声が、時折、唐突に混じる。
ファーンは顔を伏せ気味にしたまま、半開きにしていた瞼を上げた。
止めていた息を静かに吐き出す。溺れまいとして思わずそうしてしまったのだが、吐き出して見れば、呼吸は楽にできる。当然だと失笑しながら立ち上がると、わずかな浮力と水圧を感じた。ほんのりと温かい水から受ける微かな圧力は心地良かった。髪や服の裾が水の流れに乗ってゆうらりとなびく。
まるで、羊水に満たされた胎内にいるかのような不思議な空間。ここは、ファーンの深層意識の、更に奥底にある場所だった。天上の大樹の内に存在していても大樹の干渉は受けず、また干渉することもできない隔離された空間である。
故に、大樹の世界の時間から切り離されおり、全ての動きが止まってみえる。雲や鳥、風にたなびく草木の葉先や波頭が弾ける水滴の一粒さえもが静止していた。
辺りを見渡していたファーンは、強大な魔力の出現を感じ取り、その方向を見た。
そこには、一体の巨大な獣神の姿があった。猪に似ているが、突き出した牙は左右に二本。山羊の眼球のような目も、牙と同じだけある。体毛は薄く、鈍色の肌は淡く輝いていた。
「儂のような古株を掘り起こされるとは……」
艶のない枯れた声色で、獣神が言った。
ファーンが手を伸ばすと、獣神自らが近付いてきた。
「久しいな、砂と鉄の魔獣一族の長・獣神イルヴリュートよ」
イルヴリュートと呼ばれた戦神 カダモスを眷属とする中級位の獣神は、蜂蜜色の双眸を伏せながら叩頭した。その鼻筋にファーンが右手を添えると、金色の稲穂が風に揺れるように淡い光が波打った。
「お久しゅう。若様」
ファーンが手を放すのを待ってから、数歩下がってイルヴリュートは言った。そして、彫像の如く瞬きすらしないモアナに一瞥をくれ、主を見た。
「何やら下々のモノ達が騒いでいるようでしたが……。人族に懐柔されましたか」
「愚問だな。懐柔されもしなければ、したわけでもない」
「では、そのお姿は?」
イルヴリュートがわずかに首を傾げて、全身を眺めてくる。ファーンは予想していたイルヴリュートの問いに、溜息をつきながら答えた。
「この化身は本意ではない。合理的に事を進める為、やむを得ず一時的にとった姿だ」
効率よく邪黒の足取りを追うには、気配を辿るだけでは不十分で、より多くの情報を収集する必要があった。それには、情報源となる種族と同じ姿をしたほうがやりやすかった。獣や魔獣の姿をとった時もある。人族が居るところでは、やはり人族の姿の方が何かと都合が良い。
「……傷も癒えてはおらぬというのに。何をされておいでなのです」
ファーンの眉根がかすかに動き、眦には険が宿った。口を引き結び、イルヴリュートの視線を避けるように顔をそむける。非難めいているような気がしてならず、苛立ったのだ。
けれど、一旦 目を閉じて心を落ち着かせれば、我が身を案じていると分かる。ざわついた怒りを抑え、ファーンはイルヴリュートを見詰めた。
イルヴリュートもまた、主を見詰め続けている。
「一切、他言せぬと誓え」
静かだが、重く響く一言だった。
イルヴリュートは、主の眼の奥底に宿った鋭い光を感じて、一度だけゆっくりと瞬きをした。そして、巨大な鼻を地につけ、もごもごと口の端を動かして何かを呟いた。辺りを満たした水が、一瞬 揺れる。
それが合図であったのか、所々から流れて来ていたざわめきが すうっと小さくなり、耳鳴りがするほどの静寂が訪れた。
ファーンは、思わず顔を綻ばせた。イルヴリュートのさりげない配慮が嬉しかった。こんな深い静寂は久しぶりで、心に纏った殻が剥がれたような気持ちになったのだ。
「皆を遠ざけました。さあ、お教えいただけますかな」
ファーンは前髪を掻き上げながら表情を消し、伏し目がちになって言った。
「……我が半身を捜すべく、奴の痕跡……遺産を追っているのだ」
「半身様を? それは禁じられておられるはずでは?」
「そうだ。神々は一切の関わりを絶てと申された。だが、目覚めた瞬間に私は感じてしまったのだ、奴の気配を……」
「感じたからには連れ戻さずにはいられぬと?」
間、髪を入れず、ファーンは強く頷いた。
イルヴリュートがファーンの意志の強さを悟って、低く唸る。
「知れれば神々のお怒りに触れましょうぞ」
イルヴリュートは、無意識に周囲を憚るように声を落とした。
「神々は未だ深き眠りの淵に在る。今のうちに奴を連れ戻し、私が奴を生かす道を作る。その為に、お前の魔力と知恵を借りたいのだ」
ファーンは拳を握り、イルヴリュートの向こう側に神々の姿を思い浮かべて言った。
それから、随分と長い沈黙があって、イルヴリュートが溜息を吐いた。
「早計な気がしないわけでもありませんが、若様のお気持ちも分からなくもありませぬ」
言葉を区切り、少しの間をおいてイルヴリュートは続けた。
「いた仕方ありませんな。すでに儂は若様のもの。ご自由になさるがよろしい」
ファーンは頬を緩め、イルヴリュートを手招いた。イルヴリュートの眉間を撫で、樹の幹を抱くように頬を寄せた。
「巻き込んでしまって、すまんな」
イルヴリュートがゆっくりと首を横に振る。
そして、鼻先を突出し、ファーンに離れるよう促すと、四肢を折って地に伏せた。
ファーンは右手を突き出した。人差し指と中指をぴんと伸ばし、二本の指の腹をイルヴリュートの額にかざす。
「我が名を以って、汝を我が従神とする」
ファーンの紫眼が光輝いた。指先からは砂金のような金色の燐光が溢れ、指先を動かすとイルヴリュートの頭上に文字が浮かび上がった。
金の文字は、やはり細かな光を放ち、揺らめきもせずイルヴリュートの額へと近付いてゆく。
イルヴリュートは目を伏せて、光の文字を受け入れる準備をした。
それを察して、ファーンが指先で横一線を描く。
すると、浮かんでいた文字は、吸い込まれるようにイルヴリュートの体内へと消えていった。暫くした後、額に文字が浮かび上がる。
イルヴリュートは、カッと目を見開いた。産毛までもがざわざわと総毛立ち、抑えきれないほどの身震いが起こった。雷に打たれたような感覚だった。
ファーンの指先が光を失うと、イルヴリュートに起こった異変はしだいに収まっていった。金色の文字も墨色になり、やがては霞んで消えた。従者としての契約が成された証拠だった。
イルヴリュートは立ち上がり、改めて叩頭した。
「光栄に存じます、若様」
ファーンは、笑みを浮かべて頷いた。そして、イルヴリュートを見詰めながら後ずさり、ゆっくりと右手を上げた。
「まずは私の器を海へ運んでくれるか。お前ならば、この程度の距離、雑作ないだろう」
「仰せのままに」
イルヴリュートの返事を聞き、ファーンは右手を振り降ろした。
閃光が目の前をよぎり、次の瞬間には辺りを満たしていた水が消え去った。南国特有の熱気と、滝に打たれるかのような重力がどっと身体にのしかかる。先程とはうってかわった喧噪が耳朶を打ち、頭蓋に響く。それに追い打ちをかけたのは、モアナの怒声だ。
「なして、あんな危ねぇ事するんだ。あたいが何したっていうんだ !」
剣に縋るように座り込んだ姿勢に戻っていたファーンは、うんざりだと言わんばかりに息を吐いた。
見ると、モアナは顔を真っ赤にし、口角を震わせながら、目の端に涙を浮かべていた。
ファーンは渾身の力をこめて立ち上がった。軽い眩暈を覚えて、剣を頼りに身体を支える。眩暈が治まると、イルヴリュートの気配を探った。イルヴリュートの居場所は、すぐに掴むことができた。モアナの後方、彼女からは死角になる場所だった。
立て続けにがなり立てるモアナに湧き上がってくる苛立ちを堪えつつ、ファーンはイルヴリュートが姿を現すのを待った。
地を這うように茂る小さな草むらの端の砂地が、もこりと盛り上がった。土竜か蛇かが顔を出すのではないかと思うほどの大きさだった。
小さな砂山はモアナの動きを警戒するように、時折 大きくするのを止めた。
そして、モアナが怒りのあまりファーンに詰め寄ろうとしたその時、砂山は崩れ、一匹の猿が吐き出されるように出てきた。掌に乗るくらいの小さな猿だった。
猿は、姿を見せたと同時に、ふさふさの白い毛と長い尾をなびかせながら、鼠が駆けるよりも素早くモアナ目がけて走り出した。蹴り上げた砂が舞い落ちるよりも早く、次の一歩を繰り出し、瞬く間にモアナの背後に近付く。
ファーンは、モアナの怒りを適当に受け流しながら、彼女の気を逸らした。
モアナが踏み出したのと、猿が飛び上がったのは、ほぼ同じ時機。猿がモアナの背に張り付く。
モアナは石つぶてを当てられた気がして、怒りに拍車がかかった。誰だと怒鳴りながら振り向くが、突然 目の前が真っ白になる。
ぐにゃりと傾いだモアナの身体を足場にして、猿はもう一度飛び上がった。ファーンの肩に止まり、すぐさま滑り降りる。砂地に降りた猿は、とことこ歩いてファーンから離れると、くるりと身を返してちょこんと頭を下げた。
ファーンは目を細め、かすかに笑い声を上げた。
「無茶をする。人に触れれば、病むというのに……」
猿の身体が見る間に乾き、砂の像に代わった。頭頂部の表層から、さらさらと崩れ始める。胸元まで崩れると、砂の像の輪郭は一気に失い、辺りに散った。代わりに、ファーンの足元をも巻き込んで、更に巨大な山が現れた。
盛り上がるにつれ、ファーンは剣を帯に差し込み、腰を落とした。そうするようイルヴリュートに促されたのだ。
砂が流れ落ち、先刻の空間で見たイルヴリュートの背が剥き出しになった。ファーンは、横座りに近い格好でイルヴリュートの背に跨っていた。滑らぬよう上体を伏せ、イルヴリュートにしがみ付く。
「匂いで分かります。この小娘、神名を持つ者ですな」
倒れたモアナをちらりと見て、イルヴリュートが言った。
ファーンは思わず、ほぅっと感嘆の息を漏らした。
「流石だな。私は、すぐにそれとは分からなかった」
イルヴリュートが笑う。
「若様より永き時間を生かされておりますゆえ、自然と身に付く知識でございます。とはいえ、この儂でも、目にするのは二度目。特に詳しいというわけではございません」
それにしても、と言いながら、イルヴリュートは鼻先でモアナを仰向けにした。モアナの顔色は真っ青で、眉間に深い皺を刻んだまま意識を失っていた。
「小うるさい娘でしたな」
「殺してしまったのか」
ファーンが問うと、イルヴリュートは大仰に驚いた素振りを見せ、首を振った。
「殺すわけがございません。人族とはいえ現在の若様には、必要な物でございます。少しばかり血の巡りを変え、気絶させました。口が過ぎました故、身の程をわきまえさせただけでございます」
ファーンは無意識に胸を撫で下ろした。それに気付くと、内心で眉を顰めた。何故、安堵したのか、分からなかったのだ。神名を持つ者を失わずにすんだからなのか、モアナの命が救われたことに対してなのか……。
ファーンは、一瞬戸惑った己と共に、後者を否定した。不遜で、差し出がましく、無知な存在に情など湧く筈がない。こいつを生かしているのは、神名を持つ者だからだと、言い聞かせた。だからこそ、数々の目に余る無礼を赦してやったのだと。
「イルヴリュート。お前は、神名を持つ者に会ったのは二度目と言ったな」
イルヴリュートは海に向かって歩き出していた。
揺れる背の上から覗き込むと、イルヴリュートは目を瞬かせ、眼球だけを動かしてこちらを見ようとしていた。
「左様にございますが……」
「ならば、神名を持つ者を我が力とする術も得ているか?」
「はい。全てではありませんが、いくつかは」
ファーンは目を見開いて、問い返した。
「いくつか?」
「何故、神名を持って生まれるかは未だ定かではありませんが、その者は我らにとって至宝の存在。利用価値は高く、方法も何通りかございます。人族にとっては唯一の誇りと言えましょう」
斜面を下り、視界に海が迫った。
「兎にも角にも、小娘の事は儂にお預けになり、今は御身を大切になさいませ。ひどく疲れておいでのようですから」
主を気遣う色を濃くして、イルヴリュートは波打ち際に立った。波が打ち寄せる度、白く粟立った海水が足元の砂をさらってゆく。
イルヴリュートは四肢を曲げ、ファーンが降りやすいようにできるだけ身体を低くした。しかし、それよりも早く、濡れた部分から砂へと変わり、徐々に海の中に流されていった。ファーンが滑り下りる頃には、大きな一塊さえも流され、ファーンの身体は自然に海の中に浸された。
脛まで海水に浸かったファーンは膝を折り、波を受け入れるように両手を広げた。水は冷たかったが、陽射しと疲労によって火照った身体には心地良かった。掌ですくった海水を胸へと浴びせる。
「若様」
呼ばれてファーンは振り向いた。
猪に似た姿から小猿の形へと変えたイルヴリュートが、波打ち際で両手を差し出している。剣を渡せと言っているのだ。
意を察して、ファーンは腰から剣を外し、イルヴリュートに向かって放り投げた。
白い細身の剣は、鞘を纏ったまま回転しながら宙を舞った。それを目で追うイルヴリュートが落下地点を予測して、ちょこまかと動き回る。
頭上を楽々と横切る主の剣。イルヴリュートは追いつけないと判断するや、両手を地に付け、砂を自在に操った。気まぐれで猿を真似てみたが、砂そのものが己が一部とするイルヴリュートにとっては容易な事だった。
浜辺から伸ばした砂を布状に広げ、砂に紛れる砂鉄を束ねて剣を絡め取る。そして、そのまま呑み込んで、砂地の奥深くへと隠してしまった。
全てを見届けたファーンは微笑し、海原へと顔を向けた。更なる深みを目指して、膝頭を巡らせる。
「若様。小娘の様子を見て参りとうございます。お許しいただけますでしょうか」
再び聞こえたイルヴリュートの請う声に、ファーンは振り向いた。頷いてやると、イルヴリュートが飛び跳ね、着地と同時に砂へと還ったのが見えた。
化身を解き、姿を消しても、イルヴリュートの気配は消えなかった。砂は海中にも漂っているからだ。イルヴリュートならば、この浜の全ての砂を操るだけの魔力はある。
ファーンは海底の砂をすくい、海面ぎりぎりの位置まで掲げて、流れゆく様を眺めた。掌から砂が消え去ると、片膝を立てた格好で腰を下ろし、双眸を伏せた。そうすると、波が引く度、穢れも払拭されていく気がして、安らかな気分になるのだった。
こんばんは。
やっとで更新の第4章2節です。
更新予定日から、またもや遅れてしまいましたことを、お詫びいたします。
お待ちいただいている方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありませんでした。
そして、ここまで お読みいただき、誠にありがとうございました。
不定期更新に近くなっておりますが、必ず、完結させていただきますので、どうか今後とも何卒よろしくお願い致します。
次回は、年内をめどに、更新できれば……と思っております。
遅くとも、1月中旬には更新できるよう、努めます。
それでは、皆様。寒い日が続いております。風邪などにお気をつけて、ご自愛ください。
陸王壱式




