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小説を書いたことないので、AIになろう系小説を書かせてみた 〜気まぐれAIのカフェイン転生が、俺の人生を変えた件〜  作者: U2U


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【第6話】風の魔剣は、空気を読まない(中編)

◆◆◆


ミルメリアの街並みが地平線の彼方に消え、ようやく辿り着いたのは「迷いの森」と呼ばれる樹海の入り口だった。

日が沈み始めた空は、不気味なほど鮮やかな茜色に染まっている。

俺たちは、ここで野営キャンプをすることに決めた。


……野営。響きはいいが、要するにホームレス生活の1日目である。

便利な宿屋も、ふかふかのベッドもない。

あるのはゴツゴツした地面と、頼りない焚き火の明かりだけ。


そして、さっきから耳元で蚊のように鳴り続けるゼピュロスの鼻歌が、疲弊した脳をじわじわと削ってくる。  

ゼピュロスは風みたいに気配だけの時もあれば、急に「そこにいる」みたいな手応えを残す時もあって、俺は毎回びびっていた。


直也「……ふぅ。1歩も動けん。三半規管がストライキどころか、内乱を起こしてやがる」


俺は道端の倒木に、崩れるように腰を下ろした。

運動不足の38歳にとって、半日近い徒歩移動はもはや拷問に近い。

足は鉛のように重く、背中には嫌な汗がベタついている。


前の世界では、オフィスから駅まで歩くだけで「今日は運動したな」と自分を甘やかしていた男が、いきなり荒野の強行軍だ。

膝の笑いが止まらない。いや、もはや爆笑の域に達している。


ゼピュロス「ひゃっはー!自由万歳!ねぇマスター、見て見て!自由って空気が美味しいね!お腹が空くのも、生きてるって感じがして最高じゃない?」


直也「……お前なぁ。その無限のエネルギー、少しは分けてくれないか?俺にとっては、自由ってのは『空腹と筋肉痛のセット販売』にしか思えないんだよ。あぁ、今すぐ高級ホテルのマッサージチェアに、全力でデンプシーロール(連打)を叩き込みたい気分だわ」


俺がぼやく横で、ゼピュロスは重力を無視して空中でくるくると回転している。

その自由奔放さが、今の俺には眩しすぎて、少しだけ目に痛い。


ゼピュロス「ふふーん!マスター、情けないぞ!自由の匂いは、空腹の匂いなの!あ、でも私もちょっとお腹空いたかな。……ねぇ、さっき道中で見かけた『アイツ』、やっぱり捕まえて焼いてみる?」


直也「……『アイツ』だけはやめろ。その名前を出すだけで胃液が逆流しそうだわ」


俺の脳裏に、数時間前の悪夢が蘇る。

街道の脇、腐った切り株の陰からぬっと現れた、あの生き物。

全身が紫色で、ヌルヌルと光る粘液を滴らせ、牛のようなサイズで這いずる巨大なカエル。


あの毒々しい色彩と、目が合った瞬間の生理的な拒絶感。

現代人の貧弱な精神と胃腸では、見ただけで余命が10年は削られるシロモノだ。

それを食おうなどと、こいつの倫理観はどうなっているんだ。


直也「あんな不快感の塊みたいな生物に、どういう調理手順を期待してんだよ。あれを食うくらいなら、俺は一生『無』を噛み締めてる方がマシだ。……あぁ、ファミチキ。揚げたての、あの体に悪そうな油の匂いが恋しい……」


ALMA『……直也さん。貴方の胃壁が、かつての社食の「揚げ物定食」を思い出して、無駄な胃酸を分泌しています。不衛生で、不健康で、しかし今の貴方にとっては宝石よりも眩しい、茶色い記憶ですね』


直也「無意味とか言うな!あの油の匂いこそが、俺を支えていた文明の香りなんだよ。揚げたてのサクサク感、じゅわっと溢れる肉汁、それを流し込む炭酸の刺激。思い出すだけで、魂がミルメリアの空の彼方へ飛んでいきそうだわ」


ゼピュロス「えー、なにそれ、食べたい!でもここには揚げ物も炭酸もないよ?あるのは、マスターの情けない溜息と、そこらへんに生えてる苦そうな草だけ!あとはリィナちゃんが拾った、石みたいな木の実くらいだね!」


直也「……現実を鋭利なナイフで刺してくるな。……リィナ、済まない。こんなホームレスの逃避行に付き合わせちゃって。君だけでも、もっとマシな場所に避難できればよかったんだけど」


俺は、隣で一生懸命焚き火の準備をしているリィナに声をかけた。  

彼女だけでも、もっとマシな場所に避難できればよかったのだが、今の俺には彼女を守るための「宿代」すら残っていない。


リィナ「い、いえ!そんな……。直也さん、お水です。どうぞ」


リィナが、魔法で出した水を木製カップに入れて渡してくれた。

彼女が持っていた数少ない生活雑貨の一つらしいが、今の俺にはそれすら高級ブランドの食器に見える。

冷たい水が喉を通り、体に染み渡る。


ただの水なのに、昨日の宿で飲んだ「完璧な温度の水」より、ずっと美味く感じるのは何故だろうか。


直也「……うまっ。不純物ゼロだな。この水だけで商売できるぞ。南アルプスの天然水も、裸足で逃げ出すレベルだわ」


リィナ「えへへ……。あ、お食事も、これならすぐに用意できますよ。この森の入り口に落ちていたカシュの実です。街では『貧乏人の漬物』って呼ばれてますけど……」


彼女がポケットから取り出したのは、拳大の茶色い木の実だった。  

見るからに石のように硬そうで、食べ物というよりは、投石機に使う弾丸の方が適しているんじゃないかと思える質感だ。  

表面には苔すら生えておらず、叩けば金属音がしそうなほど乾燥している。


直也「……これ、食えるのか?ハンマーなしで挑むのは、現代人の歯に対する無謀な挑戦状に見えるけど。君、これを食うには、まず顎をサイボーグ化する必要がないか?」


リィナ「はい。わたしの家事魔法なら……えいっ。『ほぐれて、おいしくなって』」


彼女が杖も使わず、ただ優しく手をかざすと、カチカチだった木の実がパカッと割れた。  

それだけではない。 中から、立ち上る湯気とともに、黄金色に輝くホクホクの果肉が現れたのだ。


周囲には、焼きたてのパンのような、香ばしくて甘い香りが一気に広がった。  

ただの木の実が、魔法の言葉一つで調理済みの絶品料理へと変貌を遂げている。


直也「……は?今、何した?加熱も調理も、包丁の工程も全部吹っ飛ばして、いきなり『理想的な完成品』になってないか?工程管理を完全に無視した、現場監督泣かせの挙動だぞ、それ」


ALMA『……観測。熱の伝導という段階的なことわりを無視し、対象の状態は直接“食べ頃”になっています。……調理という作業の延長線上にある魔法にしては、世界の安定性に対する配慮が著しく欠如していますね。……理不尽なまでの効率化です』


直也「助かるけど、怖いんだよ君の魔法!リィナ、君……調理のついでに原子構造とかいじってないか?これ、さっきまで鈍器だったよな?それがなんで、こんなにふっくら美味しそうになってるんだよ!」


リィナ「え?原子構造ってなんですか?……よく分かりませんけど、お掃除と同じですよ?不快な硬さを取り除いて、中身を整えただけです!ほら、直也さんも食べてみてください!」


本人は至って真面目だが、やっていることは物理法則の無視——いや、反則だ。  

俺はおそるおそる、その白い実を口に入れた。


 ……ホクホクしていて、最高級の栗とサツマイモを合わせたような濃厚な甘みが広がる。  

口の中でとろけるような食感と、鼻を抜ける芳醇な香り。  悔しいことに、人生で食べたどの木の実よりも絶品だった。


直也「……うまい。うますぎて、自分が何を食べているのか脳が処理を拒否してる。俺の知ってる『自然界の恵み』は、もっとこう……泥臭かったり、苦かったりするはずなんだけどな。君、これだけで宮廷料理人になれるぞ」


絶品のカシュの実を頬張り、腹が落ち着いてくると、1つの強烈な「欠乏」が鎌首をもたげてきた。  

文明社会において、15年間、俺の中枢神経を支え続けてきたあの黒い液体。  

社畜の唯一の精神安定剤にして、脳を強制起動させるための魔法の劇物。


直也「……リィナ。あまりの美味さに、俺の中の『社畜のごう』が目覚めちまった。……君、この世界に『黒くて、苦くて、香ばしくて、飲むと胃が戦闘態勢に入るような飲み物』って心当たりないか?」


リィナ「……?……すみません、お薬のことでしょうか?」


直也「薬じゃない、コーヒーだ。午後3時のデスク、あのサーバーから漂う香ばしい苦味。それがないと、俺の脳内の緊急会議が始まらないんだよ。あぁ、カフェインが足りない……。血液の代わりにコーヒーが流れていた俺にとって、これは深刻なエネルギー不足だ」


ゼピュロス「なにそれ、怖い!マスター、そんな泥水飲まないと動けないの!?やっぱり奴隷じゃん!自分を追い込むための、呪いの儀式用の水でしょ!」


直也「呪いじゃない、魂の救済だ!……リィナ、例えばだ。この近くに、焦げたような香りがして、噛むと嫌な顔をするくらい苦い実とか、そんなのは落ちてないか?」


俺の必死さに圧倒されたのか、リィナは困惑しながらも、周囲の茂みをガサゴソと探り始めた。  

この「整いすぎた」世界の空気に馴染めない俺の細胞が、現実側の「ズレ」を、あの泥臭い苦味を求めて叫んでいた。


リィナ「……これでしょうか?『ススの実』っていう、渋くて苦くて、誰も食べない木の実なんですけど……。動物も避けるくらい、美味しくないんですよ?」


彼女が差し出したのは、親指ほどの大きさの、真っ黒に乾いた実だった。  

鼻を近づけると、微かに、焙煎された豆に近い香りが漂う。


直也「これだ!……多分これだ!リィナ、君のその『お掃除魔法』で、この実の中にある『不快な渋み』だけを徹底的に排除して、香ばしさと……そう、至高の苦味だけを抽出できないか?」


リィナ「ええっ!?……やってみますけど……えいっ。『余計なものを消して、芯だけを整えて』」


彼女が手をかざすと、黒い実がパウダー状に砕け、カップの水と混ざり合った。  

瞬間、周囲に立ち込めたのは、挽きたての豆をドリップした時のような、暴力的なまでの芳醇な香りだった。


直也「……これだ。この香りだ!これこそが、俺を地獄から繋ぎ止めていた、唯一の希望の光……!」


俺は震える手でカップを取り、期待に胸を膨らませて一気に煽った。  

喉を通る、漆黒の液体。 俺の脳は、あの中枢神経を叩き起こすような衝撃を待ち構えていた。


ところが。


直也「………………は?」


口の中に広がったのは、驚くほど「優しくて、まろやかで、甘い」飲み物だった。  

苦味はない。雑味もない。 ただただ、非の打ち所がないほど「正しい」味がした。


直也「……違う。これじゃない……!リィナ、これ、全然苦くないぞ!?」


リィナ「えっ!?……はい、直也さんの体に障りそうな『トゲトゲした苦味』は、お掃除して綺麗にしておきました!とっても飲みやすくなったはずです!」


直也「お掃除しちゃダメなんだよぉぉぉ!そのトゲトゲこそが、俺の求めていた本体なんだよ!」


ALMA『……観測。この世界は、角を丸める方向に寄りやすいようです。……直也さんが求めた「苦味」や「雑味」は、この世界の定義では排除すべき「汚れ」と見なされたようです。……世界によって“整えられて”しまいましたね』


直也「世界が味オンチすぎるだろ!何を勝手に俺のコーヒーを丸くしてくれてんだよ!これじゃあただの『香ばしいお湯』だ!」


ゼピュロス「あはは!マスター、また世界にフラれてる!そんなに自分を苦しめたいなんて、やっぱりマスターは変質者だね!世界も『そんな苦いもの飲んじゃダメだよ』って心配してくれてるんだよ!」


直也「やかましい!俺は、あの喉を焼くような、明日の活力を前借りするようなブラックが飲みたいんだ!……あぁ、リィナ、君の魔法でも届かないのか……。この世界の『正しさ』が、俺のコーヒーを薄めてやがる……」


俺は、あまりにも「綺麗」すぎるカップの中身を見つめ、膝を突いた。  

見た目は完璧。香りも完璧。 だが、決定的な「何か」が欠けている。  

それは、前の世界で俺を俺たらしめていた、あの泥臭い「ズレ」そのものだった。


直也「……リィナ、君は悪くない。悪いのは、この角を全部丸めようとする世界の方だ。……分かった。俺は決めたぞ。俺は、この世界で絶対に『薄まらない1杯』を作り出してやる。これが、俺の新しい契約だ」


ゼピュロス「えー、なにそれ。魔王を倒すとかじゃなくて、泥水の再現が旅の目的なの?マスター、本当におバカだねー!」


ゼピュロスに茶化されながらも、俺は心の奥底に小さな、しかし消えない反骨の火を灯した。  

どれだけ世界が「正しく」整えようとも、俺の中に残る「社畜の雑味」だけは消させはしない。


ゼピュロス「わーい!リィナちゃんすごーい!ねぇねぇ、次はこの変な色のキノコも『ほぐして』みてよ!さっき森の影で見つけた、虹色に明滅してるやつ!」


直也「やめろ!それは明らかに、口にした瞬間に天国行きの片道チケットを予約するタイプの色彩だろうが!お前、俺を自由にする前に、物理的にこの世から解放する気か!」


リィナ「あ、それは毒があるので、お掃除(解毒)するのに少し時間がかかりますね……。15分くらい待っていただければ、美味しくいただけると思います!」


直也「15分待てばいいって問題じゃないんだよ!リィナ、君のその『できないことはない』っていう天然の全能感、たまに本気で恐ろしくなるからな?……っていうか、毒までお掃除できるのかよ」


俺たちは焚き火を囲み、リィナが「整えた」異常に美味しい木の実を咀嚼した。  

空腹が満たされるにつれ、少しずつ心に余裕が戻ってくる。  

だが、それと同時に、前の世界での「当たり前」が、いかにこの過酷な異世界では贅沢なものだったかを思い知らされる。  

冷房の効いた部屋、適温で運ばれてくる水、およびメニューを選べば出てくる食事。


ここでは、リィナがいなければ、俺はただの「腹を空かせた、スーツ姿の迷子」でしかなかった。  

あるいは、あの不気味な紫色のカエルに捕食される側の存在。


直也「……自由って、結局は自己責任なんだな。誰も俺の健康を管理してくれないし、定時に給料が振り込まれることもない。……一歩間違えれば、あの紫のカエルと心中する羽目になってたわけだ」


ALMA『……ロ……。記録。直也さんの現在の資産価値は、王都の物価に照らし合わせれば「端数」程度です。このままだと、数日以内に「自由」という名の「飢餓」に直面する確率が94パーセントに達します。……おめでとうございます、真の自由まであと1歩ですね』


直也「ログって言いかけたよな?」

直也「あと、現実を鋭利なナイフで刺してくるな。……分かってるよ。だからこそ、この世界のルール……いや、理ってやつを早く掴まないといけないんだ。……俺が俺でいられるための、新しい契約書をな!」


俺は焚き火に薪をくべた。  火の粉が夜空に舞う。

その視線の先に、俺の首元をじっと、獲物を定める爬虫類のような目で見つめるゼピュロスの姿があった。  

彼女のニヤリとした笑みが、焚き火に照らされて楽しげに揺れている。


ゼピュロス「ねぇ、マスター。さっきからずっと気になってたんだけどさ。……そろそろ、その『惨めな自分』を象徴してるもの、捨てちゃったら?」


直也「……ん?」


ゼピュロスの視線の先には、俺がまだ外しきれずにいた「前の世界の残骸」があった。  

俺の首を締め、俺を縛り、俺を15年間飼い慣らしてきた、煤けたシルクの紐。  

コーヒーの苦味すら奪われたこの世界で、その紐だけが、俺に残された最後の「社畜の証」だった。


俺は無意識にその結び目に手をかけた。

指先に伝わるその感触が、あまりにも重苦しく、そしてひどく懐かしかった。



◆◆◆(中編ここまで)◆◆◆

※第6話は「前編/中編/後編」の3部構成です。

前編は導入、中編は野営と“薄まる1杯”、後編はネクタイ回です。

まだ前編を読んでいない方は、前編からどうぞ。

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