♯48 元冒険者、再起す。 ギルド長の受難
今回は重蔵君は出ません!投稿50話目という事で、節目という程では有りませんが、閑話を挟みます。
興味のない方は次回まで、申し訳ないですが、お待ちくださいましー。
地球なら、近所に有る小さな公園程のサイズの土地に、丸太を組み合わせ、
ボロボロになったプレートメイルを装着した、人形が据えられた練武場で、
二人の男が剣を交えている。
「まだまだぁ!!」
「遅いっ!!!」
手にした両刃の剣を切り上げる青年と、細い刺突剣を操り剣筋を誘導する壮年。
体制は簡単に崩され、すれ違い様に足首を蹴られた衝撃で、青年は剣を手放し、豪快に転倒した。
二人分の熱量が満たす空間は、轟く喚声と張り詰めた緊迫感が支配していて、
まるで戦場の様な雰囲気を漂わせている。
「どうしたバル!!お前の信念とは、その程度で朽ちる物だったのか!?
お前の魂は、その程度で折れてしまう程度の物だったのか!!!」
弾き落とされた剣を再び手にする為、相手の振るう横薙ぎの剣閃を飛びこむように回避し、間合いを重ねるバルと呼ばれた青年は、己が背を掠める硬質な一撃に、背筋を凍らせる。
「いいえ‥‥、いいえ!まだ私の心は折れていません!」
自身の愛剣を手にした青年は、走る痛みを押し潰し、震える体を叩き伏せ、
師匠の問いに、大声で応えた。
▼ロ・ルゴナ大陸 セルバ王国領 剣聖の館
朝早くから始まった、真剣を使った修練を中断し、昼食を摂る二人の男性。
嘗て、大国間で起きた戦乱の際、敵軍の指揮官を幾人も打倒しこの地に平和を齎した、剣聖テヘラフェルト・アーズナー。
嘗てセルバ王国で国王の近衛、騎士団長を務めていた彼は、現在その職を引退し、現役の時分と比べて、かなり平穏な日々を送っていた。
そして、或る日、彼の下を訪れた。アーズナー最後の弟子であり、英雄級の称号を得るのも時間の問題と言われた、バル・エネス・ソルザードだ。
バルは、冒険者としての職務中に、【戦う為の力】を失って、アーズナーの下を訪れた。
「‥‥あれから、もう二月か‥‥」
顔中に深い皺を刻み、長い白髪を前髪から全て後ろに流し付けた壮年の男性が、鷹の如く鋭い眼を伏せて、静かに呟いた。
既に歳が50台後半に差し掛かったアーズナーは、それでも尚、人種としては最高峰の技術と知識、戦う為の方法をその身に滾らせている。
バルがアーズナーの下を訪ねたのは、一時行方不明だった彼が冒険者ギルドの捜索隊に発見されて、自身の館に帰り付いてから三日後の事だった。
『申し訳有りません、師匠。どうか私に、今一度戦う力を取り戻させて下さい‥‥!!』
一度は巣立った弟子が、戦う力のほぼ全てを失った事は、アーズナーにとっても、とても辛い経験となった。
嘗ての戦乱の最中、戦友達が志半ばで命を落とした瞬間が何度も有ったが、その辛さは同じ位だと言っても過言では無い。
しかし、再び教えを請う元弟子の、力強い双眸は、一度その光を失いながらも、もう一度炎を灯して、姿を現したのだ。
「覚えているか?バル。初めて俺に会いに来た時の事だ」
「覚えています、あの頃は私も、まだ今より若かったですね‥‥」
「剣聖、テヘラフェルト・アーズナー殿!「私は世界を平和に導く為に、戦う力を得なければなりません!!」」
バルが数年間の修行の間、何度もからかわれた、初対面での一言だ。
「そして、お前の語る夢を聞いて俺が「大それた夢を抱いた貴族のボンボンが、自惚れるな!」」
「‥‥フフ」
「‥‥ハッ」
「「ハハハハハハ!」」
再び冒険者として活動を始めようと、戦う力を欲したバルの瞳は、何年かの修行の折、アーズナーが感じた【青さ】は薄れたけれど、新たに【戦士】としての力強さを宿していた。
彼に新たな力が目覚め、真の勇者と呼ばれる存在になるのは、まだ少しだけ、先の話だ。
▼ロ・ルゴナ大陸 セルバ王国 王都スメイ ギルド本部
ギルド長であり兎人族と呼ばれる獣人の、パーロ・フェイン・ネレスは、眉間に皺を刻み、書類と格闘していた。
「でさー、ボクは言ってやった訳よ!『詰らない事言ってないで、サッサと修行しろー!』ってさ」
王国領のみならず、近隣諸国と、周辺の各町、村や集落での、依頼発行の最終確認は、彼女にとってはいつもの事であり、自分でも誇りと遣り甲斐を持って行っている仕事だ。
「そしたらさ、ボクの事を差し置いて、あんなおっさんの所に行くんだぜ?有り得ないよね!」
人々の平和を守り、命を守り、未来を創る仕事である。
近々、各大陸の本部長と
「ねー!聞いてるぅ!?ねーってばー!!」
‥‥本部長と、有る一件への対応について、会談を行う事も決まっていて、書類仕事だけでなく、各大陸内での、ギルドの取り決めも考えなければならない為、特に今は多忙なネレス
「なんだよーーー!無視すん「うるっさいわ!!!!!!」」
が、ついに奔放な友人を、あらん限りの怒気を込めて一喝した。
「なんだよー‥‥、怒鳴る事ないじゃん‥‥」
しょんぼりとその両耳を萎れさせ、代わりに口をとがらせる、エルフの子供
、ロルド・アルゼノ。
「確かに、普段はハンコを押しながらでも君の話を聞いてはいるけれどね、アルゼノ。今は生憎と過去に類を見ない程に、私は忙しいんだよ」
諭す様に奏でれた彼女の声音は、とても優しい物だった。
君の気持も分かるけど。と続けた彼女に、アルゼノは力なく頷く。
歳の割に子供っぽい部分も多いが、素直さも持ち合わせたアルゼノは、困った事が有ると頼ってくる【目が離せない近所の子供】的な印象を、ネレスは感じていた。
彼女のもとに届く大陸内の依頼は多岐に亘り、難易度が高い物は、目の前のアルゼノに解決を願う事も有るので【頼れるパートナー】とも、思っているが。
『ホント、手のかかる子だ‥‥』
「まぁ、どうしても気になるのなら、一度押しかけて見ても良いんじゃないかね?」
「んー、まーねー‥‥。そうだよねー‥‥、って、聞いてんじゃん!」
聞いてないとは言ってないよ。などと返しつつ、おどけるネレスは、からかう様な愛らしい笑みを浮かべて、アルゼノの愚痴に対して、解決策を提案する。
咲き誇る華の笑顔は、とても魅力的だった。
そんなネレスの提案に、アルゼノは大きく頷く。
「‥‥ん!そうだよね!アイツは、ボクが見ててあげないと、どうせまた無茶するに決まってるしな!」
言うが早いか、アルゼノは旅立つ事に決めたらしく、応接用の長椅子から飛び降りて、体を捻った。
「じゃあ、ボクは行くよ!ネレスも、勇者の件、ちゃんと確り片づけてくるんだよ!」
「あぁ‥‥、って、お前!知ってて邪魔してたのか!!ふざけ‥‥もう居ないし!!!!!!!!!!!!!!」
アルゼノと同じ調子で返そうとしたネレスは、食らいつく様に獰猛に牙を剥きだして、大声を上げる。
大地を揺らす大声は、とても破壊的だった。
バルさん久しぶりの登場+彼の身近な人物数名が本編登場です。
書き分けって、結構難しいですね。




