♯23 結界
「やっぱり、死んでなかったですね」
うふふ、と笑いながら、此方を見ている女神の使徒さんの、少し悲しそうな笑顔は、あんな事が有って尚、やっぱり綺麗だった。
▼ルゴナ大森林深部境界付近岩の洞穴
「どうでしょう、改めてお聞きしますが、私達と一緒に、この世界を救って頂けないですか?」
「私の名は、バル・エネス・ソルザード!この洞穴を拠点に、行動していた者だ!」
なんて、呑気に名乗りを上げているソルさんを完全に無視する形で、ネリさんが此方を見つめながら言葉を続ける。
「どうやら無事に行動出来ているみたいで、それは結構なのですが、此方としては、目的を知っている方が助かるんです。私たちの知らないところで強くなってしまうのは、余り嬉しくないですから」
ヤバい、というか、迂闊だった。余りにも。
戦闘行為を立て続けに二回。
それも、魔法や結界等を使いまくった。
僕だけじゃなく、敵も含めて。
しかも、一回の戦闘に数時間という馬鹿さ加減のオマケ付きだとか、笑えない‥‥。
文目さんは、話しかけようにも、魔法の準備をこっそりと進めているようで、余り声を掛けづらい雰囲気だ。
「えぇい、質問に答えろ!まさか、ミシロ殿、この女と知りあいなのか!?」
「知りあいという程では無いですが、命を奪われかけた事が‥‥」
「ならば、私にとっても敵になるな!」
いや、その理屈はおかしい。
嬉しいけど、危ない橋を渡らせる訳にはいかない。
やっぱり、紳士マンの言葉に甘えず、移動してた方が良かった。
みすみす講師を危険に晒してしまう事になるとは‥‥。
腰から片手剣を抜き、ネリさんと僕の間に入るソルさん。
僕が慌てて、ソルさんを中心に結界を構築するのと、ネリさんの掌がソルさんに向けられたのは、ほぼ同時だった。
「煩わしいですね‥‥。終わって下さい」
暴力的なまでの光りの塊が、洞穴の内部を明るく照らす。
熱エネルギーや、科学的な波長等は一切感じられないけれど、僕はこの光を知っている。
何せ数日前、この身に受けた光なのだから。
『文目さんのお陰で、痛みも感じずに気を失ってただけだけどね!』
洞穴内部どころか、恐らく出入り口よりも外に広がる森の夜闇を蹴散らしただろう、劇的な閃光が、収まっていく。
未だチカチカする、涙目を向けると、両手で顔を覆って立ち尽くすソルさんと、興味深そうに此方を窺うネリさんが居た。
「これは、アナタの魔法ですか?」
ネリさんは、笑顔を崩さずに僕に向けて質問をする。
「はい、防御結界魔法です」
本当は魔法じゃ無く、結界だけどね。
それも、二重化した[四編結界]。
何が起こったのか理解できていない様子のソルさんの足元には、一辺が2m程度の正方形が、九十度ずれた形で二つ重なって光っており、そのまま、これまた2m程度の高さまで、光がソルさんの頭上に伸びていた。
名付けて、[二重四編結界 八重単]
『間に合って、というか、結界が保持できて良かった‥‥』
突破されていたら、ソルさんは命を落としていたかも知れない。
目の前で、それも僕のせいで人が死ぬとか、冗談じゃない。
ネリさんは一言、困りました。なんて言っていた。
やっぱり、綺麗な笑顔だった。
■■■
眉根を上げた、困った様な笑顔のままで、ネリさんがゆっくりと目を開いた。
彼女が目を開いた所を見るのは、初邂逅の最後で、僕に閃光を放つ直前だけ。
話の最中は、今も前回も、ずっと目を瞑ったままの、笑顔だった。
ネリさんと目が合った瞬間、背筋に怖気が走った。
それはもう、思考が『ヤバい!』の羅列で埋め尽くされる程の、恐怖を超えた恐怖のようなもので、塗りつぶされる感覚。
うーん。とか、可愛く首を捻っているネリさんが、心底恨めしかった。
「なるほど、レベルも能力値も、だいぶ上がっていますね」
僕が流れない冷や汗の感覚と戦っていると、ネリさんがつぶやいた。
僕のステータスとか、諸々を、無理やり覗いたらしい。
いきなり泡を吹いて倒れたソルさんに、慌てて声を掛ける寸前に、ネリさんが種明かしをしてくれた。
なんでも、ステータスやその他を、余すところなく全て、本人の意思に反して覗き見ようとすると、彼我の能力差によって、こういう事になるそうだ。
「そう、読み取られる側の能力が高ければ、今の私のように、全ての情報を得られずに、防御されてしまうのです」
なんか、上手い事防御できたらしい僕は、倒れたままのソルさんを眺める。
‥‥‥うん、泡吹いて、白目剝いてるけど、呼吸はしてるみたいだし、死んではいない。
不幸中の幸いだ。
「色々分かりました。先ずは、そこの人種から始めましょう」
不幸中の幸いなんて、冗談にもならない冗談だった。
全力の結界を軽々と打ち割り、ネリさんのスキルが、ソルさんに向かう。
僕は全く、何の反応も出来なかった。
復活のネリさん。
イメージとしては、常に笑顔の、優しいお姉さん系女子です。




