♯22 再臨
深く暗い森を、小さな角灯を持って、三十分程歩いた所で、小さな洞穴の入り口に到着した。
「ここから、夜営地である、もう一つの洞穴に転移できます」
時刻は大体18時頃、転移に必要になるMPを回復したソルさんが、此方を振り返り、魔法で移動する事を教えてくれた。
ソルさんの[転影]という魔法は、指定したA地点とB地点を、影を使って移動する事が出来るらしい。
ポイントの指定は、以前この森での活動の際にしていたらしく、まだ使える状態らしい。
あの鬼ごっこが無ければ、そのまま夜営地を新設する事になっていたらしく、これは正直助かった。
一応、ソルさんの所属国[セルバ王国]に招待もされたけれど条件が多く
1-1,入国時に、男爵以上の爵位持ちの客人である事を証明しなければならない
1-2,客人登録後、3日以内に冒険者ギルド本部若しくは、王国付市民会にて、住民登録を行わなければならない
2,王国統治下の属国にて、下級民(奴隷民)登録を行わなければならない
他にも、税金がどうのとか、就労義務とか、獣人や奴隷には厳しい条件が多いらしい。
客人扱いならば、一部は勿論免除されるけれど、周りの目は厳しいそうだ。
これらの条件を考えると、遠慮したい。
ソルさんの冒険者仲間(侍女)が先んじてギルドと市民会に向かってくれたらしいけれど、申し訳ないかな、これは無駄足になったと言わざるを得ない。
ソルさんの所属国だけでなく、この大陸の人種の治める国は、獣人の扱いが良くないらしい。
残念では勿論あるけれど、それならそれで遣り様は有る。
『招待を断ったのは、種族差別が、理由としては大きいけどね』
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ソルさんの所属国が大陸の西側に領地を持つらしい。
北側には[商業都市オベロ]
南側には[自由国家ホプス]
この三国を貫くように、大陸を縦断するのが、街道と呼ばれ、区域毎に番号が振られているらしい。
街道に沿うように、ルゴナ大森林が存在し、その東側には弧を描くように大山脈が聳える。
大陸は南北が大凡1000㎞、東西は、西海岸から山脈麓までが、大凡600㎞で、山脈より東は、ドワーフの小さな集落が各部族にわかれて幾つか存在し、付近の洞窟や地下迷宮等を管理しているらしい。そこからさらに東側は、かなり不確かながら、800㎞はあると、簡単に算出した。
駅馬車が走っているらしく、その速度と、かかる日数等を簡単に計算したのだ。
ドワーフの集落以東については、過去の偉人の旅行記を見た事が有るソルさんの話をもとに、予想した。
因みに、僕達が目指していた集落は比較的低い山の麓にあるらしい。
魔法の転移で、多少遠くはなるだろうけれど、それでも自力で移動できない事は無いはずだ。
いざとなれば、ソルさんにお願いして、この洞穴に戻って来て貰えば良いので、先ずは朝まで、聞けるだけ話を聞こう。
こうして僕は、獣人種の扱い等を鑑みて、ソルさんの招待を断り、大陸の大きさに驚き、この世界の不条理な摂理を不承不承ながら呑み込んで、新しい一歩を踏み出した。
とはいえ、空間に空いた穴を通って、洞穴から洞穴に移動しただけだけど。
▼ルゴナ大森林深部境界付近岩の洞穴
『マズったわね‥‥』
「何者だ!!」
文目さんの不穏な一言。
ソルさんの警戒心Maxな叫び声。
転移直後の洞穴に、光を背負った美しい女性が佇んでいた。
「ご無沙汰しております、魔王候補の成り損ないさん」
ロンネリオ・オルネリア・カーグサス・レイン・コーネリア Lv,10000
[女神の使徒 99]
HP 6500/6500(+999) MP 28980/29000(+999)
攻撃力 ???(+???)
防御力 ???(+???)
素早さ 999(+500)
耐久力 ???(+???)
知力 ???(+???)
魔力 1521(+820)
称号:[召喚する者Lv,230] [救世の使者Lv,211][女神の代行者Lv,193]
魔法:神聖魔法Lv,Max
[不明][不明][不明][不明][不明]
スキル:[不明][不明][不明][不明][不明][不明][不明][不明][不明]
装備:不明
ネリさんが、笑顔を湛えて、優雅に佇んでいた。
『なんでまた、こんなタイミングで‥‥』
彼女の笑顔と、理解の及ばないステータスを眺めながら、僕は心の中で、静かに愚痴をこぼしたのだった。