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召喚師(?)さんが召喚されました。  作者: 平野 笹介
第二部 生存 認識 旅立
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♯14 或る冒険者の受難 二

 街を出て3日目、ルゴナ大森林に沿う形で敷かれている街道を、バルと司祭服の獣人が歩いている。


時刻は昼を過ぎ、一番熱い時間帯。汗だくのバルが、そろそろ夜営の準備を行う旨を、獣人に伝えた。


「はい、ソルザード様。では、(ワタクシ)は水場を探しますね」


涼やかな声に、綺麗な赤毛の獣人は、犬の様な垂耳を頭から生やした、女性司祭で、ネイアという。


もう、何度もバルと呼ぶ事を許しているのに、頑なに「私の様な獣人には、勿体ないお言葉で御座います」と言って聞かない。


 

 他の大陸に存在する国では、獣人は奴隷以下の扱いをされていると聞いた時に、バルはひどく憤慨したものだった。


バルの屋敷にも獣人の召使はいるが、両親は厚待遇で雇い入れ、可能な限りの保障をしていた。


彼にとっては、それが普通であり、多少の身分差はあれど、対等な人間関係を求めていた。


冒険者になったばかりの頃受けた依頼で、ネイアを奴隷商から救出した際に、バルは奴隷を解放する動きを見せ始めた。


自身にとっての隣人が、非道な扱いを受けていると知って、単純に悲しかったのだ。


「ソルザード様、あちらに水場が御座います」


少しぎこちないが、笑顔を向けてくれる様になったネイアに頷き、バルは夜営の準備にかかる。


『願わくば、平和な世界で、皆と平穏な暮らしを‥‥』




▼ルゴナ大森林 5番街道付近 バルの夜営地


「しかし、急に魔物の数が増えたと聞いたが、どちらかというと追い立てられて、街道に姿を現している様に思えるのだが、ネイアはどう思う?」


携行食料を口に運びながら、バルが問いかけた。


「は、私も考えてみたのですが、ソルザード様のご賢察通りではないかと存じます。普段はおとなしい魔物も、攻撃的になっておりましたので」


実際、彼らの冒険は、開始初日から、戦闘が続いていた。


まだ夜の明けきらない時分に街を出発し、街道を歩いていると、子犬程の大きさをした、バッタが(ルゴナ・デナ・コスカスという)飛びかかってきたのだ。


バルからすればごく弱い魔物だが、草食、昼行性の大人しい種で、人に襲いかかる事など無いハズなので、とても驚いたものである。


「では、やはり何か大型の魔物でも生まれたか、進化して大型化したか、どこかから迷い込んだ強大な魔物が棲みついたかも知れんな‥‥」


ネイアは神妙に頷く。


「あー、ところでネイアよ。私からお前に渡したいものが有るのだが‥‥」


「お心遣い、有難う御座います、ですが」

「いや、待ってくれ!私としては、今後もお前たちと進んでいきたいと思っている。そして、その為には、ネイア、お前とももう少し仲良くなりたいのだ」


バルは顔を赤くしながら、細長い木箱をネイアに差し出し、頭を下げた。


「だから、これを受け取り、私の事は、今後、バルと呼んで欲しい。頼む」


バルの言葉と態度に、慌てふためいたネイアだったが、頑として頭を上げないバルに根負けして、プレゼントを受け取る事にした。


涙を流してバルに微笑みかけるネイアに「その首飾りは、護法の効果が付与されている。使ってくれ!」


どうやらとても喜んでくれたらしいネイアに、相変わらず真っ赤な顔で、バルは捲し立てた。


異世界からの闖入者がこの世界に現れる、二日前の出来事だった。



■■■



「つまり、この先に強大な魔物の根城があるということか!」


襲い来る大トカゲ(ルゴナ・ナブ・アゲラ)の波状攻撃を盾で受け流しながら、バルは問いかけた。


「はい、バル様。魔法感知を実行した際、不思議な魔力反応を、森林深部に感じました」


魔法の補助を行いながら、ネイアが答える。


二人の冒険者は、昨夜の出来事を境に、かなり打ち解けていた。


もともと、命の恩人であるバルに対して、敬愛の念を持っていたネイア、主人が頭を、それも自分自身に下げる事態など、自分の意思よりも重い事態であり、ついに呼び方を変えた。


あの後二人は、遅くまで言葉を交わし、周囲を警戒しながら交代で見張りを行い、仲良く夜明けを迎えたのだった。


漸く3体目、最後のアゲラに止めを刺した二人は、治療を行いながら今後の方針を決めていく。


「依頼内容としては、確認されていた魔物も、今ので最後だったな?」

バルの問いにネイアが答えながら、地図を広げている。


「左様です。そして、恐らくこの辺りが、魔物の根城かと‥‥」


地図の中、森林深部の外れ辺りを差すネイアの指を見つめながら、バルは少し考え込んだ。


『恐らく、そこまでの危険は無いと思うが、念の為、ネイアには隠れて移動してもらうか‥‥』


身体能力や知覚能力等、人よりも優れた性質を持つ獣人種ならば、魔法で遣り取りをしつつ、すこし離れた場所でお互い移動を行った方が、この場合は安心できる。


もし何か急な事態が生じた場合、片方が逃げられれば、改善の余地も有るのだ。


勿論、残された方は只では済まない場合の方が多いが、バルの強さは、オウラにかなり近づいている為、余程の存在でなければ、脅威足り得ない。


バルはネイアに、依頼に際して、ギルド支局長から頼まれた「街道での、魔物の発生原因の究明と、可能であれば排除」という目的と、これからの作戦を告げて、行動を開始した。


 こうして、二人の冒険者の内、一人は異世界からの闖入者と出会い、もう一人は冒険者としての生活を終える事になるのだった。

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