♯15 或る冒険者の受難 三
♯11、12と併せて背景時間等を修正しました。
お恥ずかしい限りです(汗
▼ルゴナ大森林深部
バルは、静かな樹海を歩いている。
この辺りの魔物反応は極少数。
森林深部ともなれば人を見つけると襲いかかってくる魔物も増える為、出くわす可能性が低くなるのはありがたい。
実際は、バルを知覚した瞬間、皆、一様に逃げ出していたのだが、森林の状況を鑑みるに、恐らく魔物も極度の緊張状態なのだろう。
もしかすると、戦闘行為自体が、此度の騒動を起こした張本人を呼び寄せる可能性もある。
そう考えると、魔物の行動にも説明が付く。
そうして、街道沿いの森林で戦闘を行った、大トカゲを最後に、二人は戦わずに、森林最深部に、当初の予定よりも早く到着出来そうだった。
お互いの状況に変化が無いかを確認して、二人は森を進んでいく。
▼ルゴナ大森林深部境界付近岩の洞穴
二人が森林の踏査を開始して四日目の夜半。
主の存在しない横穴の奥深くで、二人の冒険者が焚き火を挟んで向かい合っていた。
バルとネイアだ。
ネイアによると、魔法感知を何度か行って、【不思議な魔力反応】が定期的に観測でき、それによって、対象が移動していない事、そして、対象の周囲で起こる魔力反応が、恐らく戦闘(捕食目的)で引き起こされている事が、推測出来るという。
「どうやら、普段は魔力反応を隠し、森に同化するなどして潜んでいるのでしょう」
「つまり、食虫植物の様に根を張って獲物を待ち、魔法を使って餌を捕っている可能性が高いか‥‥」
ネイアの言に納得した感じで相槌をうち、バルが続けた。
バルは思案する。
『このまま朝まで待っても、森林深部は暗いままだ。かと言って、このような時間に、夜闇に紛れる魔物と戦えるだろうか‥‥』
実際、バルと同じ実力、即ち、天才的な剣技と、黒い魔法(バルは闇の魔法と呼んでいる)が行使出来れば、光の届かない地下であろうと、バルの暮らす王国の、国軍一個小隊(30人程度)なら、多少の手傷は受けようとも、戦って勝つ事が出来る。
しかし、今回行動を共にしているネイアは、知覚能力と、司祭としての、森の状況を備に判別出来る能力を当てにする為に付いて来て貰った。
いかな戦闘能力が人種よりすぐれた獣人種といえど、バルとネイアには、隔絶した力の差が存在する。
『私一人で勝てるかは分からない。しかし‥‥』
ここまで来て何もせずに逃げ出しては、街道を使う人々のみならず、いつかは必ず、近隣の村にまで影響が出るだろう。
バルは決心して、作戦説明の為、口を開いた。
■■■
結論から言うと、バルの思い描いた作戦は発動しなかった。
と、言うのも、口を開きかけたバルに、ネイアが鈴の様な声で
「バル様、今までとは違う魔力反応です。魔物と獣人が遭遇し、戦闘を開始した可能性が有ります」
と、進言してきた為っだ。
慌てて冒険者か確認を求めるバルに、ネイアは
「残念ながら、森の声でも、正確な情報は得られませんでした。とても、気配の少ない人型の獣である‥‥、様な気がする。と‥‥」
子供の頃に森で暮らす機会が多いと、司祭になった際に、獣人は固有のスキル[森の声]を使用できる。
実際に、森に息づく精霊などと対話できるのだが、対象が何らかの方法で知覚遮断などを使用していると、得られる情報は、ぐっと少なくなる。
「ネイア、作戦は移動しながら話す、すぐに此処の始末を終え、移動を開始するぞ!」
心優しい主人の一言に、ネイアが笑顔で答えた。
▼ルゴナ大森林最深部
静かに息をひそめる獣人種の女性司祭は、主人の命令を確りと理解している。
「私が一人で対象と接触する」
バルの一言には、流石にネイアも異を唱えたが、彼に死ぬつもりが無い事が分かり一言だけ
「必ず無事にお戻りください」
と伝え、今は[森の声]を聞きながら、敬愛する主人とは少し離れた、木の上で様子を窺っている。
戦闘中の魔物と獣人(?)は、どちらもバル程の強さは、恐らく無く、例え二対一になろうと、逃げきる事は出来るはずだ。少なくとも[森の声]はそう判断しているし、ネイア自身も、バルの途轍もない強さを理解している。
ネイアは、バルが無事に戻ると、ほぼ確信していた。
因みに、そんなバルの作戦はとてもシンプルな物で
1、先ずはバルが一人で様子を窺う。
2、状況によっては加勢する事になるし、場合によっては撤退する事になるが、万一相手が強い場合は、バルが殿を務める。
3、その間に、ネイアが街に戻り、応援を呼んでくる。
という内容だった。
『ネイア、獣人を確認した。恐らく文化圏の者ではないので、保護する。警戒しつつ待機だ』
魔法会話による指示を受け、ネイアは静かに、その身を森に潜めた。




