8-黒龍王
「そこまで怒るなんて、赤龍といったいどんな因縁があるんだ?」
「あやつは、我が年老いて力が減衰したのをいいことに、我の縄張りを奪い取ったのじゃ!」
「住処を追われたってことか……。まあ、気持ちが分からないこともないな」
「あそこには美味い酒が涌き出ている泉があったのじゃ!!」
「酒の恨みか……」
食べ物の恨みは恐ろしいというが、酒好きな黒龍としては末代まで祟ってやるくらいの勢いで恨んでいたりする。
まあ、食べ物じゃなく酒の恨みだが。
「っうか、年老いて力が減衰して負けたんだろ? だったらリベンジしても同じじゃねえか?」
「うーむ……。しかし、我は不老不死になったのじゃろ? だったら、何度も挑戦するまでじゃ」
「何度もって、鮫島みたいなやつだな……」
咲哉は地球にいたころ、負けても負けても何度もリベンジしてきた鮫島のことを思い出していた。
「サメジマとはなんだ?」
「いや、こっちの話だ」
鮫島のことを話してもしょうがないと思いつつ、咲哉はアナライズで黒龍のステータスを確認する。
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【ステータス】
名前:ダークドラゴン
種族:龍族
種別:闇龍
ランク:EX
属性:闇
称号:天災
LV:95
HP:47718/47718
MP:1731/1737
STR:6510(13020)
INT:1930
DEX:1570
AGI:1340
特性:耐肉体(大)・耐闇(大)
STR系スキル:ダーククロウ・ダークファング・ダークテイル・ダークオーラ・ダークスマッシュ
INT系スキル:ダークブラスト・ダークブレス
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咲哉はステータスを見て絶句した。
年老いてこの強さである。
STRが飛び抜けているのは完全に脳筋タイプということであり、何度もリベンジするといい出すのも納得である。
注目すべきは、STRが6510から13020と2倍に増えており、MPが消費されていることだ。
視認できる闘気が体から溢れ出していることを考えると、スキルのダークオーラを使ったと思われる。
STRを2倍に増やすスキルとは何とも役に立ちそうだ。
「えっと……。それより何度もリベンジって、その都度召喚する俺の身にもなってくれよ?」
「うーむ……。やはり迷惑か?」
脳筋なステータスを見なかったことにして話を続ける咲哉。
迷惑といいつつも、実際はそれほど迷惑とは感じていない。
どちらかというと、正直、面倒くさいと思っていた。
鮫島に何度も喧嘩を売られて迷惑していた咲哉としては、自分のせいで赤龍に迷惑をかけるのでは……とも考えている。
「あっ、いいこと思いついたぞ。お前にリベンジする力を与えてやろうか?」
「リベンジする力じゃと? 人であるお前が我に力を与えられるのか?」
人の言葉を話せる高位の龍は、人を自分たちより下の存在とみている。
自分たちが人に力を与えることがあったとしても、人から力を授けられるなんてことは有り得ないと思っているのだ。
「まあ、そう胡散臭そうな顔をするな。俺のお陰で不老不死にもなれたじゃねえか。もし、騙されたとしてもお前に損はないだろ?」
「うむ……。確かにな」
「じゃあ、善は急げで、早速やるぞ。今からお前の名前は『黒龍王・セト』だ!」
咲哉はネームオーダーのスキルを使って黒龍に力を与えたのだ。
黒龍の体はさきほどよりも明らかに大きくなり、鱗が鎧のような甲殻で覆われていく。
「ぐおー! 力がみなぎってくるぞ!!」
咲哉は予想以上の変化に若干戸惑いつつも、アナライズで黒龍のステータスを確認する。
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【ステータス】
名前:黒龍王・セト
種族:龍族
種別:黒龍王
ランク:EX
属性:闇
称号:天災
LV:95
HP:62033/60233
MP:3115/3115
STR:8463
INT:3474
DEX:1884
AGI:2412
特性:耐肉体(大)・耐闇(大)・耐精神(大)
STR系スキル:ダーククロウ・ダークファング・ダークテイル・ダークオーラ・ダークスマッシュ・多重障壁・龍王の貫禄・ダークインパクト
INT系スキル:ダークブラスト・ダークブレス・ダークインフェルノ
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目に見えてステータスは上昇し、耐性に精神が追加されてスキルも増えていた。
ネームオーダーで闇龍から黒龍王に昇格されたのである。
既に不老不死となっているので今は関係ないが1000年ほど肉体が若返っていたりもする。
「我な名は黒龍王・セト! この力があれば赤龍といえど圧倒することができるであろう! 感謝するぞ、人間よ!!」
「俺の名前はサクヤ・カンバヤシだ。人間じゃなく、サクヤと呼んでくれ」
「うむ、サクヤか。今日から我とお前は友じゃ。我も困ったことがあれば協力は惜しまぬぞ」
困ったときの協力は惜しまぬといっても、モンスターサモンで召喚されたセトは咲哉に逆らうことはできない。
そう思いつつも空気を読んだ咲哉はそれに答えるのだった。
「よし! セトと俺は今日から友だ。よろしくな!」
アスナルドに転生して第1号の友達が龍とは……。
憐れなような、名誉のような、何とも咲哉らしい結果といえるかもしれない。