51-モンスターカーニバル
「次の自己紹介はネヴァンだ」
「私は愛染王ネヴァン。サクヤ様が一番愛している女よ。モテモテのサクヤ様に女が寄ってくるのは仕方がないけれど、一番の座を譲る気はないわ! 肝に命じておいて!」
ここまで堂々といい放ったネヴァンであるが、もちろん一番愛してるなどと咲哉がいった覚えはない。
「一番愛してるって、師匠ホントなのかー?」
ラーンの問いに――
「いや……一番愛していると……」
「ホントよ!!」
咲哉が答える間もなく本当だといい切るネヴァンであった。
「セクメトがいちばーん!」
「うにゃ? ご主人様の寵愛を一番に受けているのはネメアにゃ」
セクメトが便乗してくるのはいつものことであるが、意味を理解していなさそうなネメアまでが参戦してくるとは咲哉も予想外であった。
ペット的なプライドでもあるのだろうか。
「うふふ。皆さん、面白いことをいいますわね。ハーレムの序列をはっきりさせる必要があるかもしれませんわね」
いつも余裕そうなヘカーテであるが言葉に妙な迫力を感じさせる。
ハーレムの序列とは、第一婦人とか第二婦人などの座を賭けてという感じであろうか。
「望むところよ!」
ネヴァンは完全に臨戦態勢である。
「ダーリン、リビングをお借りしていいかしら?」
「あっ、ああ……好きにしろ」
これから何が起こるのであろうか……リビングが血に染まらないことを祈るばかりである。
「皆さん、リビングに移動しますわよ」
ヘカーテはネヴァン、ラーン、セクメト、ネメアをリビングへと引き連れて行くのであった。
「サクヤ、あれは大丈夫なのか……?」
修羅場の予感を感じたルチーフェロは咲哉に確認をする。
「知らん! 俺に聞くな!」
そんなことを聞かれても咲哉にも分かるはずがない。
咲哉からすると何が起きるかなど想像することすらしたくないのであろう。
「あの女たちは仲がいいのう。スパルナはいかなくてもよいのか?」
何だかとっても妙な勘違いをしているセトである。
「食べるのが……優先……」
修羅場など関係なしに、食べ物から決してぶれないスパルナであった。
「ここは賑やかなところだな」
インドラがしみじみと何かを噛み締めるようにそういったが、賑やかという表現はどうかと思う。
しかし、迫害されていたインドラには、女性たちの修羅場を感じさせるやり取りでさえ賑やかに感じるほど、ここは温かい世界なのかもしれない。
「賑やかか。インドラ、この城や俺の仲間は気に入ったか?」
「ああ……。悪くないな」
悪くないといいつつ気に入っているインドラであったが、迫害の傷が深いのか素直になりきれないようである。
「ところでサクヤよ。重大発表があるといっていたが、それはいったい何なんじゃ?」
「ああ、それはな、ネヴァンの自己紹介が終わったら話す予定だったんだが、あいつらがリビングに行っちまったからな……まあ、全員そろうまでもうちょっと待て」
咲哉の重大発表が何か興味深いところではあるが、リビングで何が起こっているかのほうが気になるというのは私だけではないだろう。
「親分の重大発表か。確かにそれは気になるな。兄さんにも、想像がつかないのかい?」
オグマはヘカーテたちのことなどまるで気にならないらしい。
「我はこの中で咲哉とは一番付き合いが長いが、全く想像がつかんわい」
「兄さんに分からんなら俺に分かるはずもないな」
そんなこんなでしばらく雑談を続けているとヘカーテたちが宴会場へと戻ってくる。
「ダーリン、お待たせいたしましたわ」
「ああ……」
何があったか気になるところではあるが、聞くのを怖く感じた咲哉は口ごもる。
「サクヤ様。ただいま戻りました」
「……!?」
ネヴァンに声をかけられた咲哉はその顔を見て一瞬にして固まってしまった。
ネヴァンの目が虚ろというか魚の腐ったような目をしていたのである。
「おい! ネヴァン! 大丈夫か!?」
「サクヤ様、私は大丈夫です。ヘカーテ御姉様のお蔭で私が間違っていたことに気が付きました。サクヤ様が誰かを一番愛しているなどと順位を付けるはずがありません。偉大なるサクヤ様はすべからく平等に皆を愛してるおられるのですから」
「あっ、えっと、ヘカーテ……? ネヴァンにいったい何をしたんだ?」
「教育的指導を行っただけですわ」
「そっ、そうか……」
どんな教育的指導が行われたかは怖くてきけない咲哉であった。
言葉使いまで変わってしまったネヴァンの身に何が起こったのか……女五人しか知らない秘め事である。
「セクメトとネメアは大丈夫そうか……。まあ、とりあえず、皆が揃ったということで俺から重大発表がある」
場が静まり返り咲哉に視線が集まる。
飲み食いするのに夢中だったスパルナまで注目していることから、重大発表が何か気になるところらしい。
「これから話すことは俺とお前らだけの秘密にして欲しい。秘密を守れそうもないやつは、いまこの場から離席してくれ」
何だかとても慎重な咲哉である。
いったい何を話すつもりなのだろうか。
「離席せずここに座っているってことは秘密を守れるってことでいいな」
咲哉が最後の確認をすると、ネヴァンの目に光が戻る。
「きゃー! サクヤ様と秘密を共有できるのね! ステキー! さらに深い仲になれるってことね!」
何故だか分からないが、すっかりいつものネヴァンに戻っていたのであった。
「まあ、そうだな。俺の秘密を話すわけだから、さらに深い仲になるともいえるな」
「ほほう……。サクヤの秘密か。それは非常に興味深いのう」
「親分の秘密……それな気になるな」
「とうとう、サクヤのモテる秘密が明らかになるのか!」
頭の悪そうなルチーフェロは気にしないでおくことにする。
「お前らは輪廻転生って知ってるか?」
「りんねてんせいー! 漫画で出てきたー!」
「うむ。確かに漫画に出てきたのう」
「私も聞いたことがありますわ。コッパヤシ教の教えで、魂は生まれ変わり死に変わりを繰り返していると……」
コッパヤシ教とは変な名前の宗教であるが、アスナルドにも輪廻転生という考え方はあるらしい。
「その通りだ。死ぬと霊界で300年間修行をして、再び生まれ変わってくるといわれている。しかし、記憶をなくして生まれ変わるから、このことを知らないやつが多いわけだ」
難しい話となり、ネメアは黄金の林檎でじゃれ始めた。
猫の頭では理解に追い付かないらしい。
「しかし、俺は特別でな。死んだあと霊界で300年間修行なんてしていないし、前世の記憶もある。地球という世界にいた俺は死んですぐアスナルドに生まれ変わってきたわけだ」
「なんじゃと!? 漫画でよくある異世界転生ってやつではないか!」
「その通りだ」
「お兄ちゃん、すごいー!」
話すべきか悩み思いきって打ち明けた咲哉であるが、内容を理解できたのは漫画をよく読むセトとセクメトだけであった。
その様子を察した咲哉はさらに噛み砕いて説明をする。
「まあ、分かりやすくいうとだな。全く別の世界から俺はアスナルドに転移してきたってことだ。正しくは転移というより転生なんだがな」
意味は理解したが突拍子もない話に頭が追い付かない一同である。
「転生人……。やっと意味が分かりましたわ」
ヘカーテは識別の魔眼で咲哉のステータスを確認していたので、転生人ということは知っていたのだが、その意味が分からなかったのである。
咲哉の告白でやっと転生人が何かを理解したのであった。
「さすがは親分だ。別の世界にいたからこそ別格の強さだったわけですね」
それはまるで関係ないのだが、咲哉はオグマの勘違いを正すつもりはないようである。
「サクヤがモテモテな理由は別世界の知識か?」
モテモテから離れられないルチーフェロは華麗にスルーされる。
「私はサクヤ様が別世界から来ていたとしても変わらず愛し続けるわ! この愛は次元すらも越えるのよ!」
重い……重いぞ、ネヴァン。
次元を越える愛なんて漫画やアニメの世界だけにしていただきたい。
「見たことない食べ物ばかりだったのは……別世界の食べ物だったから……」
食べ物が絡むと饒舌になるスパルナである。
話はきちんと理解していることから鳥であっても鳥頭ではないようだ。
「まあ、お前らが思うところは色々あると思うが、質問はあとから個別にしてくれ。重大発表は他にもあるからな」
転生の話を打ち明けた咲哉が他に発表する重大なことといえば、神から授かった世界を平和にする使命であろうか。
「俺たち11人はおそらくアスナルドの中でも最強クラスの部類に入るはずだ。そこでこの11人で暴走族を結成することにする!」
いつかはやると思っていたが、とうとうモンスターを引き連れて暴走族を結成するようである。
田舎ヤンキー的発想の極地といえよう。
咲哉は興奮気味であったが、それに反して場はしーんと静まり返っていた。
「どうしたお前ら? ん? ひょっとして暴走族を知らないのか!?」
アスナルドにバイクは存在しない。
山賊や海賊はいるが、バイクや車を無秩序に走らす暴走族など、当たり前の如く存在していなかった。
「我らが最強なのは分かる。しかし、ぼうそうぞくを結成とは何じゃ?」
「ダーリンには申し訳ありませんが、私もぼうそうぞくは知りませんわ」
「親分! 申し訳ありません! 俺も知りません……」
「暴走族を知らんとは、仕方ねえやつらだな。じゃあ、明日の昼までにこれを読んで勉強しておけ」
咲哉が世界構築スキルで作り出したのは、『旋風伝説ぶっこみのオタクちゃん』という漫画であった。
この漫画はヤンキーからこよなく愛されており、勘違いからオタクが不良の吹き溜まりである高校に編入し、暴走族の抗争に巻き込まれていくという内容である。
全二十七巻を10セット作り出した咲哉は各メンバーへ自ら配っていくのであった。
「暴走族のことを知らんお前らにいってもピンとこないかもしれんが、チーム名も既に考えてある。俺たちが結成する暴走族の名前は、¨モンスターカーニバル¨だ!」
「おおっ! 格好いい名前じゃのう!」
「さすが親分! 素晴らしい名前です!」
セトとオグマは名前が格好いいと思ったのか大絶賛である。
「モンスターカーニバルか。サクヤはいいネーミングセンスをしているな」
「確かに、いい名前だ」
ルチーフェロとオグマまで絶賛するとは意外であったが、男連中には受けのいい名前なのかもしれない。
「気に入ってもらえたようで何よりだ。実は一番重大な発表がまだ残っている……」
一気に静まり返った宴会場で咲哉から最後の重大発表がされる。
「俺たちモンスターカーニバルは世界を統一する!」
まさか世界を統一するといい出すとは誰も想像していない衝撃な発表であった。
さらに静まり返った場でセトが口を開く。
「せっ、世界を統一するじゃと!?」
「そうだ! もっと分かりやすくいえば世界征服だな」
世界を征服するとは……神から授けられた使命の世界平和とはまるで真逆なことである。
いったい何を考えているのであろうか……。




