3-装備品を作る
朝起きて顔を洗い、オートフードメイカーから焼き魚定食を取り出す咲哉。
昨日作った飲食物を作り出す自動販売機型のボックスをオートフードメイカーと名付けたのだ。
オートフードメイカーは、ファミレス以上にメニューが豊富だが、咲哉の食べたことのある物しか作り出すことはできない。
庶民だった咲哉が食べたことのないような高級料理店の味を再現することは無理である。
豊富なメニューといっても、料理の味は咲哉の記憶を再現したものでしかないのだ。
「今日は島を散策するに当たり、必要な装備品の作成か」
しかし、必要な装備品といっても島に何があるのか分からないので、武器や防具以外はいまいちピンとこない咲哉だった。
「とりあえず、島の詳細地図でも作るか」
そういうと世界構築スキルを使用して、島の地図を作り出す。
「これでよしっと。ん!? 待てよ……。これっておかしくないか?」
地図におかしなところは1つもない。
むしろ、かなり詳細な地形を記した地図ができあがっていた。
咲哉がおかしいと感じた理由は、島のことを何1つ知らない咲哉が詳細な島の地図を作り出せたということだ。
よくよく考えると確かにこれはおかしい。
世界構築スキルは、想像することでそれを形にして物を作り出すスキルなのだ。
島のことを知らない咲哉は当たり前の如く島の詳細な地形などを想像することはできない。
それにも関わらず、地図には詳細な地形が記されていたのだ。
「どういうことだ? ひょっとして、想像することだけが、スキルの発動条件じゃないのか!?」
地図を作ったときの状況を思い返してみる。
そのときは島の地形が詳細に記された地図と考えただけだった。
いまいち条件がつかめない。
「まあ、色々と試してみるか」
まずは漠然と想像をして鉄の剣を作ってみる。
続いて、詳細にイメージをしながら鉄の剣を作ってみる。
結果は2本ともほとんど変わらない感じの鉄の剣が作り出された。
「詳細にイメージしてもしなくても同じような鉄の剣か……。ということは」
独り言呟きながら、さらに鉄の剣を作る。
短め、普通、長めのサイズと3本の鉄の剣が作り出された。
「おお! そういうことか!!」
現れた鉄の剣を見て咲哉は歓喜の声をあげる。
咲哉が発見したスキル発動の法則は『言葉だけで鉄の剣が作り出せる』ということだった。
詳細な外観をイメージしなかったとしても、鉄の剣という言葉をイメージするだけで鉄の剣が生み出されたからだ。
「決して壊れず、何でも切れる鞘つきの刀、刀身73センチ、鍔24センチ。世界構築スキル発動!」
咲哉の目の前に1本の刀が出現する。
「やはり、イメージしなくても言葉だけで発動できるみたいだな」
刀を手に取り鞘から引き抜いてみると、白金色に輝く美しい刀身が現れた。
「神々しいというか、何というか、刀身に意識が引き込まれるようだ……」
世界構築スキルを使用して直径30センチほど、長さ1メートルくらいの鉄柱を作る。
そして、咲哉は鉄柱に向けて刀を斜めに降り下ろした。
鉄柱は静かに音をたてながら、滑り落ちていく。
「ヤバイなこの刀は……。いま切ったのは本当に鉄柱だよな?」
まるで豆腐を切るようにたやすく切断されてしまった鉄柱。
地面に転がっている鉄柱をコンコンと叩いて確認してみたが、鉄以外の何物でもない。
気を取り直して、刀を携帯するための刀帯を作る。
刀帯とは刀の差し込み口がついたベルトのことである。
これも刀と同様に決して破損することのない仕様にした。
「あとは服装か。学ランか特攻服のどちらにするか悩むところだな」
咲哉が今着ている服はロールプレイングゲームでいうところの初期装備である旅人の服だ。
ダサいわけではないが特別お洒落というわけでもない。
防御力は考えるまでもないだろう。
「よし。白い特攻服のロングにするか。背中の刺繍は金の登り龍で、文字はとりあえず、異世界上等とでも入れて……破壊不能、火気耐性ってところかな」
特攻服の上下をスキルで生み出す咲哉だが、異世界で背中に登り龍の入った特攻服とか恥ずかしくないのだろうか。
しかも、異世界上等って……。
まあ、日本の漢字で書かれていればこの世界の住人には理解不能であるだろうが。
「思えばインナーも必要か。せっかくだからファンタジーぽいものにしよう」
続いて咲哉が作り出したのは、黒いチェーンメイルだった。
重量は軽く、破壊不能、耐衝撃を備えた優れもののチェーンメイルだ。
このとき、心の中で言葉をしゃべるだけでスキルが発動されることを発見した。
いちいち『世界構築スキル発動!』などと叫ばなくてもよいのだ。
こんな簡単なことを神が教えないとは、いい加減だったのか、基本的な使い方しか教える必要がないと思ったのか……謎である。
咲哉は早速チェーンメイルを着込み、特攻服のズボンを履き、上着を羽織ってみる。
「あっ、特攻服用のブーツも必要か」
今履いている靴では特攻服に似合わない。
やはり、見た目は大切である。
友達に『その靴、変じゃね?』なんていわれたくない。
まあ、島に一人置き去りの咲哉に友達なんていないのだが。
「せっかくだから、ちょっといいブーツにするか」
咲哉は黒いブーツを作るのだが、これがとんでもない性能になる。
ちょっといいブーツなんてもんじゃない。
破壊不能に速度上昇効果を付けるのは当たり前。
さらに、瞬間移動に空中浮遊効果まで付けたのだ。
もはや何でもありである。
ブーツを履いて簡単なテスト飛行をしてみると、頭で思い描いた通りに空中を自由自在に飛び回ることができた。
まるで思考とブーツがリンクしているような感覚である。
このブーツは、風魔法を体にまとわせることで空中移動を行い、魔法で見えない足場を作って空中を歩行することもできる。
当の咲哉はこんな仕組みを理解してブーツを作ったわけではなく、世界構築スキルの力が空を自由自在に移動できる理想な形を再現したのだった。
瞬間移動のテストでは、城と外を一瞬で行ったり来たりすることのできることを確認した。
1度行ったことのある場所に瞬間に移動できるという仕様だが、こちらも特に問題はなさそうだ。
せっかく空が飛べるようになったので、このまま島を自由に飛び回ってみたい衝動にかられる咲哉だったが、島にどんな生物がいるかも分からないのでさすがに自重をした。
「何か疲れたな。特殊な装備を何個か作ったせいか体がだるい。残りのMPは……」
この世界の住人はMP残量がどのくらいなのかを体の感覚でつかんでいるのだが、咲哉としてはゲームのように数値として判断したいところだった。
そんな理想を再現するために、MP残量を気にしつつも続けて作った物は、フレーム以外は全て透明という不思議な眼鏡。
端から見ると眼鏡をつけていることがまるで分からないくらい完全な透明仕様だ。
この眼鏡を使ってゲームのようにステータスを表示させようとしたわけである。
「この眼鏡を名付けるなら、アナライズスコープってところだな。ん!? 待てよ。アナライズって名前だと解析機能もあったほうがそれっぽいか」
アナライズは分析という意味である。
分析というからにはアイテムの解析機能もあったほうがそれっぽいと咲哉は思ったのだ。
便利だからという理由ではなく、解析機能があったほうがそれっぽい名前ということで機能が追加されたアナライズスコープだが、この先かなり重宝するアイテムとなる。
アイテムの解析はもちろんのこと、この世界に存在する万物全てを解析できるようにしたからだ。
「機能追加はこれでオーケーと、では早速、試してみるか」
ステータスと念じると、アナライズスコープを通して立体的に咲哉のステータスが表示された。
うまくいったと笑みを浮かべてご機嫌な咲哉であったが、あるステータス項目を見て一瞬で顔が怒りに染まる。
「はあ!? なんじゃこりゃ!!」
大きな声を張り上げた咲哉は、いったい何を見て激怒したのであろうか。