23-船と釣竿
「日に当たりながら釣りなんて初めてしますわ」
「つりって、なぁにー?」
「セクメトは釣りをしらないのか。ヘカーテ、説明してやってくれるか? 俺はセトを呼んでくる」
こういうときにセトを呼ばないと確実に機嫌を悪くする。
「我だけ、何故、仲間外れなんじゃー!」
とかいうのが目に浮かぶようだ。
「あいつは仲間外れにすると怒るからな……」
「セトさんってダーリンのお仲間かしら?」
「まあ、そんな感じだ。セクメト、お姉ちゃんにセトがどんなやつか教えてやってくれ」
「わかったー! セトはねー、すぐ怒るのー」
「いや、まあ……確かにすぐ怒るが。もうちょと詳しく教えてやってくれ。とにかく俺は行ってくる。すぐに戻るからな」
そういうと咲哉は城に転移するのであった。
◆ ◆ ◆
「セト! 今から湖に釣りに行くぞ!」
セトは自分の部屋でちょうど漫画を読み終わったところだったようだ。
「釣りじゃと! なんというタイミングのよさじゃ! いまちょうど釣りキチ助平を読み終えたところじゃ」
「ほう、それはベストタイミングだな」
「我にかかれば湖の主など、ちょちょいのちょいで釣り上げられるわ!」
「それは頼もしいな。じゃあ、さっそく行くぞ」
ご機嫌なセトを軽くヨイショして湖と転移する。
釣りの道具は現地調達というか、世界構築スキルでさくっと作る予定の咲哉である。
◆ ◆ ◆
「戻ったぞ。ヘカーテ、こいつがセトだ」
「あら? 怒りっぽいというから、もっと強面かと……」
「誰が怒りっぽいじゃと?」
「うふふ。これは失礼。私がサクヤくんの妻で、セクメトちゃんの姉のヘカーテよ。よろしくお願いしますわ」
「サクヤの妻じゃと? サクヤよ。娶ったのか?」
「そんなわけあるか!ヘカーテ! 勝手なことをいうな!」
「あらあら、照れちゃって、可愛いわあ」
「あー、もういい。セクメト、ヘカーテから釣りのことは教わったな?」
これ以上話を続けると事態がややこしくなると覚った咲哉は、話題を釣りに切り換える。
「おそわったー! つり、楽しそうー!」
「ところで、サクヤよ。釣竿はどこじゃ? 船はあるのか?」
「ああ、釣竿は大丈夫だ。船か、船ねえ……」
釣竿は大丈夫といいつつ、これからさくっと作る予定だったりするのだが、船のことは一切考えていなかったようだ。
船が必要かどうかを考えた咲哉はセクメトとヘカーテに確認する。
「セトは船に乗りたいそうだが、お前らはどうする?」
「私はダーリンに乗りた……じゃなくて、ダーリンと一緒に乗ってみたいですわ」
「セクメトもお兄ちゃんとのるー」
ヘカーテの微妙に危険な発言は聞かなかったことにして、セトの意向を確認する。
「セトはどうする? 一緒の船でいいか?」
「我は一人で乗るぞ!」
普段は仲間外れを嫌がるくせに、こういうときだけ一人で船に乗るというセト。
一人で湖の主を釣り上げて目立つつもりだろうか。
「分かった。ちょっと準備をするから待っていろ」
そういうと咲哉はどんな船を作るか構想を練り出す。
咲哉が乗る船はいいとして、問題はセトのだ。
簡単に操作できるのは必須条件だが、無茶をして事故られても困る。
外見も格好よくしないとセトに文句をいわれるだろう。
しばらく考えた咲哉は――
「よし、お前らこっちにこい。これから湖に船を浮かべる」
そういって、世界構築スキルで二艇の船を立て続けに出現させた。
「おおー! この黒いのが我の船じゃな!!」
「じゃあ、こっちの白い船が私とダーリンの愛の巣になるのねえ」
「ちがうー! セクメトとお兄ちゃんの、あいのすー」
「はあ……。いつもわがままなセトが一番まともに見えるのは気のせいか?」
ぼそっと呟く咲哉に哀愁がただよって見えるのは気のせいだろうか。
咲哉たちの乗る白い船は、地球でいうところの大型クルーザーだ。
全長は14メートルもあり、内装が必要以上に豪華な作りとなっている。
この船は咲哉が地球にいたころテレビ番組で見たクルーザーの内装を元に作られている。
テーブルとソファー、バーカウンターが配置してあるメインサロン。
ギャレー(調理場)付きのラウンジ。
バス、トイレ、洗面台を備えたオーナーズルームに客室が二室。
デッキには釣り上げた魚を入れる生け簀が完備されており、生け簀の中は空間魔法で拡張されている。
大物を釣ったときも万全に対応できる。
黒い船はセト専用船だ。
大きさ内部設備などは咲哉の船と同じだが、船首に龍がついており、セトの好きそうなデザインになっている。
尚、両方の船に魚群探知機はついていない。
何処に魚がいるか自分たちで探す楽しみを優先させたからだ。
「これが船のリモコンだ。1キロメートル以内なら遠隔操作も可能だ。そして、このボタンを押すと船内に自動転送される」
セトに釣竿と玉網、釣り用グローブを渡し、操縦の仕方やその他の細かい仕様を説明した。
そして、各々、船に乗り込む。
「一緒の船に乗る場合は肌を触れていないといけないのでしたわね」
そういうとヘカーテは咲哉を後ろから抱き締める。
「ずるーい! セクメトもー!」
セクメトは咲哉に飛び付き、前から抱き付く格好だ。
「はあ……お前らな。まあ、いい」
そういうと咲哉はリモコンのボタンを押し、船内へと転送するのだった。
「サクヤー! どっちが湖の主を釣るか競争じゃ!」
隣りの船からセトが大声を張り上げている。
「セトー! 大声を出さなくても、無線を使えば普通に話せるぞー!」
といいつつ、咲哉も大声を張り上げて受け答えをしている。
早く無線を使えといってやりたい。
「あっ、そうじゃったな。あー、聞こえるか、サクヤよ」
「あー、あー、聞こえてるぞ。どうぞ」
無線を使うとき、何故人は『あー、あー』といってしまうのだろうか。
謎は深まるばかりである。
「無線というのは便利じゃのう。おう、そうじゃった。サクヤよ。どっちが主を釣り上げるか勝負しようではないか!」
「面白そうだな。しかし、実際に主がいるかは分からん。どっちが大物を釣り上げるか勝負ってことでどうだ?」
「ガッハハハ! 我に勝負を挑んだことを後悔させてやるわ!」
「あらあら、二人で盛り上がって羨ましいですわあ。ぜひ、私も交ぜて欲しいですわねえ」
「セクメトもまぜてー!」
このような流れで四人の釣り勝負が行われることになった。
ここで咲哉が作った釣竿の解説をしておこう。
釣糸や竿、リールなどには全て当たり前の如く、破壊不能の効果が付加されている。
残念ながら世界構築スキルで生き物は生み出せないので、生きた餌は使っておらず、代わりにルアー(疑似餌)を使用している。
実はこのルアーが優れもので、竿に付いているボタンを押すことで、近くに来た一番大きな魚をターゲットに定め、その魚が食べたい餌に変化し、自動的に近付くようになっているのだ。
変化といっても形や大きさが変わるだけではなく、さも生きているかのような幻影を見せる。
しかも魅了の効果まで発動するので、食い付いた魚はルアーから決して逃れることはできない。
魅了の効果を防ぐには、耐魅了か耐精神の特性がないと難しい。
そんな特性を持っているのは一部のモンスターくらいしかおらず普通の魚では有り得ない。
よって、ただの魚が咲哉のルアーから逃れる術はないのだ。
また、ルアーには水深計が付いており、ルアーがどのくらい湖に沈んだかが分かるようになっている。
この釣竿を使えば、魚のいる場所にさえルアーを飛ばせればどんな素人でも釣ることができるだろう。
勝負の勝敗を分けるのは、いかに大物がいるポイントを探し出せるかどうかが鍵になる。
この湖は咲哉たちは知らないが汽水湖である。
汽水湖とは海の水が湖に流れ込んでおり、海水と淡水が混じりあっている湖のことだ。
そのことから、かなり豊富な種類の魚が生息している。
もちろん、大物も多く生息しているので、かなりの釣果が期待できるであろう。
二艇の船はそれぞれポイントを探して移動を始める。
どんな大物が釣れるのか? 湖の主は存在するのか?
咲哉たちが行う釣りが ゛普通の釣り゛で終わるはずはないだろうから、期待は膨らむばかりである。
誰でも理解できるように、なるべく釣り用語は使わないようにしています。
竿じゃなくてロッドだろ! とかの突っ込みはナシの方向で(笑)




