なかま
「どうする? 今日のところは、もう引き返す?」
「いや……」
史の問いかけに、いち早く応じたのは、珠衣と仲良く手をつなぐ望月だった。
その瞳は、前方をまっすぐに見据えている。
貪婪な食欲を大いに示し、廊下の先を、スッポリと飲みくだす暗闇。
ちょうど、口蓋を押しひらいた生物の形容か。
ともすれば、いま、自分たちが踏みしめているものは、紛れもなく“舌”なのかも知れなかった。
これから踏み出す先は、“口内”なのかも知れなかった。
正統的な形容の通りに、口をポッカリと開けて、一同を待ち構える暗闇だ。
それは、一見すると鈍重でしかない。
しかし、その実は、非常に利敏な獣よろしく、忌まわしい目論みをひた隠しにして、ただひっそりと、一同の到来を待ちわびているのだった。
「いや。 ここで引き返すわけにはいかないよ」
用法こそ定かではないが、持参したノートPCを、胸の前でギュッとやる。
そうして、自身を奮い起たせ、内心を鼓舞する。
「うん……! そういうワケにはいかないよ。 ここで引き返せば、望月家の名折れになるもの」
次いで、勇敢でありながら、じつに健気な心中を、望月は有り体に述べた。
「それに……」と、ひとまず前方を注視する作業に見切りをつけて、視線を横合いに向ける。
そこには、ちょうど史をはさむ格好で、二名の幼なじみがいるわけだけど、双方とも、なにやら自分たちの足元を、そろって眺めていた。




