あの頃の8
「よし! 行く? 行こっか?」
「おう!!!」
幼なじみが、彼にしては珍しく上擦った声で吼えた。
余程に緊張しているらしく、いつもの軽妙な雰囲気は微塵も感じられない。
「モッチーちゃん、本当に大丈夫かな……?」
「ん。 危なくなったら、すぐ逃げよう」
他の面子も、かたい表情で林の向こうを見つめている。
なにがあっても不思議じゃない。
ふと違和感を知って、ちょうど林道の入り口にあたる大銀杏に目を留める。
よく肥えた幹の中ほどに、立派な風体の小刀が、ひっそり閑と突き立っていた。
「………………」
各々(おのおの)、言葉すくなに林道を進む。
いかに疎らな木立とはいえ、枝葉が頭上に“こんもり”と茂っているため、身辺は暗い。
前後にあたる外界の明るみが、何十メートルも遠くにあるような錯覚がした。
「あった…………」
「けっこう広いね? やっぱり」
「うん……」
そうこうする内、無数の落ち葉からなる林道が、平らな土の道に切り替わった。
そうすると、お目当ての場所は、すぐ目と鼻のさき。
すっかりのぼせ上がった、夏の大気によるものだろうか。
草のにおいが、いやに鮮烈だったことを、よく覚えている。
饐えた水の臭気も同様で、今でも具に思い返すことができる。
“あの頃の、懐かしい匂い”
そう表せば、たしかに花がある。
けれども、あの思い出は、もっと凄みの効いたものだった。