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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
あらかじめ
4/1823

あの頃の4

その日、閑静(かんせい)な高羽警察署に、朝から血相をかえた男性が飛び込んできた。


わが町のちょうど中心部を、南北方面へ縦断する旧国道。


その沿道に、当該の警察署はある。


“旧”とは言え、他街道から通じる片側二車線の道路は広く、毎日の交通量もそれなりである。


ともあれ、犯罪事件のない当世にあって、警察官の職務といえば、もっぱら交通事情に関するものが多い。


とは言え、個人・個人の交通マナーなど、もはや天井に達している。


ともすれば、かつての繁多な公務は無いに等しく。


一見すると厳格な建物と言えども、その実情は有閑(ゆうかん)の社屋であり、気忙(きぜわ)しさとは無縁だった。


そんな、今日も閑静な警察署に、大慌ての男性が飛び込んできた。


「ひと……! 人が襲われた!!!」


開口一番にそれである。


平和が身に染みついた当代の警察官にとって、初めての事態ではあったが、目立った混乱はない。


他者の生命・財産を(おびや)かす存在に対する場合は、どうすればいいか。


その教育を、蛇足であるとは言えきちんと受けている。


「落ち着いてください。 大丈夫?」


「は……! ひっ!?」


「なにを見たんですか?」


「だから! 人が襲われるのを……!!」


頭を抱えた男性は、その場にペタンと崩れ落ちてしまった。


ひどい恐慌を(きた)している。


受付カウンターを迂回した女性警察官は、真摯(しんし)な態度でこれに応じた。


「それは、知っている人?」


「ちがう! ちがいます!」


「じゃあ、襲った人の特徴は?」


「ちがう!!!」


破鐘(われがね)のような悲鳴が、(ゆる)かしい屋内に、格段の深閑(しんかん)をくれた。


「あの……?」


「ちがう……! ちがうちがう!」


当該の警察官諸氏が、本日の公務に対し、果たしてどういった展望を(いだ)いていたのかは知れない。


恐らくは上記の通り、輻輳(ふくそう)する交通が(つつが)なく運ぶよう、己の責任を重んじようと(はか)る者が多かったろう。


あるいは、浮世(うきよ)(せき)に足止めを食う人間(ヒト)のこと。


昼食は何にするか、もしくは夕飯の内容はと、他愛のない事柄に執心する者も、中にはあったかも知れない。


そんな彼らは、当事者のつづく言葉を経て、正体なく身を慄然(りつぜん)とさせた。


「襲ったヤツは、人間じゃない!!!!」


()くの如しである。


他者の生命・財産を脅かす(やから)は、なにも人間だけとは限らない。

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