あの頃の14
「キョオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!」
先に仕掛けたのは、ザリガメだった。
住処から勢いよく這い出すや、太い節足をせわしく動かして、猪突猛進。
一同のもとへ、やにわに殺到する。
巨大なハサミが晴天を遮り、すぐに大振りの一撃となって打ち下ろされる。
「おぁぁッ!!!!!」
これに対し、脚部をするどく撓らせた穂葉が、体躯を翻した。
見事なトーキックが炸裂し、固い甲殻をまとったハサミの表面に、火花が立った。
巨体が斜めに傾ぎ、あわや横転の危機に見舞われる。
しかし、背中に負った甲羅のおかげか。 安定感はすこぶる高く、この程度では、そうそう腹部を晒しそうにない。
「あはッ!!?」
心底から生じた痛烈な苛立ちを、奥の歯でブチリと咬み殺す。
左のサンダルを楚々(そそ)と引き寄せて、軸足の調子をたしかめる。
「おらぁッ!!!!!」
続けざま、激烈な踏み切りに転用されたそれが、平らな畦道を陥没させた。
強靭な膂力をフルに活用し、並々ならぬ腕っぷしを底上げする。
狂ったように疾走した左拳が、光焔の軌跡をゆらりと描いた。
これを阻んだ真っ赤なハサミ。 延いては、その巨躯が全身で体鳴し、大気を尾長に震撼させた。
この衝撃に、数本の節足が堪えきれずに瓦解。 ズシンと尻餅をつく格好で、ザリガメの異容が後退する。
「よっしゃあッ!!!」
これを勝機と解した穂葉が、勢いよく疾駆した。
夏晴れの田舎道に、点々と白煙が生じるも、すぐさま風色に飲まれ、ゆるやかに立ち消える。
その名残を惜しむように、一際の土煙が爆散し、少女の矮躯が勇躍した。
「ぬんッ!!!」
「ピシャ…………ッ!!?」
弾丸じみた初速を巻きつけた膝頭が、ザリガメの鼻っ柱を打撃。
にぶい膜鳴がして、葦ほどもある触角が、左右に折れ曲がった。
これには、さすがの巨大甲殻類とて、堪ったものではなく。
「ピキ……ッ! ピキャアァァッ!!!」
両の前足で鼻先をかばいつつ、悶絶した。




