決死の場
しかし、この事態も間もなく収束するだろう。
他の者ならいざ知らず、あの神を相手にしておきながら、考えもなく空へ上がったのは拙かった。
あれではいい的だ。
「…………っ!」
見越した通り、虚空を見据える彼の眼に、一点の炎が灯った。
あれは正しく身を灼くような嗜虐心の表れであり、確固たる勝機を目の前にした王者の眼光であろう。
次の瞬間には、彼の口腔から吐き出された灼熱の奔流が、真っ直ぐに空へと駆け上がっていた。
火力を蓄める余暇など、僅僅数秒にも満たぬ。
にも関わらず、尋常ではない威力が、彼の口から迸っている。
併せて、その体躯を起点に発散された熱風が、周囲一帯をむざむざと焼き尽くし、忽ちのうちに地獄絵図を喚んだ。
「──────!!!」
偏に怒りのためか、もしくはかの御一党に対し、赦しを請う目的かは定かでない。
某の口が、意図せず滅茶苦茶に動き、声にならない声を上げた。
而して、この胸中を少しでも汲み上げてくださった結果か。
天を指向した壮絶な火炎は、姫の横合いへ大きく逸れ、雲際の彼方へと消え去っていった。
「…………っ」
否否、これは断じて、当方の切願が効を奏したものではなかろう。
声にならぬ声とは、じつに言い得て妙である。
周囲を占める熱気によって、某の喉はすでに半分ほど潰れている。
いずれにせよ、声がきちんと届いたところで、かの炎の御仁が、他者の言い分を素直に聞き取るとは思えない。
では、果たして何事が起こったのか。
答えはいたって簡潔である。
「待って! 待ってください!! 天國さま!」
満身を投げ出した女官が、まるで大樹に縋りつくかの如き所作で、彼の腰にかたく取り付いていたのである。