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神祇 ─じんぎ─  作者: 高石童話本舗
争いの果て
1348/1823

雪と灰

しかし、姫に大した動転はなく、(ひとえ)に落ち着き払った所作(しょさ)で体躯を運用し、(またた)く間に土手の上部へ移動した。


これをこっ(ぴど)い威勢で追跡した彼は、右腕に渾身(こんしん)の霊威を溜めて搏撃(はくげき)


なだらかに隆起した地相(ちそう)が、砂石(させき)のように崩れ落ちた。


尚も真下から突き上がった火柱が、これらを(ほこり)のように払拭(ふっしょく)し、天を(さす)る大塔と化して佇立した。


「なん……っ!?」


これが次の瞬間には、極太の氷柱(ひょうちゅう)と化しているのだから恐れ入る。


(くま)なく氷に覆われて、燃焼を絶やした焦熱(しょうねつ)の炎。


もとい。 最早(もはや)それらしい火気すら無く、芯から凍てついた徒物(あだもの)が、当の川原にでんと居座るのみだった。


あまりの事にまずは言葉を失うも、二名の姿を(いっ)してなるものかと、なけなしの気胆(きたん)を振るう。


あの二名が争うことは、この世の果てまであってはならぬ事。


これでは穂葉さまに、かの御一党に申し訳が立たん。


いざともなれば仕様がない。 満身に残る最期の力を振り絞り、この五体を仲裁の楯とせねば。


そういった()が覚悟のほどを嘲笑(あざわら)うかのように、二名の死闘はいよいよ激しさを増す一方だった。


片や神聖なる玉鉾。 片や涜聖(とくせい)の鉄拳。 互いの得物を激しく打ち合いながら、混沌たる戦場を縦横に駆け回る。


熱風と寒風が入り乱れ、一帯を剛猛(ごうもう)の覇気が席巻した。


あれでは立ち入る隙がない。


(そも)、一介の兵法者が、それも手負いの身で、あれに割って入ったところで、どうにか出来るものなのかと弱気が湧いた。


「………………」


無闇な闘争を戒める語に、鷸蚌(いつぼう)の争いというものがある。


(しぎ)(はまぐり)が夢中で争っている間に、両方とも漁師の網に掛かってしまったという故事が()われであるが、此度(こたび)はどうだろうか。


彼らの(まなこ)には、依然として互いの姿しか映っていない。


うまく立ち回れば、第三者が介入する余地もまだまだあるかのように(うかが)える。


無理だ。


誘蛾灯に引き寄せられた羽虫は、その羽を容易(たやす)く焼かれ、捕殺されるのみ。


何しろ二名のやり合いは、この多士済済(たしせいせい)の修羅場にあっても尚、主役級の(かがや)きを放っている。


また一人、気を(はや)らせた武人が、灰燼(かいじん)とも氷晶とも付かず成り果て、川原に命を散らした。



「ぬん!!!」


「甘えッ!!!」


烈風の如き鉾先を、弾丸のような機敏さで避けた彼は、当の長柄(ながつか)に腰の辺りをぶつけ、(てい)よく死に太刀を(こしら)えた。


続けざま、握り固めた掌中から逆火(さかび)を噴き、激甚(げきじん)の裏拳を用立てる。


これが姫の横っ面を襲う間際、間近(まぢか)い土中から氷柱(つらら)が幾重にも伸び上がり、彼の腕に(から)みついた。


推力は損なった拳はあえなく停止。


この(かん)に、軽く跳躍して上空に到った姫は、鉾の全幅(ぜんぷく)に清冷の威力を溜めて、これを勢いよく地上へ投擲(とうてき)した。


対する彼は、急いで牙を利用し、手枷となる氷柱(つらら)を食い千切るや、足裏に爆炎を焚いて、大きく横合いへ飛び退(しさ)った。


間一髪ながら、狙いを外した鉾先は、霜降る地表を直撃すると同時に、ありっ丈の霊威を解放。


(たちま)ちのうちに、白色(はくしょく)の分厚い絨毯(じゅうたん)が、当地を(おお)いふさいだ。


巻き添えを食った武人は、果たして何名まで及ぶことか。


もはや、もはや気を回すことさえ、ひどく億劫(おっくう)に思えて仕方がない。

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